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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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7話:火が生まれる

冷たい朝だった。


だが、以前のような“死んだ寒さ”ではない。


リードル村には少しずつ人の動きが戻っていた。


井戸へ向かう者。


排水路を整える者。


壊れた屋根を直す者。


子供たちの声も、ほんの少しだけ増えている。


変化は小さい。


それでも確実だった。


村人たちは気づき始めていた。


環境が変わると、人間は動けるようになる。


グロマールは広場で土を触っていた。


乾いている。


栄養が足りない。


しかし完全に死んではいない。


まだ戻せる。


その時、マイクの声が響いた。


「くそっ!」


見ると、少年が地面へ拳を叩きつけている。


周囲には焦げ跡。


小さな黒い跡が残っていた。


ミレナが目を瞬かせる。


「……今の」


セレスも気づいていた。


「熱?」


マイクは悔しそうに頭を掻く。


「なんか出そうだったんだけどなぁ!」


ここ数日。


村人たちは魔力循環を続けていた。


呼吸。


流れ。


感覚。


最初は半信半疑だった。


しかし今は違う。


実際にミネルバとピーターが成功している。


だから皆、本気になっていた。


グロマールはマイクを見る。


「もう一度」


「おう!」


マイクは地面へ座る。


胡座。


呼吸。


だが落ち着きがない。


魔力が乱れている。


グロマールは静かに言う。


「力むな」


「でもよ!」


「流れを止めるな」


マイクが眉を寄せる。


難しい。


身体を鍛えるのとは違う。


殴るわけでもない。


振るうわけでもない。


目に見えない何かを感じる感覚。


それでも、マイクは諦めなかった。


なぜなら彼は知ってしまったからだ。


自分たちにもできる。


強くなれる。


それを。


マイクは目を閉じる。


呼吸。


吸う。


吐く。


胸の奥。


熱。


そこに何かがある。


昨日より少しだけ分かる。


流れている。


身体の中を。


血のように。


風のように。


その時だった。


「……っ!」


マイクの右手から、小さな火花が散る。


パチッ。


ほんの一瞬。


しかし確かに火だった。


周囲が静まる。


マイク自身が目を見開いた。


「出た……?」


グロマールは頷く。


「火属性だ」


その瞬間。


マイクが立ち上がる。


「うおおおおっ!!」


大声が村へ響いた。


子供たちが駆け寄る。


村人たちが集まる。


火。


本物の火属性魔法。


村で初めての発現だった。


マイクは興奮していた。


「見たか!? 見たか今!?」


ジミーが呆れた顔をする。


「うるせぇ」


「火だぞ!?」


「小さいけどな」


「これからデカくなる!」


マイクは本気だった。


その姿を見て、村人たちの空気が変わる。


今まで魔法は“遠い力”だった。


だが違う。


村のガキ大将が、実際に火を出した。


それだけで現実味が一気に増した。


「俺もできるかもしれねぇ……」


「本当に村人でも……」


ざわめきが広がる。


セレスは静かにその光景を見る。


「……早い」


グロマールへ視線を向ける。


「普通、魔法ってこんな簡単に覚えないわよね」


「基礎が無かっただけだ」


当然のような返答。


グロマールは続ける。


「循環が整えば発現しやすくなる」


「それだけ?」


「それだけだ」


セレスは苦笑する。


その“それだけ”が異常なのだ。


王都の魔導院なら、何年もかける。


貴族だけが学ぶ。


選ばれた者だけが扱う。


それを、この男は数日で村人へ教えている。


しかも隠さない。


惜しまない。


共有する。


ミレナがマイクを見る。


少年はまだ興奮していた。


火花程度。


戦えるほどではない。


それでも、彼の顔には希望があった。


「……変わってる」


ミレナが呟く。


「何が」


セレスが聞く。


「皆の顔」


以前なら、村人たちは下を向いていた。


空腹。


疲労。


諦め。


それしか無かった。


しかし今は違う。


目が前を向き始めている。


それが、ミレナには眩しかった。


その時。


「……私もやる」


声の主はミレナだった。


セレスが目を細める。


「へぇ」


「何よ」


「別に」


セレスは少し笑っている。


ミレナは不機嫌そうにグロマールの前へ座った。


「教えて」


「呼吸しろ」


「それは分かってる」


「なら流せ」


短いやり取り。


ミレナは眉を寄せながら目を閉じた。


剣なら分かる。


身体の動かし方も分かる。


だが魔力は違う。


感覚が曖昧だ。


それでも、何となく分かり始めている。


胸の奥。


身体の芯。


そこから流れる熱。


最初は弱かった。


しかし今は、少しだけ感じられる。


流れ。


循環。


グロマールの声が聞こえる。


「止めるな」


ミレナは静かに魔力を巡らせる。


すると。


身体が少し軽くなる。


冷えていた指先が温かい。


呼吸も深くなる。


「……これ」


グロマールが頷く。


「循環している」


ミレナは驚く。


今まで感じたことのない感覚だった。


疲労が少しだけ薄い。


身体が動きやすい。


まるで血流が変わったような。


グロマールは言う。


「魔力循環は戦闘だけじゃない」


ミレナが目を開ける。


「生活そのものを変える」


その言葉に、村人たちが静かになる。


グロマールは周囲を見る。


「身体が動けば働ける」


畑を見る。


「働ければ食料が増える」


井戸を見る。


「水が綺麗なら病が減る」


さらに村全体を見る。


「循環は全部繋がる」


誰も喋らなかった。


だが理解し始めていた。


魔法は“戦う力”だけじゃない。


生きる力でもある。


グロマールは土を拾う。


乾いた土。


痩せた畑。


「農業も変わる」


マイクが聞き返す。


「魔法で?」


「水を流す。土を整える。温度を調整する」


セレスが反応した。


「……農業革命」


グロマールは否定しない。


「収穫量は増える」


ジミーの目が光る。


「どれくらい?」


「環境次第だ」


グロマールは土を指で崩す。


「この村はまだ低い」


そして静かに続けた。


「だが食料充足率150%までは行ける」


村人たちが息を呑む。


意味が分からなかった。


150%。


余るということだ。


この村で。


ずっと足りなかった村で。


余る。


そんな未来を、誰も想像したことがない。


マイクが笑う。


「すげぇな!」


ミレナはまだ信じ切れなかった。


だが、完全には否定できない。


なぜなら。


井戸は変わった。


病人は減った。


村人が魔法を使い始めた。


全部、本当に起きている。


その時だった。


小さな女の子がマイクへ駆け寄る。


「マイク兄ちゃん、もう一回火見せて!」


マイクが得意げに胸を張る。


「任せろ!」


集中。


呼吸。


循環。


そして。


パチッ。


今度は先ほどより大きな火花が生まれた。


子供たちが歓声を上げる。


その光景を見て、ミネルバが微笑む。


「……火って、こんなに温かいんですね」


グロマールはその言葉を聞きながら空を見る。


灰色だった空に、少しだけ光が差していた。


火。


それは小さい。


まだ火花程度。


しかし確かに、村へ熱を生み始めていた。


貧困の村。


病の村。


滅びかけた村。


それでも。


循環が始まれば、人は育つ。


グロマールは最初から、それを知っていた。








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