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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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313話:ミネルバ

共和国中央孤児院。


朝。


子供達の笑い声が響いていた。


木造だった建物は、

今では土属性建築と石材技術によって拡張され、

巨大な教育・保護施設へ変わっている。


暖房循環。


浄水設備。


治療室。


食堂。


教育区画。


遊技場。


共和国は今。


孤児を“生き延びさせる”だけではなく。


“育てる”段階に入っていた。


食堂では、

朝食が配られている。


温かいスープ。


焼きたてのパン。


卵料理。


保存果実。


北方同盟から届いた干し果物まで並んでいた。


昔なら。


貴族でも毎日食べられない内容。


子供達は当然のように食べる。


それを見守るのが。


ミネルバだった。


白衣姿。


優しい笑顔。


でも。


その奥には芯がある。


孤児達は知っていた。


ミネルバ先生は怒る時、

本当に怖い。


間違った事だけは、

絶対許さない。


だから。


子供達は彼女を恐れていない。


信頼していた。


「先生ー!」


「おかわり!」


「はいはい」


「ちゃんと噛んで食べてくださいね」


ミネルバが微笑みながら配膳する。


共和国中央医療院。


共和国教育院。


孤児保護制度。


彼女はずっと、

“母親役”をやってきた。


でも。


本人は、

それを特別な事だと思っていない。


目の前に困っている子供がいた。


だから助けた。


ただそれだけだった。


その時。


ふらり。


ミネルバの身体が揺れる。


「先生?」


近くの少女が慌てる。


ミネルバが椅子へ手をつく。


少し顔色が悪い。


子供達がざわついた。


「先生!?」


「大丈夫!?」


ミネルバは笑おうとする。


「大丈夫ですよ」


「少し立ちくらみしただけです」


でも。


その時。


食堂入口。


ピーターが現れる。


診療鞄を持ったまま、

完全に顔色が変わっていた。


「ミネルバさん」


「ちょっと診察します」


子供達が一斉に静かになる。


ピーターは共和国最高峰の治癒師。


子供達も理解していた。


本気の時のピーターは、

絶対に逆らってはいけない。


ミネルバが苦笑する。


「そんな大げさな……」


ピーター。


「違います」


「何となく分かります」


ミネルバが目を瞬かせる。


数十分後。


孤児院医療室。


静かな空気。


光属性魔法。


生命反応。


魔力循環。


体内状態確認。


ピーターが慎重に診察していく。


共和国医療技術。


光魔法。


魔力解析。


教育体系。


全部積み重ねた結果。


共和国は今。


妊娠初期段階まで、

かなり正確に把握できるようになっていた。


診察終了。


ピーターが完全に固まっている。


ミネルバが不安そうに見る。


「……ピーター?」


「何か悪い病気ですか?」


ピーター。


「違います」


「えっと……」


珍しく言葉に困る。


共和国精神支柱。


全属性運用治癒師。


冷静沈着。


そのピーターが。


完全に動揺していた。


ミネルバがさらに不安になる。


「本当に大丈夫ですか?」


ピーターが深呼吸する。


そして。


「……おめでとうございます」


「赤ちゃん、います」


沈黙。


ミネルバが止まった。


完全停止。


「……え?」


ピーターが少し笑う。


「かなり健康です」


「母子共に安定しています」


ミネルバが理解できていない。


「え」


「えっと」


「私?」


ピーター。


「はい」


「ミネルバさんです」


数秒。


さらに数秒。


ミネルバが真っ赤になった。


「ええええええ!?」


孤児院中に響いた。


外。


子供達。


「!?」


「何!?」


「先生どうした!?」


次の瞬間。


医療室の扉が開く。


ミネルバが真っ赤な顔のまま出てくる。


ピーターは後ろで頭を抱えていた。


子供達が集まる。


「先生!?」


「病気!?」


「死ぬの!?」


ミネルバが慌てる。


「違います違います!」


「大丈夫です!」


「えっと……その……」


完全に混乱。


その時。


ピーターが観念したように言う。


「……ミネルバさんに赤ちゃんができました」


静寂。


次の瞬間。


爆発した。


「えええええええ!?」


「赤ちゃん!?」


「先生がお母さん!?」


「すげぇぇぇ!!」


「ミネルバ先生に赤ちゃん!!」


食堂。


廊下。


庭。


全部一瞬で情報が広がる。


孤児院が崩壊しかけた。


子供達が大騒ぎする。


飛び回る。


泣く。


笑う。


なぜか拍手する。


意味不明な踊りまで始まる。


ピーター。


「走るなぁぁぁ!!」


完全に現場が崩壊した。


でも。


ミネルバは。


その光景を見て。


小さく口元を押さえた。


涙が滲んでいた。


昔。


孤児院なんて、

こんな場所じゃなかった。


寒い。


暗い。


食べ物がない。


病気が蔓延する。


死ぬ子供も珍しくない。


笑顔なんて、

続かなかった。


でも今。


この子達は。


“赤ちゃんが生まれる”


それを。


未来として喜んでいる。


死ではなく。


希望として受け止めている。


共和国は変わった。


本当に。


変わったのだ。


夕方。


共和国中央行政区。


報告が届く。


ジミー。


「は?」


「ミネルバさんも!?」


マイク。


「おおおおおお!!」


「めでてぇ!!」


共和国官僚達までざわつく。


出生率。


住宅申請。


教育拡張。


全部増えていた。


でも。


誰も悲観していない。


なぜなら。


共和国はもう。


支えられるからだ。


農業革命。


食料充足率750%超。


寒冷地農業成功。


保存技術。


物流革命。


医療革命。


教育革命。


共和国は今。


“子供が増える事”を、

国家全体で歓迎できる段階まで来ていた。


中央執務室。


グロマールが書類を見ている。


ミネルバ懐妊。


孤児院増築申請。


保育施設追加。


医療人員増加。


全部確認。


静かに署名。


終わり。


隣でセレスが苦笑する。


「相変わらず反応薄いわね」


グロマール。


「必要な環境を整える」


「それ以上は本人達の問題だ」


セレス。


「ほんと不器用」


グロマールは視線を上げない。


「環境が人を育てる」


短い言葉。


でも。


そこに全部入っていた。


子供が生まれる。


家族が増える。


未来を考える。


それは。


明日生きられる前提があるからだ。


共和国は。


そこへ到達した。


夜。


孤児院。


子供達がまだ騒いでいる。


「名前どうするの!?」


「男かな!?」


「女かな!?」


「先生は絶対優しいお母さんだよ!」


ミネルバが顔を真っ赤にする。


「ま、まだ早いです!」


「気が早すぎます!」


子供達は止まらない。


その横で。


ピーターが珍しく落ち着きを失っていた。


薬草辞典。


妊娠関連資料。


栄養計算。


全部抱えて走り回る。


ミネルバが呆れる。


「ピーター」


「落ち着いてください」


ピーター。


「無理です」


即答。


ミネルバが吹き出した。


ピーターが真顔で続ける。


「共和国最高治癒師として」


「絶対に万全にします」


「栄養管理も」


「循環安定も」


「睡眠も」


「精神負荷も」


「全部です」


ミネルバが優しく笑う。


「……ありがとう」


その瞬間。


孤児院の子供達が一斉に叫ぶ。


「ピーター先生顔真っ赤ー!!」


「うるさいです!!」


孤児院に笑い声が響いた。


共和国の夜。


暖かい灯り。


子供達の笑顔。


未来の話。


昔なら。


あり得なかった光景。


でも今。


共和国では。


それが当たり前になり始めていた。


“家族を持てる”


“子供が育つ”


“未来を考えられる”


それ自体が。


文明だった。







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