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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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101話:奴隷商人

雪が降り始めていた。


白い雪。


都市の石畳へ静かに積もっていく。


それでも街は止まらない。


ゴーレムバスが走る。


ゴーレムトラックが物流を運ぶ。


市場には湯気が立ち、鍋の匂いが広がっていた。


ワイルドボア。


ブラッドウルフ。


アイアンタートル。


巨大鍋から漂う香りに、人々の顔が緩む。


食がある。


仕事がある。


教育がある。


病で死なない。


それだけで人は穏やかになる。


以前なら考えられなかった世界だった。


都市中央。


学校区画。


子供達が雪の中を走っている。


種族は様々。


エルフ。


獣人。


魔族。


ドワーフ。


人族。


誰も気にしていない。


ピーターが苦笑する。


「転ばないでねー!」


孤児達が笑う。


「だいじょーぶ!」


「先生見てー!」


火属性で小さな火球。


風で雪飛ばし。


水で雪像。


以前なら“天才”と呼ばれた力。


今では普通だった。


教育があるから。


環境があるから。


その光景を、遠くから見ている男達がいた。


黒い外套。


汚れた馬車。


鋭い目。


奴隷商人。


彼らは無言で街を見る。


「……おかしい」


一人が低く言った。


「ガキが魔法を使ってやがる」


別の男が吐き捨てる。


「しかも種族混合だ」


「奴隷がいねぇ」


それが異常だった。


この世界では普通、弱者は売られる。


貧困。


病。


飢え。


孤児。


全部が奴隷市場へ流れる。


それが世界の常識。


だがこの都市には、それが存在しない。


孤児院がある。


学校がある。


仕事がある。


だから奴隷が減る。


つまり。


奴隷商人からすれば“敵”だった。


男達は都市へ入る。


市場。


病院。


学校。


全部を見る。


顔色が悪くなっていく。


「なんだここ……」


「病人が少な過ぎる」


「浮浪児がいねぇ」


「女が痩せてない」


「子供の目が死んでない」


それは奴隷商人にとって最悪だった。


絶望がない。


つまり“商品”が生まれない。


広場中央。


演説台。


ミネルバが薬師学校の説明をしていた。


優しい声。


静かな口調。


「治癒は特別な力ではありません」


「人を支える技術です」


周囲の子供達が真剣に聞いている。


奴隷商人の一人が舌打ちした。


「腐ってやがる」


「こんなもん広がったら終わりだ」


本当に終わる。


奴隷制度は“教育がない”から成立する。


読み書きがない。


技術がない。


仕事がない。


だから人は売られる。


しかし。


グロマール都市は逆だった。


教育を与える。


技術を与える。


仕事を与える。


つまり。


“売られない人間”を大量生産している。


奴隷商人達は理解してしまった。


これは単なる理想主義ではない。


商売敵。


しかも最悪の。


都市外れ。


薄暗い酒場。


奴隷商人達が集まっていた。


粗暴な男が机を叩く。


「潰すぞ」


「この都市は危険過ぎる」


別の男も頷く。


「既に南部市場が死に始めてる」


「奴隷価格が暴落してる」


「孤児が流れてこねぇ」


「病人も減ってる」


「農村逃亡者まで減った」


全部、グロマール側へ流れている。


なぜなら生きられるから。


教育があるから。


食えるから。


つまり。


奴隷商人達の利益構造そのものが壊れている。


そこへ新しい男が入ってくる。


高級服。


細い目。


商人ではない。


貴族側の人間。


男が静かに言った。


「利害は一致している」


奴隷商人達が目を細める。


「……何者だ」


男は微笑した。


「均衡を守りたい者だ」


それだけで十分だった。


グロマール都市は広がり過ぎている。


小国が警戒する。


商会が恐れる。


貴族が怯える。


そして奴隷商人が敵視する。


理由は全部同じ。


“今までの世界”を壊しているから。


都市中央。


夜。


セレスが報告書を読んでいた。


「来たわね」


ミレナが顔をしかめる。


「奴隷商人?」


「うん」


セレスは淡々としている。


「予想より早い」


グロマールは静かに資料を見る。


奴隷市場。


失踪者。


違法輸送。


全部が繋がっている。


ジミーが低く笑った。


「分かりやすいなぁ」


「俺達が一番困らせてる相手だ」


実際その通りだった。


物流。


教育。


医療。


孤児保護。


全部が奴隷制度を殺している。


グロマールが静かに言う。


「敵対する理由は理解できる」


ミレナが驚いた顔をする。


「怒らないの?」


「仕組みの問題だ」


グロマールは冷静だった。


「人が売られる世界で利益を得てきた」


「そこへ別の循環が来た」


「なら衝突する」


セレスが頷く。


「問題はここから」


「向こうは壊しに来る」


空気が少し重くなる。


都市は平和だった。


しかし。


世界側は違う。


既得権。


奴隷制度。


貴族支配。


情報独占。


教育独占。


全部が揺れている。


そして揺れる側は、必ず抵抗する。


マイクが拳を鳴らした。


「なら潰すか?」


グロマールは首を振る。


「違う」


「防ぐ」


「人を守る」


それだけだった。


彼は征服者ではない。


支配者でもない。


ただ循環を守る。


それだけ。


ミネルバが静かに呟く。


「怖いですね……」


グロマールが見る。


ミネルバは少し俯いていた。


「優しい場所ほど」


「壊したがる人が来るから」


その言葉に、少しだけ沈黙が落ちた。


誰も否定できなかった。


優しい場所は目立つ。


豊かな場所は狙われる。


それが現実。


だから力が必要になる。


マイク。


軍。


物流。


教育。


全部が必要だった。


グロマールは窓の外を見る。


雪が降っている。


その向こうで、孤児達が笑っていた。


暖かい灯り。


食事。


家。


教育。


それを見ながら、彼は静かに言う。


「離さない」


誰にも聞こえないほど小さな声。


しかし。


その言葉だけで十分だった。


都市の循環は、もう止まらない。


そして。


それを止めたい者達が、世界中から集まり始めていた。







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