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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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9話:狩りの革命

朝日が森の輪郭を照らしていた。


冷たい空気。


湿った土の匂い。


遠くで鳥が鳴いている。


リードル村の若者たちは、村の入口に集まっていた。


マイク。


ピーター。


ジミー。


そして数人の青年たち。


全員、緊張している。


今日。


彼らは初めて、“狩り”を変える。


「……本当に行くのか」


年長の村人が呟く。


不安そうな顔だった。


当然だ。


今までの狩りは命懸けだった。


小型魔物一体を仕留めるだけで、死人が出ることも珍しくない。


だから森は恐怖だった。


必要最低限しか入らない。


それがリードル村の常識だった。


しかし今、若者たちは武器を持ち、前を向いている。


その中心にいるのがマイクだった。


「やるぞ」


槍を肩へ担ぎながら笑う。


以前より顔色が良い。


食事。


綺麗な水。


魔力循環。


それだけで身体が変わっていた。


筋肉の動きが軽い。


呼吸が深い。


疲労が残りにくい。


本人が一番驚いている。


グロマールは静かに彼らを見る。


「確認する」


全員が視線を向ける。


「狩りは力押しじゃない」


その声は冷静だった。


「流れを見ろ」


グロマールは森を見る。


「気配」


地面。


風。


音。


匂い。


全部が情報になる。


「囲まれるな。疲れる前に終わらせろ」


マイクが頷く。


「おう」


グロマールはさらに続ける。


「魔力を止めるな」


その言葉に、ピーターが真剣な顔になる。


彼は毎日練習していた。


呼吸。


循環。


少しずつ。


本当に少しずつ。


けれど確実に、自分の中の“流れ”が分かり始めている。


「循環は身体強化になる」


グロマールは自分の腕を軽く握る。


「筋肉。反応。呼吸。全部変わる」


マイクが拳を握る。


実感していた。


以前より動ける。


身体が重くない。


走れる。


それだけで狩りの恐怖が少し減る。


ミレナとセレスは少し後ろで見ていた。


今日は見学だ。


ミレナは腕を組みながら森を見る。


「……本当にやらせるのね」


「やらないと育たない」


グロマールの返答は短い。


「失敗したら?」


「学ぶ」


ミレナは少し黙る。


怖くないわけじゃない。


村人たちは戦士ではない。


農民だ。


失えば村の労働力も減る。


けれど。


グロマールは最初から、“育つ前提”で話している。


その感覚に、まだ完全には慣れなかった。


「行くぞ」


マイクを先頭に、若者たちが森へ入る。


グロマールは少し後ろを歩く。


護衛。


だが手を出す気配はない。


村人たち自身にやらせるつもりだった。


森の中は静かだった。


枝葉が風で揺れる。


踏みしめる土の音。


そして。


「止まれ」


グロマールの声。


全員が動きを止める。


マイクが小声で聞く。


「いるのか?」


「前方。二体」


ピーターにはまだ分からない。


しかし、グロマールは迷わない。


「小型角兎」


角を持つ魔物兎。


肉は食える。


だが角が危険だ。


突進力も強い。


普通の村人なら怪我では済まない。


マイクが槍を握る。


緊張。


呼吸。


そして。


「……流せ」


グロマールの声。


マイクは魔力循環を意識する。


胸の奥。


流れ。


熱。


それを全身へ回す。


すると身体が軽くなる。


視界が少し広い。


呼吸も乱れない。


「行く!」


茂みから角兎が飛び出す。


速い。


だが以前ほど恐ろしく感じない。


マイクは地面を蹴った。


身体強化。


魔力循環。


反応速度が上がる。


槍を突き出す。


角兎が避ける。


その瞬間。


「今!」


グロマールの声。


ピーターが反応した。


震える手。


しかし逃げない。


水属性。


小さな水球。


まだ弱い。


だが角兎の視界へ飛ぶ。


魔物が一瞬怯む。


そこへマイクの槍が突き刺さった。


血が飛ぶ。


角兎が倒れる。


沈黙。


マイク自身が目を見開いた。


「……やった」


本当に倒した。


自分たちで。


グロマールに頼らず。


その瞬間、もう一体が飛び出す。


ジミーが叫ぶ。


「右!」


反応は遅い。


間に合わない。


その時だった。


「風!」


ミレナの声。


空気が揺れる。


風属性。


未完成。


それでも突風が角兎の動きをわずかに逸らした。


マイクが振り返る。


「助かった!」


「前見て!」


ミレナが叫ぶ。


マイクは体勢を戻し、再び槍を構える。


角兎が飛びかかる。


その瞬間。


「土!」


地面が盛り上がる。


ピーターだった。


小さな土の壁。


完全ではない。


しかし魔物の足が止まる。


マイクが踏み込む。


槍が首を貫いた。


二体目も倒れる。


静寂。


森が静かになる。


若者たちはその場に立ち尽くした。


呼吸が荒い。


だが。


生きている。


そして。


勝った。


マイクが笑う。


「……倒した」


ジミーがその場へ座り込む。


「マジかよ……」


ピーターは自分の手を見る。


震えていた。


怖かった。


失敗すると思った。


それでも。


役に立てた。


その事実が嬉しかった。


グロマールが近づく。


倒れた角兎を見る。


「悪くない」


その一言で、マイクが笑った。


「だろ!」


「無駄は多い」


「うっ」


「だが最初なら十分だ」


グロマールは角兎を解体し始める。


血抜き。


皮剥ぎ。


肉の分離。


無駄がない。


村人たちは静かに見ていた。


「覚えろ」


グロマールは肉を切り分けながら言う。


「狩りは倒して終わりじゃない」


骨。


皮。


内臓。


全部使う。


「保存しろ」


グロマールは続ける。


「余れば備蓄になる」


さらに。


「余剰が出れば売れる」


ジミーが反応する。


「商売になる……」


「なる」


グロマールは頷く。


「狩りは食料だけじゃない」


それは村人たちにとって新しい感覚だった。


今までの狩りは、“今日を生きるため”だった。


しかしグロマールは違う。


備蓄。


流通。


加工。


未来を前提にしている。


そこが違った。


ミレナは若者たちを見る。


マイクは興奮している。


ピーターは少し自信を持った顔をしている。


ジミーは既に売値を考えている。


皆、変わり始めていた。


セレスが小さく笑う。


「狩りまで変わるなんてね」


グロマールは静かに森を見る。


「循環が始まれば全部変わる」


その言葉に、ミレナは少しだけ目を伏せた。


村。


人。


食料。


病。


魔法。


全部が繋がっている。


グロマールは最初から、それを見ていた。


帰り道。


若者たちは角兎を抱えて村へ戻る。


その姿を見た村人たちは、最初理解できなかった。


「……狩れたのか?」


「自分たちで?」


驚きが広がる。


マイクは胸を張る。


「当然だ!」


子供たちが駆け寄る。


歓声。


笑い声。


それは以前のリードル村には無かった音だった。


ミネルバが微笑む。


「……増えてますね」


「何が」


ミレナが聞く。


「笑う人」


ミレナは少しだけ黙る。


そして、小さく息を吐いた。


灰色だった村に、少しずつ色が戻り始めていた。







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