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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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81話:剣の訓練

朝霧が、訓練場を白く包んでいた。


巨大化した村の東側。


以前はただの空き地だった場所が、今では本格的な軍事訓練区画へ変わっている。


石畳。

模擬壁。

木製防衛塔。

索敵用見張り台。


さらに。


自警団専用の鍛錬場。


そこで響いていたのは、鋼のぶつかる音だった。


「遅い!」


ミレナの声が飛ぶ。


木剣が走る。


一閃。


元王国騎士の男が吹き飛んだ。


「ぐっ……!」


周囲の団員たちが息を呑む。


以前のミレナなら、ここまで強くはなかった。


確かに剣の才能はあった。


だが、限界もあった。


“守ろうとするだけ”だったから。


今は違う。


環境が変わった。


守るべきものが増えた。


そして。


自分一人では守れないと知った。


だから育てる。


教える。


繋ぐ。


それが、彼女自身を変えていた。


ミレナは剣を下ろす。


「もう一回」


元騎士の男が肩で息をする。


「ま、まだやるのか……」


「戦場は待ってくれない」


容赦がない。


周囲の団員たちも既に汗だくだ。


元騎士。

元傭兵。

元兵士。


王国で訓練を受けてきた者たちですら、ついていくのがやっとだった。


その理由は単純。


ミレナ自身が、異常な速度で成長している。


身体強化。

魔力循環。

剣技制御。


さらに。


“実戦を前提にした訓練”。


無駄がない。


美しさのための剣ではない。


生き残るための剣。


だから強い。


元騎士の男が苦笑する。


「……本当に村娘かよ」


隣で見ていたマイクが笑う。


「今さらか?」


ミレナは無視した。


剣を構える。


静かに呼吸する。


魔力循環。


全身へ流れる。


次の瞬間。


踏み込み。


風。


空気が裂ける。


木剣が消えたように見えた。


元騎士の木剣が、真っ二つになる。


沈黙。


団員たちが息を呑む。


ミレナ自身も、一瞬だけ目を見開いた。


グロマールが後方から静かに言う。


「剣聖スキル」


空気が止まる。


剣聖。


王国でも数えるほどしか存在しない最高位剣技スキル。


それが。


辺境の村娘に発現した。


元騎士たちの顔色が変わる。


「……あり得ねぇ」


だが、グロマールは冷静だった。


当然の結果だと理解している。


才能は元からあった。


教育。

循環。

環境。


それが揃った。


だから開花した。


ミレナは木剣を見つめる。


不思議だった。


以前より、身体が自然に動く。


相手の重心。

呼吸。

殺気。


全部見える。


剣が“理解できる”。


ミレナは静かに息を吐く。


「……まだ足りない」


周囲が呆れる。


剣聖になってなお、満足しない。


その姿勢が、団員たちを引っ張っていた。


その頃。


市場区画の料理班では、別の革命が起きていた。


巨大な鍋。


そこから、濃厚な香りが立ち上る。


獣人たちが鼻を震わせた。


「……やばいなこれ」


料理班の女が笑う。


「完成したよ」


ボア肉の魔力煮込み。


大型ボアの肉を長時間煮込み、魔力循環によって繊維を崩す。


さらに。


砂糖。

塩。

香辛料。


それらを組み合わせた新料理。


木匙で肉を崩す。


ほろり。


簡単に崩れる。


獣人の男が口へ入れた瞬間、目を見開く。


「……溶けた」


周囲がざわめく。


柔らかい。


脂が甘い。


そこへ塩味が重なる。


さらに砂糖が肉の旨味を引き立てている。


ドワーフたちが酒を片手に騒ぎ始める。


「酒持ってこい!」


「これ絶対合うぞ!」


市場が盛り上がる。


以前なら、肉料理は保存食だった。


硬い。

臭い。

単調。


今は違う。


料理そのものが文化になり始めている。


その理由の一つが。


塩だった。


地下採掘区画。


土属性班と光属性班が、巨大な地下空洞を見下ろしていた。


白い層。


岩塩層。


周囲がざわめく。


「……マジか」


「こんな規模……」


土属性班が地層を読み、光属性班が精製を行う。


不純物除去。

塩結晶安定化。


さらに。


砂糖黍栽培も成功していた。


砂糖と塩。


それは、この世界では高級品だった。


貴族専用。

神殿専用。


今、この村では大量生産が始まっている。


セレスが報告書を見ながら頭を押さえる。


「……また市場壊れる」


ジミーが笑う。


「壊すんじゃねぇよ」


「支配?」


「そう」


塩は生命維持。

砂糖は嗜好品。


つまり。


“生活そのもの”へ直結する。


保存食。

料理。

酒。

交易。


全部に影響する。


ジミーは目を細める。


「塩を安く流せば、周辺市場全部こっち依存になる」


恐ろしい話だった。


戦争ではない。


生活基盤の支配。


それを、この村は始めていた。


その頃。


訓練場では、ミレナの稽古がまだ続いていた。


元王国騎士たちは既に限界だった。


汗だく。

息切れ。

膝が震えている。


だが、ミレナはまだ立っている。


マイクが呆れた顔をする。


「化け物かよ」


セレスが苦笑する。


「グロマールの影響ね」


「いや、あの人も大概だけどよ」


ミレナは団員たちを見る。


「立ちなさい」


誰も逆らわない。


厳しい。


だが理不尽ではない。


ミレナ自身が、一番動いているから。


そこへ、一人の元騎士が立ち上がる。


「……なぜ、そこまで強くなれる」


ミレナは少し考えた。


そして答える。


「守りたいから」


静かな声だった。


昔の彼女なら、“自分が守る”と言っていた。


今は違う。


皆で守る。


そのために、自分が先頭へ立つ。


環境が、彼女の在り方まで変えていた。


夕方。


村全体が、香りに包まれていた。


酒。

煮込み。

焼き肉。

果実。


市場では笑い声が響き、酒場ではドワーフとエルフが口論している。


獣人の子供たちが走り回り、魔族の老人が静かに酒を飲んでいた。


豊かだった。


それは贅沢とは違う。


“安心”だった。


明日も食べられる。

病で死なない。

奪われない。


だから、人は笑える。


ミネルバは治療院の窓から、その景色を見ていた。


「……変わりましたね」


隣のピーターが頷く。


「はい」


昔、この村は貧しかった。


病で死ぬ人もいた。


食べ物も足りなかった。


今は違う。


教育。

農業革命。

物流。

保存技術。

魔法循環。


全部が繋がっている。


そして。


人が変わり始めている。


夜。


グロマールは市場を静かに歩いていた。


酒場の笑い声。


訓練場の掛け声。


工房の火。


全部が動いている。


循環している。


そこへミレナが来る。


少し疲れた顔。


だが、以前より柔らかい。


「……疲れた?」


グロマールが聞く。


ミレナは少しだけ笑った。


「少しだけ」


以前なら、絶対に弱音を見せなかった。


今は違う。


頼れる環境がある。


支えてくれる人がいる。


だから、人は強くなれる。


ミレナは市場を見る。


「本当に変わったわね」


グロマールは静かに頷いた。


「まだ変わる」


その言葉通り。


この村は、もう止まらなかった。







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