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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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8話:魔力吸収

朝霧が森を覆っていた。


リードル村の外れ。


枯れ木の並ぶ細道を、数人の村人たちが歩いている。


先頭はグロマール。


その後ろに、ミレナ、セレス、マイク、ピーター、ジミー。


さらに数人の若者たちが続いていた。


全員、緊張している。


今日は初めて、グロマールが“森の奥”へ連れて行く日だった。


「本当に大丈夫なんだろうな……」


マイクが槍を握り直す。


「怖いなら帰る?」


セレスが淡々と返す。


「怖くねぇ!」


即答だった。


だが額には汗が浮いている。


森は危険だ。


魔物が出る。


だから村人たちは必要以上に奥へ入らない。


食料が不足していても、死ねば終わりだからだ。


グロマールは立ち止まらない。


歩きながら周囲を見ている。


風。


地面。


魔力の流れ。


生き物の気配。


全てを読んでいた。


その姿を見ながら、ミレナは少しだけ眉を寄せる。


「……なんでそんなに分かるの」


「流れを見る」


短い返答。


「魔力は痕跡を残す」


セレスが反応する。


「索敵?」


「近い」


グロマールは地面へ視線を向けた。


「三体」


マイクが周囲を見る。


「どこだ?」


「前方。距離七十」


誰にも見えない。


気配も感じない。


しかしグロマールは即答した。


その直後だった。


茂みが揺れる。


低い唸り声。


灰色の毛並み。


小型魔狼。


三体。


マイクが息を呑む。


「マジかよ……」


普通なら逃げる相手だった。


群れの魔狼は危険だ。


連携する。


噛みつく。


囲む。


農民が勝てる相手ではない。


しかしグロマールは冷静だった。


「見ていろ」


その瞬間。


風が走る。


空気が裂ける音。


圧縮された風刃が、一体目の喉を切り裂いた。


血が飛ぶ。


二体目が飛びかかる。


グロマールは動かない。


水属性。


空中に浮いた水が、一瞬で鞭のように変形する。


水鞭。


高速回転。


魔狼の首へ巻きついた。


締め上げる。


骨が軋む。


呼吸が止まる。


最後の一体が逃げようとした瞬間。


土属性。


地面から石槍が突き上がった。


腹部を貫通。


三体。


わずか数秒。


村人たちは動けなかった。


強すぎる。


しかも魔力の消耗が見えない。


グロマールは静かに魔狼へ近づく。


そして死体へ手を触れた。


次の瞬間だった。


空気が震える。


魔狼の身体から、淡い靄のような光が浮かび上がる。


「……え?」


ピーターが声を漏らす。


靄はグロマールの手へ吸い込まれていく。


流れるように。


自然に。


まるで呼吸の一部のように。


ミレナが目を見開いた。


「今の……何」


グロマールは答える。


「魔力吸収」


沈黙。


村人たちは理解できなかった。


魔力吸収。


そんな言葉、聞いたことがない。


魔力は使えば減るもの。


回復には休息が必要。


それが常識だった。


しかしグロマールは違う。


使った後に取り戻している。


いや、それ以上だった。


吸収した魔力が、そのまま身体の中で循環している。


損失がない。


だから尽きない。


実質無限魔力。


セレスの目が細くなる。


「……化け物」


「技術だ」


グロマールは即答した。


そして魔狼の胸を開く。


そこには小さな赤黒い石があった。


魔石。


魔物の核。


グロマールはそれを取り出す。


「これにも魔力がある」


マイクが近づく。


「そんなもん使えんのか?」


「使える」


グロマールは魔石を掲げる。


「魔物は魔力を取り込み、生きている」


さらに続ける。


「人間も同じだ」


村人たちは静かに聞いていた。


グロマールは魔石へ魔力を流す。


すると内部の光が強くなる。


「循環している」


その言葉と同時に、グロマールは魔石から魔力を引き抜いた。


赤黒い光が消える。


代わりに、グロマールの周囲の空気がわずかに揺れた。


マイクが目を丸くする。


「……吸った?」


「そうだ」


「そんなのアリかよ」


「魔力は流れだ」


グロマールは当然のように言う。


「止まった水は腐る」


井戸の話だった。


村人たちはすぐ理解する。


「流れれば循環する」


グロマールは魔石を見せる。


「魔物も同じだ」


セレスが静かに聞く。


「……それを私たちも?」


「可能だ」


村人たちがざわめく。


マイクが興奮する。


「じゃあ魔力切れしねぇの!?」


「制御できればな」


そこが問題だった。


吸収だけでは危険。


流れが乱れれば身体が壊れる。


だから必要なのが魔力操作。


そして魔力循環。


全部繋がっていた。


グロマールは魔狼の死体を見下ろす。


「魔物は資源だ」


肉。


骨。


皮。


牙。


血。


魔石。


全部使える。


「狩れれば食料になる」


ジミーが反応する。


「売り物にもなるな」


「なる」


グロマールは頷く。


「魔石は価値が高い」


ジミーの目が変わる。


商売人の目だった。


「……どれくらい」


「質次第だ」


グロマールは淡々と続ける。


「保存。加工。流通。それ次第で価値は変わる」


ジミーが静かに笑う。


「面白ぇ」


その横で、マイクが魔狼を見ていた。


「俺たちでも倒せるようになるのか」


グロマールは即答する。


「なる」


迷いがない。


その言葉に、マイクの胸が熱くなる。


今まで、魔物は恐怖だった。


村を奪うもの。


死を運ぶもの。


しかし違う。


技術があれば。


循環があれば。


戦える。


その可能性を初めて知った。


その時だった。


「……グロマール」


ミレナが声をかける。


「何だ」


「なんで、そこまで教えるの」


それは以前から抱いていた疑問だった。


魔力循環。


魔法。


魔力吸収。


どれも普通なら秘匿される。


独占される。


力になるからだ。


しかしグロマールは違う。


全部教える。


隠さない。


その理由が分からなかった。


グロマールは少しだけ森を見る。


静かな風。


魔力の流れ。


生き物の気配。


それらを感じながら答えた。


「一人じゃ限界がある」


ミレナが目を細める。


「だから育てるの?」


「循環を増やす」


その言葉は静かだった。


「強い人間が一人いるより、強い人間が増えた方がいい」


村人たちは黙る。


そんな考え方、聞いたことがない。


力を持つ者は支配する。


奪う。


上に立つ。


それが普通だった。


しかしグロマールは違う。


増やす。


共有する。


循環させる。


そこに迷いがなかった。


セレスは小さく笑う。


「……本当に変な人」


グロマールは否定しない。


その時。


ピーターが小さく手を上げた。


「あ、あの……」


「何だ」


「僕も……できるようになりますか」


不安そうな声。


弱い自分。


泣き虫な自分。


そんな自分でも強くなれるのか。


グロマールはピーターを見る。


その目は逃げていない。


怖がりながらも、前へ進もうとしている。


「努力するならな」


短い返答。


だが、それで十分だった。


ピーターの表情が少し変わる。


嬉しかった。


期待されている。


可能性がある。


それだけで、人は前を向ける。


グロマールは魔狼の死体を収納する。


アイテムボックス。


空間が揺れ、大きな死体が消える。


村人たちはもう驚き切れなかった。


それでも、目を離せない。


この男は常識を壊していく。


水を変えた。


病を減らした。


魔法を教えた。


そして今。


“限界”そのものを壊し始めていた。


森を抜ける風が揺れる。


灰色だった世界に、少しずつ熱が増えていく。


循環は止まらない。


グロマールは最初から、それを知っていた。







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