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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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98話:物流革命

朝。


都市は既に動いていた。


石畳を走る荷車。


魔導通信。


倉庫整理。


市場。


紡織工場。


農地。


病院。


学校。


軍。


全てが同時に動いている。


そして、その中心にいるのがジミーだった。


都市中央。


巨大物流倉庫。


木箱が山のように積まれている。


紡織品。


保存食。


薬草。


魔石。


金属。


防具。


武器。


調味料。


乾燥野菜。


都市が生み出した物資が、王都へ流れていく。


以前のジミーなら信じなかっただろう。


自分がここまで来るなど。


彼は元々、“要領の良いだけの男”だった。


強い側へ寄る。


損を避ける。


口が上手い。


少しズルい。


それで生きてきた。


グロマールは否定しなかった。


むしろ使った。


だからジミーは育った。


今では都市最大商会の代表。


物流の支配者。


王都の商会ですら逆らえない存在になっていた。


「次!」


ジミーが帳簿をめくる。


商人達が列を作る。


皆、必死だった。


「布を回してくれ!」


「保存食が足りねぇ!」


「薬草の優先権を!」


以前なら、王都商会側が上だった。


今は逆。


供給を握っているのはジミー側。


その後ろにはダグラス商会がいた。


王都最大級。


古参。


巨大。


そのダグラス商会が、今や完全にジミー側へ付いている。


理由は単純。


勝つ側だから。


都市の商品は強い。


品質。


量。


安定供給。


全部が異常。


しかも食料充足率300%超。


飢饉が来ても止まらない。


王都側はもう依存していた。


特に紡織品。


都市製布は軽い。


丈夫。


魔力耐性。


しかも安い。


王都の旧式工房は潰れ始めている。


ジミーは帳簿を見ながら言う。


「紡織品、来月から三%値上げ」


商人達の顔色が変わる。


「ま、待て!」


「高過ぎる!」


ジミーは笑う。


「買わなくてもいいぜ?」


「その代わり、他所に在庫回すけどな」


沈黙。


誰も反論できない。


必要だから。


生活が。


商売が。


もう都市物流無しでは回らない。


ジミーは理解していた。


一気にやると反発される。


だから、じわじわ。


少しずつ。


気付けば逃げられなくする。


それが物流支配。


ダグラス商会長が隣で苦笑する。


白髪の老人。


老獪。


王都でも有名な大商人。


その男が笑っていた。


「恐ろしい若造だ」


ジミーが肩をすくめる。


「弱ぇ側だったからな」


「逃げ道探すのは得意なんだよ」


それが彼の強さ。


弱者視点。


搾取される側を知っている。


だから逆算できる。


どこで相手が苦しくなるか。


どこまでなら耐えるか。


どのタイミングで値上げすれば逆らえないか。


全部読んでいる。


そこへエバが現れる。


美しい。


上品。


柔らかな笑み。


だが、その目は冷静だった。


「貴族達がまた来たわ」


ジミーが吹き出す。


「今度はどんな連中?」


「中央貴族三家」


「かなり焦ってる」


当然だった。


物流。


食料。


布。


薬。


全部を都市が握り始めている。


王都側は既に遅れていた。


エバとジミーは並んで歩く。


王都使節館。


豪華な部屋。


中央貴族達が座っている。


高価な服。


装飾。


香水。


だが余裕は無い。


都市を見てしまったから。


この発展速度を。


中央貴族の男が低く言う。


「物流独占は問題だ」


ジミーが笑う。


「独占?」


「違う違う」


「普通に売ってるだけだぜ?」


貴族の顔が歪む。


反論できない。


都市側は取引拒否していない。


買える。


ただ、高くなるだけ。


しかも品質が良過ぎる。


他で代替できない。


エバが優雅に紅茶を置く。


「王都側にも利益は出ています」


「ダグラス商会の利益率も増加」


「輸送事故率低下」


「保存食腐敗率減少」


「流通速度上昇」


淡々。


数字。


現実。


貴族達は沈黙する。


感情論が通じない。


エバは完全に理解していた。


貴族とは、“自分が上だと思いたい生き物”。


だから正面から潰さない。


気持ちよく座らせる。


そのまま支配する。


中央貴族が低く言う。


「王都側へ工場を作れ」


エバが微笑む。


「技術者教育が必要です」


「最低十年」


貴族が顔をしかめる。


長過ぎる。


エバは続ける。


「教育無しでは再現不可能です」


それが核心。


この都市の本当の強みは商品じゃない。


教育。


だから再現できない。


技術が属人化していない。


循環している。


貴族達はようやく理解し始めていた。


都市は“人”を量産している。


職人。


教師。


薬師。


軍。


物流。


全部。


だから止まらない。


エバは静かに微笑む。


「協力関係は歓迎しています」


「ですが、支配は受けません」


柔らかい。


だが完全拒絶。


貴族達は苛立つ。


しかし逆らえない。


既に依存している。


そこへ食事が運ばれてくる。


今日の昼食。


ワイルドボアの燻製。


ブラッドウルフの香草焼き。


アイアンタートルの濃厚スープ。


焼き立てパン。


紡織班特製の白布クロス。


香りだけで空気が変わる。


貴族達が無意識に喉を鳴らす。


ジミーがニヤつく。


「食うか?」


貴族は最初、嫌そうな顔をした。


魔物肉。


下民料理。


その認識だった。


だが一口食べる。


沈黙。


うまい。


圧倒的。


素材処理。


香辛料。


火加減。


保存技術。


全部が異常。


エバが静かに紅茶を飲む。


貴族達の顔色を見ていた。


完全に落ちた。


理解している。


この都市は、もう止められない。


ジミーは窓の外を見る。


石畳。


物流馬車。


ゴーレム運搬。


市場。


人。


全部動いている。


彼は小さく笑った。


「面白ぇよな」


「昔は、腹減って盗む事しか考えてなかったのによ」


グロマールが静かに答える。


「環境だ」


「人は変わる」


ジミーは少し黙る。


そして笑う。


「ほんと、それだな」


弱者だった男が。


今では王都物流を握っている。


才能じゃない。


教育。


経験。


環境。


積み重ね。


都市は静かに拡大していた。


戦争ではない。


物流で。


教育で。


食で。


人を惹きつけながら。


気付けばもう、誰も逆らえなくなっていた。







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