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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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82/322

82話:焦り

夜だった。


酒場街の笑い声が、突然止まる。


次の瞬間。


通信機から鋭い声が響いた。


『北東十五キロ地点! 大量反応!』


市場の空気が変わる。


人々の顔から笑みが消えた。


索敵塔。


その最上階で、索敵班が一斉に魔力を広げていた。


水。

風。

土。

光。

闇。


五属性感知。


今や、この村の索敵班は全員が複数属性運用者だ。


一人の少女が顔を青ざめさせる。


「……多い」


隣の男が震える声を出す。


「数、出るか?」


少女は目を閉じた。


魔力感知を広げる。


地面。

空気。

死霊反応。


そして。


「数千……!」


空気が凍る。


「アンデッド群です!」


通信機が一斉に鳴る。


『全防衛区画、戦闘準備!』

『住民は避難経路確認!』

『狩猟班帰還急げ!』


村全体が即座に動き始めた。


以前なら、混乱していた。


今は違う。


情報網がある。


役割分担がある。


教育されている。


だから動ける。


中央指揮区画。


セレスが地図を広げる。


「反応速度が前回より速い……」


グロマールが静かに見る。


「敵の質が違う」


索敵情報が次々届く。


デスナイト。

デュラハン。

リッチ。

レイス。


以前の雑兵アンデッドではない。


上位個体。


しかも大量。


空気が重かった。


元王国騎士たちの顔色も悪い。


一人が呟く。


「……国が滅ぶ規模だぞ」


それでも。


村は崩れない。


マイクが怒鳴る。


「配置急げ!」


防衛団。

自警団。

索敵班。


全員が動く。


ミレナは剣を腰へ差し、元騎士たちを見る。


「怖い?」


誰も否定しない。


当然だった。


目の前に来るのは災害だ。


死霊騎士軍団。


だが、ミレナは静かだった。


以前とは違う。


もう、“一人で守ろう”としていない。


周囲を見る。


訓練された自警団。


通信機。

魔法障壁。

索敵共有。


皆がいる。


だから戦える。


ミレナは剣を抜いた。


「準備」


その瞬間。


光属性班が動き出す。


大量の武器。


剣。

槍。

矢。


そこへ光属性付与が始まった。


白い光。


浄化魔力。


以前は、一部の神官しか使えなかった技術。


今は違う。


教育された村人たちが普通に使っている。


ピーターが声を張る。


「魔力循環止めないでください!」


治癒師たちが、次々と武器へ光属性を流す。


光付与。


対アンデッド最適化。


しかも。


この村は今や、周辺地域で最も光属性使いが多い。


宗教国家すら超えている。


それが異常だった。


ミネルバが治療班を整える。


「恐怖は伝染します」


彼女は静かに言う。


「だから落ち着いてください」


その声だけで、人々が少し呼吸を戻す。


村の母性。


それは戦場ですら、人を支えていた。


その頃。


北東平原。


黒い波が迫っていた。


デスナイト。


漆黒の鎧。


巨大剣。


その後方には、首無し騎士デュラハン。


さらに。


空中を漂うレイス。


後方には、杖を持つリッチ。


死霊魔術師。


空気そのものが腐っている。


元騎士たちが青ざめる。


「……冗談だろ」


だが。


村側は静かだった。


マイクが笑う。


「数なら前より多いな」


隣の獣人が肩を回す。


「でも今の俺たちならやれる」


そこが違った。


以前は恐怖しかなかった。


今は訓練がある。


実戦経験がある。


そして。


“環境”がある。


グロマールが前へ出る。


「始める」


その瞬間。


防衛線が動いた。


土属性班。


巨大土壁展開。


さらに石槍。


地面から無数の杭が突き上がる。


アンデッド群の前列が吹き飛ぶ。


続いて。


風属性班。


風刃斉射。


空気が裂ける。


レイス群が断ち切られ、悲鳴を上げる。


さらに。


水属性班。


高圧水刃。


氷槍。


デスナイトの脚を凍結。


動きを止める。


そこへ。


ミレナが突っ込んだ。


剣聖。


身体強化。


魔力循環。


踏み込みが見えない。


一閃。


デスナイトの首が飛ぶ。


さらに。


光属性付与。


浄化。


黒い霧が爆散した。


周囲が息を呑む。


強い。


以前のミレナではない。


だが。


本人は満足していなかった。


もっと速く。

もっと強く。


追いつきたい。


グロマールへ。


この村へ。


皆へ。


その焦りが、彼女をさらに押し上げていた。


元王国騎士たちも叫びながら突撃する。


「押し返せ!」


以前なら、アンデッド上位種を前に崩れていた。


今は違う。


光属性武器がある。


連携がある。


恐怖より、役割が先に動く。


その頃。


索敵班は別行動を取っていた。


「いた」


闇属性感知。


影追跡。


水感知。


五属性索敵が、一つの存在を捉える。


森の奥。


黒ローブの男。


死霊術師。


以前のアンデッド事件と同じ魔力波長。


索敵班長が低く言う。


「やっぱりお前か」


男が振り向く。


顔が歪む。


「なぜ見つかる……!」


次の瞬間。


土拘束。


風圧。


影拘束。


水鎖。


完全連携。


男は悲鳴を上げる。


「ぐあっ!?」


索敵班の成長は異常だった。


単なる感知ではない。


発見から拘束までが速い。


教育された集団。


それが恐ろしい。


男は叫ぶ。


「こんな村、存在していいはずが――」


光属性拘束。


沈黙。


索敵班の女が冷たく言う。


「人を死体にする方が間違ってる」


その頃。


戦場は終盤へ入っていた。


リッチが巨大魔法を放つ。


黒い死霊波。


だが。


光属性障壁。


村人たちが同時展開。


防ぎ切る。


リッチが驚愕する。


あり得ない。


辺境の村だ。


なぜこれほど光属性使いがいる。


なぜ連携できる。


答えは単純だった。


教育。


それだけ。


グロマールが静かに手を上げる。


「撃て」


次の瞬間。


光属性斉射。


白い奔流。


数百人規模。


夜が白く染まる。


リッチが消し飛ぶ。


さらに。


レイス群。

デュラハン。

残存アンデッド。


全部が浄化されていく。


そして。


静寂。


風だけが吹いていた。


戦いは終わった。


死霊軍勢数千。


殲滅。


元騎士たちは膝をついていた。


信じられない顔。


「……勝った?」


マイクが笑う。


「だから言ったろ」


村人たちは疲弊していた。


それでも崩れない。


治療班が即座に動く。


補給。

回復。

索敵再確認。


全部が流れるようだった。


グロマールは戦場跡を見る。


大量の高位魔石。


デスナイト級。

リッチ級。


巨大な魔力。


ミネルバが浄化班へ指示を出す。


「慎重に」


光属性班が魔石を浄化していく。


黒い穢れが消え、純粋な魔力結晶へ変わる。


それを見ながら、セレスが呟く。


「……また強くなるわね」


グロマールは静かに答える。


「使えるものは使う」


高位魔石。


ゴーレム動力。


防衛強化。


物流強化。


全部へ回せる。


つまり。


敵の攻撃すら、この村は循環へ組み込む。


それが恐ろしかった。


夜明け。


村へ帰還した人々は、静かに空を見上げていた。


恐怖はあった。


疲労もある。


それでも。


誰も絶望していない。


昔なら違った。


アンデッドは災害だった。


今は違う。


対抗できる。


守れる。


教育された人間たちが、それを証明した。


ミレナは剣を見つめる。


震えていた。


疲労ではない。


焦りだった。


もっと強くなりたい。


追いつきたい。


守りたい。


その想いが、彼女を止めなかった。


そして。


グロマールは静かに村を見る。


人が育っている。


環境が、人を変えている。


その循環は、もう誰にも止められなかった。







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