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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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88話:怖くない

朝の村は、以前より遥かに賑やかになっていた。


石畳。


物流ゴーレム。


通信灯。


市場。


鍛冶場。


冷蔵倉庫。


全部が動いている。


誰かが命令し続けなくても、村そのものが回り始めていた。


それは、グロマールが最初から望んでいた形だった。


支配ではない。


循環。


人が人を育てる。


教育が次の教育を生む。


その結果。


村は、“生きる場所”から“未来を作る場所”へ変わっていた。


市場中央。


朝から異様に人だかりができていた。


原因は一人。


マイクである。


「隊長ー!」


「これ運んでください!」


「マイクさん、ちょっと相談が!」


「昼飯まだですよね!? 一緒にどうですか!」


完全に囲まれていた。


しかも。


美女ばかり。


エルフ。


ドワーフ。


ヒューマン。


魔族。


ダークエルフ。


全種族揃っている。


周囲の男たちが遠い目をしていた。


「また始まった……」


「毎日増えてねぇか?」


「なんであいつ気づかねぇんだ……」


実際、マイク人気は異常だった。


強い。


男らしい。


責任感がある。


さらに。


誰よりも先に動く。


誰よりも前へ出る。


子供を守る。

仲間を助ける。

危険へ突っ込む。


それを全部、本能でやる。


しかも鍛え抜かれた身体。


日焼けした肌。


戦闘スキル覚醒。


女たちが放っておくわけがない。


最初に動いたのはエルフの美女だった。


長い金髪。


整った顔立ち。


色気がある。


彼女は自然にマイクへ寄る。


「昨日の戦い、凄かったわ」


「ん?」


「アースドラゴンを止めた時、皆安心してた」


マイクは頭を掻く。


「そりゃ止めねぇと村潰れるしな」


「そういう所よ」


エルフ女が微笑む。


距離が近い。


かなり近い。


周囲の男たちが死んだ目をしていた。


だが。


マイクは気づかない。


「おう、ありがとな!」


爽やか。


悪気ゼロ。


エルフ女が逆に赤くなっていた。


次。


ドワーフの少女。


小柄。


丸い頬。


可愛げ全開。


彼女はマイクへ包みを渡す。


「……弁当」


「お、マジか!」


「ちゃんと食べて」


「助かる!」


頭を撫でる。


ドワーフ少女が真っ赤になる。


周囲がざわつく。


「天然でやってるぞあいつ……」


「罪深ぇ……」


さらに。


魔族の美女。


黒髪。


妖艶。


彼女は完全に“心酔”していた。


「マイク様」


「様はやめろって」


「命を救われました」


以前、盗賊崩れに襲われた時、マイクが真っ先に助けた女だった。


彼女の目は完全に忠誠のそれだった。


「私は一生、防衛団へ尽くします」


「いや、普通に幸せになれよ」


「マイク様のいる場所が幸せです」


重い。


周囲の女たちが牽制を始める。


マイク本人だけが困っていた。


「なんでこうなるんだよ……」


さらに。


ヒューマンの女。


彼女は真っ直ぐだった。


「私、自警団入りたいです」


「おう」


「あなたみたいに守れる人になりたい」


目が本気だった。


マイクは少しだけ真面目な顔になる。


「……簡単じゃねぇぞ」


「分かってます」


「怖ぇぞ」


「それでもやります」


マイクは少し笑った。


「なら来い」


その瞬間。


彼女の顔が真っ赤になる。


周囲が頭を抱えていた。


「無自覚すぎる……」


そして。


最後。


ダークエルフ。


長身。


褐色肌。


圧倒的な身体。


巨乳。


巨尻。


完全に誘惑型だった。


しかも距離が近い。


かなり近い。


「マイクさん」


「ん?」


「少し休みません?」


腕を絡める。


柔らかい感触。


周囲の男たちが死んだ。


だが。


マイクは真顔だった。


「見回りある」


「少しだけでも」


「いや、今忙しい」


ダークエルフ美女が逆に固まる。


「……え?」


誘惑が効いていない。


完全に効いていない。


周囲の女たちが驚く。


普通なら落ちる。


だが。


マイクは落ちない。


理由は単純だった。


責任感。


守る側。


村防衛隊長。


今の彼は、自分一人の感情で動けない。


それを本能で理解していた。


さらに。


彼は知っている。


この村はまだ途中だ。


平和に見える。


笑っている。


酒もある。


食事もある。


だが。


いつ崩れるか分からない。


だから。


浮かれない。


その時。


遠くからセレスが見ていた。


隣にはミレナ。


セレスが笑う。


「すごい人気」


ミレナは苦笑する。


「本人困ってるけど」


「でも落ちないわね」


それはミレナも分かっていた。


マイクは単純だ。


馬鹿だ。


短気だ。


でも。


責任から逃げない。


だから人がついてくる。


セレスがふと呟く。


「環境って怖い」


「何が?」


「人を変える」


マイクは昔、ただのガキ大将だった。


喧嘩ばかり。


勢いだけ。


今は違う。


人を背負っている。


だから強い。


ミレナは静かに市場を見る。


ピーターが子供へ魔法を教えている。


ミネルバが怪我人を診ている。


ジミーが商人と価格交渉している。


皆、変わった。


教育。

役割。

責任。


全部が人を育てた。


その時。


グロマールが来る。


市場の状況を見る。


マイクが美女に囲まれている。


少し沈黙。


そして。


「……何してる」


マイクが叫ぶ。


「知らねぇよ!」


市場が爆笑した。


セレスが肩を震わせる。


ミレナまで吹き出した。


だが。


グロマールは本当に分かっていなかった。


「防衛団会議、五分後だ」


「おう!」


マイクが即座に切り替える。


美女たちが残念そうに見送る。


それでも。


彼は振り返らない。


仕事を優先する。


それが今のマイクだった。


その背中を見ながら、セレスが笑う。


「怖くないのかしらね」


ミレナが小さく答える。


「怖いと思う」


「でも?」


ミレナは静かに市場を見る。


笑い声。


働く人々。


走る子供。


全部が生きている。


そして。


その中心で、皆が前へ進んでいる。


ミレナは少しだけ笑った。


「もう、一人じゃないから」


風が吹く。


市場の灯りが揺れる。


平和な村の日常。


それは、戦って勝ち取ったものではない。


積み上げて、守り続けた結果だった。







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