表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

316/322

314話:家族国家

共和国中央統計院。


深夜。


巨大な魔導盤に、

数字が浮かび上がっていた。


人口増加率。


出生率。


死亡率。


平均寿命。


農業生産量。


教育修了率。


治療成功率。


共和国という国家は今。


感覚ではなく。


数字で文明を管理していた。


統計院官僚達が、

静かにざわつく。


「……また増えてる」


「出生率、前年同期比を超えました」


「北方同盟側も上昇しています」


「乳幼児死亡率さらに低下」


「飢餓死亡、ゼロ継続」


誰かが呟く。


「本当に……世界が変わったな」


共和国成立前。


子供は“不安”だった。


食料が足りない。


冬を越えられない。


病で死ぬ。


働き手が減る。


貧困が増える。


だから。


子供が増える事を、

喜べない時代があった。


でも今。


共和国は違う。


食える。


死なない。


教育ある。


治療ある。


未来がある。


だから人々は、

ようやく理解し始めていた。


“家族を持てる”


それ自体が、

文明なのだと。


翌朝。


共和国中央市場。


朝から人で溢れていた。


北方産果実。


南方野菜。


共和国小麦。


保存肉。


乳製品。


干物。


香辛料。


共和国物流網によって、

全地域物資が流通している。


しかも。


安い。


共和国農業革命。


土壌改良。


魔力循環農法。


水属性灌漑。


寒冷地栽培。


保存技術。


物流革命。


全部積み上げた結果。


食料充足率750%超。


もはや共和国は、

“飢える可能性”そのものが激減していた。


市場の母親達が話している。


「最近また子供増えたわよねぇ」


「分かる」


「中央区だけでも凄いわ」


「昔じゃ考えられないわよ」


老婆が苦笑する。


「昔は子供産んでも、

生き残れるか分からなかったからねぇ」


空気が少し静かになる。


共和国以前。


誰もが知っている。


飢餓。


病。


凍死。


崩壊。


王国時代。


人は多かった。


でも。


“育たなかった”。


未来が無かったからだ。


その時。


近くを子供達が駆け抜ける。


「先生ー!」


「今日訓練あるー!?」


マイクが後ろから怒鳴る。


「走るな馬鹿共!!」


でも子供達は笑っている。


恐怖ではない。


安心した笑顔。


マイクは頭を掻きながら市場へ座る。


商人が笑う。


「また増えたな」


マイク。


「そりゃ増えるだろ」


「飯あるし」


「死なねぇし」


「学校あるし」


「仕事あるし」


全部当たり前みたいに言う。


でも。


その“当たり前”が、

昔は存在しなかった。


市場の男が呟く。


「共和国ってよ」


「結局そこなんだろうな」


「戦争強ぇとかじゃねぇ」


「普通に家族作れる」


「それが一番ヤバい」


マイクが笑う。


「ようやく人間らしくなっただけだろ」


中央教育区。


授業中。


教師が子供達へ教えている。


読み書き。


算術。


歴史。


農業。


魔力理論。


共和国教育は、

既に義務教育段階へ入っていた。


貴族限定知識は、

消えた。


平民。


孤児。


元奴隷。


全部学べる。


教室後方。


ピーターが授業を見ていた。


静かな視線。


その横。


ミネルバが子供達を見守っている。


以前より少し柔らかい服装。


子供達が妙に気を遣っていた。


「先生座って!」


「無理しちゃ駄目!」


「重い物持っちゃ駄目!」


ミネルバが困る。


「そこまでしなくても大丈夫です」


でも。


子供達は真剣だった。


共和国孤児達は知っている。


ミネルバは、

ずっと自分達を守ってきた。


だから今度は、

自分達が守る番だと思っている。


ピーターが苦笑する。


「完全に母親扱いですね」


ミネルバが真っ赤になる。


「やめてください……」


でも。


嫌ではなかった。


窓の外。


共和国の街。


学校へ向かう子供達。


働く大人達。


工場。


農地。


全部動いている。


そしてその中心には。


“生活”があった。


共和国は。


戦争国家ではない。


略奪国家でもない。


循環国家。


人が生き続けられる構造。


それを作ろうとしている。


中央工業区。


巨大紡織工場。


機械音が響く。


女性労働者。


元農民。


元孤児。


元奴隷。


皆働いていた。


共和国では。


女性が働ける。


教育も受けられる。


治療もある。


産休制度まで整備され始めている。


旧時代では、

考えられない事だった。


工場責任者が報告する。


「出生率上昇に伴い、

衣料需要増加」


「幼児向け生産ライン拡張します」


隣の技師。


「共和国、

本当に人口爆発入りそうですね」


責任者。


「そりゃそうだろ」


「安心して子供産めるんだから」


その言葉が、

共和国の本質だった。


夕方。


中央行政区。


セレスが報告書を読んでいる。


出生率推移。


住宅申請。


保育施設。


教育予算。


全部増えている。


セレスは小さく息を吐く。


「……凄い時代ね」


隣のジミーが笑う。


「俺らが作ったんだろ」


セレス。


「そうだけど」


「未だに実感ないのよ」


共和国は。


もう“生き残る国家”ではない。


“増えていく国家”になっている。


その時。


グロマールが入室する。


静かな足音。


相変わらず表情は薄い。


ジミーがニヤつく。


「おう共和国の父親」


セレスが吹き出す。


グロマール。


「馬鹿な事言ってる暇あるなら働け」


即答。


昔の口調だった。


余計な感情を乗せない。


でも。


必要な事は全部やる。


セレスが少し安心した顔をする。


グロマールは統計を見る。


出生率上昇。


乳幼児死亡率低下。


住宅不足予測。


医療需要増加。


全部確認。


数秒。


「保育区画増設」


「北方側にも教育施設追加」


「医療人材育成速度上げる」


「十年後に人口増加ピーク来る」


ジミーが苦笑する。


「やっぱそこから入るのかよ」


グロマール。


「当たり前だ」


「増えるなら支える」


「支えられない国家は崩壊する」


短い。


でも。


そこに共和国思想が詰まっていた。


支配じゃない。


循環。


生まれる。


育つ。


学ぶ。


働く。


支える。


また次世代が生まれる。


国家が続くとは、

そういう事だった。


夜。


共和国中央住宅区。


家々から灯りが漏れる。


食卓。


笑い声。


子供。


夫婦。


普通の生活。


それを。


昔の世界は、

持てなかった。


北方では冬に死んだ。


王国では飢えた。


帝国では搾取された。


教育は貴族独占だった。


でも共和国は違う。


人が未来を持てる。


だから。


家族が増える。


窓際。


グロマールが共和国を見ていた。


後ろからミレナが来る。


少し膨らみ始めた腹部へ、

自然に手を添えている。


ミレナが小さく言う。


「……変わったね」


グロマール。


「ああ」


それだけ。


でも。


十分だった。


ミレナが街を見る。


「昔はさ」


「子供なんて怖かった」


「守れるか分からなかったから」


グロマールは答える。


「今は違う」


短い。


確信だけがある。


ミレナが笑う。


「うん」


共和国の夜は暖かかった。


それは。


魔導灯の熱じゃない。


人が。


未来を信じ始めた熱だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ