表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/322

83話:近い

朝の空気は静かだった。


巨大化した村は、既に一つの都市のように動いている。


物流ゴーレムが石畳を進み、通信機を持った索敵班が巡回する。市場では朝食用のスープが配られ、紡織工房では夜勤班が交代していた。


以前なら考えられない光景だった。


貧困。

飢え。

病。


それが日常だった村は、今や“循環”で動いている。


その中央管理棟の屋上で、ミレナは剣を振っていた。


一振り。


風が鳴る。


以前よりも軽い。


以前よりも深い。


剣聖スキル。


それは単なる技術ではなかった。


身体。

呼吸。

視線。

重心。


全部が自然に繋がる感覚。


ミレナは息を吐く。


「……まだ」


足りない。


もっと強くなりたい。


もっと近づきたい。


その想いが消えない。


後ろから足音がした。


「また朝から?」


セレスだった。


呆れ半分。

感心半分。


ミレナは剣を下ろす。


「落ち着かないの」


「焦ってる?」


少し沈黙。


ミレナは否定しなかった。


「……追いつきたい」


セレスは苦笑する。


「グロマールに?」


「村に」


その答えに、セレスは少しだけ目を細めた。


最初の頃。


ミレナは“自分が守る”しか考えていなかった。


今は違う。


村全体が成長している。


ピーター。

ミネルバ。

ジミー。

索敵班。


皆が進んでいる。


だから焦る。


置いていかれたくない。


セレスは小さく笑った。


「近いわよ」


ミレナが振り返る。


「何が?」


「立ち位置」


セレスは視線を遠くへ向けた。


「最初の頃のあんた、全部一人で抱えてたもの」


ミレナは黙る。


その通りだった。


弱さを見せられなかった。


頼れなかった。


今は違う。


隣に立てる。


少しずつ。


それが、彼女自身を変えていた。


その時だった。


通信機が鳴る。


『北西索敵班より!』


空気が変わる。


『大型反応多数!』


セレスが即座に通信板を開く。


「数は!?」


『五十!』


索敵班の声が緊張していた。


『アーマードリザード群です!』


周囲が静まり返る。


アーマードリザード。


重装甲魔物。


巨大。


全身が硬質鱗で覆われ、普通の矢も魔法も通りにくい。


しかも五十体。


普通の村なら壊滅していた。


だが。


グロマールは冷静だった。


「迎撃準備」


その声だけで、全員が動き出す。


訓練済み。


通信網。

役割分担。

索敵共有。


もう混乱しない。


防衛線。


土属性班が即座に地形操作を開始する。


障害物形成。


誘導路構築。


風属性班が視界共有。


水属性班が後方待機。


ミレナは剣を抜く。


マイクが笑った。


「今度は硬ぇ相手だな」


「砕けばいい」


ミレナの声は静かだった。


以前より迷いがない。


その頃。


北西平原。


地鳴り。


巨大な影が近づいてくる。


アーマードリザード。


全長五メートル級。


重装甲。


岩のような鱗。


さらに突進力が異常。


元王国騎士たちが顔を青ざめさせる。


「……五十って」


「普通は討伐隊案件だぞ」


だが。


村側は既に対策を組んでいた。


グロマールが短く言う。


「正面から壊すな」


通信が走る。


『水属性班、前へ』


次の瞬間。


大量の水が地面へ流された。


水路形成。


さらに。


氷結。


アーマードリザードの進行方向が一瞬で凍り付く。


巨大な身体が滑った。


「今!」


風属性班。


土属性班。


同時拘束。


氷。

土壁。

石杭。


巨体が転倒する。


そこへ。


索敵班が弱点共有。


『目!』

『鼻孔!』

『口内!』


装甲は硬い。


なら柔らかい場所を狙う。


教育された集団は、そこへ迷わず切り替える。


水槍。


高圧水弾。


目へ直撃。


アーマードリザードが絶叫する。


さらに弓兵。


光属性付与矢。


鼻孔へ撃ち込まれる。


内部から破壊。


以前の村人なら思いつかなかった。


今は違う。


考える。


共有する。


最適化する。


それが教育だった。


ミレナが突撃する。


身体強化。


剣聖。


風が爆ぜる。


転倒したアーマードリザードの口が開いた瞬間。


一閃。


光属性付与剣。


喉奥を切り裂く。


巨大な魔物が崩れ落ちた。


周囲が息を呑む。


強い。


だが。


ミレナは止まらない。


次。


また次。


剣が走る。


以前の彼女なら、“強さ”だけを追っていた。


今は違う。


連携を見る。


味方を見る。


戦場全体を見る。


それが、彼女をさらに強くしていた。


マイクが叫ぶ。


「右側押し返せ!」


狩猟班が動く。


側面誘導。


転倒。


集中砲火。


さらに。


索敵班が動きを読む。


五属性索敵。


筋肉収縮。

呼吸。

地面振動。


全部共有される。


結果。


アーマードリザードの突進が機能しない。


巨大魔物相手に、集団が優位を取っていた。


その頃。


後方ではピーターが治療班を指揮していた。


「無理しないでください!」


以前の戦いとは違う。


負傷率が低い。


理由は単純。


連携が完成している。


無駄な被弾が少ない。


それでも、疲労は蓄積する。


ピーターは即座に回復魔法を回す。


光属性循環。


さらに栄養補給。


料理班が即席スープを配る。


全部が繋がっていた。


戦場ですら、循環している。


戦闘開始から一時間後。


最後のアーマードリザードが倒れた。


巨大な身体が地響きを立てて沈む。


静寂。


そして。


歓声。


「勝った!」


「全部倒したぞ!」


元騎士たちが呆然としていた。


五十体。


普通なら都市被害級。


それを、村単位で殲滅した。


しかも。


死者なし。


グロマールは静かに言う。


「解体急げ」


次の瞬間。


解体班が走り出す。


早い。


既に完全分業化されている。


皮。

骨。

牙。

肉。

魔石。


即座に分別。


アーマードリザードの鱗は高級防具素材。


牙は武器加工。


骨は建材補強。


そして。


強力な魔石。


五十個。


周囲がざわめく。


「……全部高純度だ」


ミネルバたち光属性班が即座に浄化を始める。


黒い穢れが消える。


純粋魔力結晶。


ゴーレム動力。


通信設備。


防衛装置。


全部へ使える。


つまり。


敵襲すら、この村では資源になる。


夕方。


市場では既に新しい料理が作られていた。


アーマードリザードの魔力煮込み。


巨大鍋。


長時間煮込み。


さらに魔力循環による繊維分解。


獣人の男が肉を持ち上げる。


「……やわらか」


ほろり。


肉が崩れる。


濃厚な旨味。


脂。


そこへ塩と砂糖が重なる。


ドワーフが酒を吹きそうになる。


「これ酒泥棒だろ!」


市場が笑いに包まれる。


戦いの後とは思えない。


だが、それこそが変化だった。


恐怖で終わらない。


循環へ変える。


資源へ変える。


文化へ変える。


それが、この村の在り方になっていた。


夜。


市場の灯りを見ながら、ミレナは静かに座っていた。


隣へグロマールが来る。


少し沈黙。


そして。


ミレナが小さく言った。


「……前より近づけてる?」


グロマールは少しだけ考えた。


「何にだ」


「皆に」


その答えに、グロマールは静かに村を見る。


笑う子供。

酒を飲むドワーフ。

働くゴーレム。

通信を飛ばす索敵班。


全部が動いている。


そして。


その中心に、ミレナもいる。


「近い」


短い言葉。


それだけだった。


それでも。


ミレナは少しだけ笑った。


最初の頃なら、そんな顔はできなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ