表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

314/322

312話:セレス

共和国中央行政区。


朝。


巨大な魔導時計が鐘を鳴らす。


同時に、

共和国全域の物流管理塔が動き始めた。


北方同盟向け備蓄便。


南方農業地帯輸送。


紡織工場原料搬入。


鉄材。


木材。


薬草。


保存食。


共和国は今。


国家そのものが、

巨大な循環構造になっていた。


その中心。


中央物流統括庁。


膨大な書類。


魔導通信。


輸送経路図。


在庫計算。


輸送魔力効率。


共和国全体の“血流”を管理する場所。


そこに。


セレス・レイヴンがいた。


長い髪を後ろで束ね、

高速で書類へ視線を走らせる。


「北方第四倉庫」


「凍結被害率低下」


「農業定着成功」


「保存食損耗率、予定以下」


淡々と確認。


周囲の官僚達が、

その速度についていけない。


共和国工業。


共和国物流。


共和国教育。


共和国の根幹部分。


そこへ最初に“構造”を作った女。


それがセレスだった。


感情で動かない。


現実を見る。


数字を見る。


人を見る。


共和国が巨大化しても、

その本質は変わらない。


だから。


共和国官僚達は恐れていた。


そして同時に、

誰より信頼していた。


その時。


セレスの手が止まる。


小さく眉を寄せた。


隣にいた女性官僚が気づく。


「セレス様?」


「顔色悪いですか?」


セレスは少し考える。


「……違う」


「たぶん」


そこで言葉が止まった。


違和感。


軽い眩暈。


魔力循環の乱れ。


共和国医療教育を受けた人間なら、

すぐ分かる。


女性官僚が目を見開く。


「まさか……」


セレスが額を押さえる。


「……いや」


「まだ確定じゃない」


でも。


その声は、

少しだけ弱かった。


数時間後。


中央医療院。


ピーターが診断を終える。


光魔法。


生命反応確認。


循環解析。


体内魔力波長確認。


静かな診察室。


ピーターが咳払いする。


「……おめでとうございます」


「懐妊しています」


沈黙。


セレスが完全停止する。


数秒。


さらに数秒。


共和国官僚達が恐れる、

あの超高速思考が完全に止まった。


「……え?」


ピーターが苦笑する。


「珍しい顔してますね」


「セレスさん」


セレスはまだ止まっていた。


「いや……待って」


「本当に?」


「誤診とか」


ピーター。


「ありません」


「かなり安定しています」


「母子共に健康です」


セレスが椅子へ深く座り込む。


共和国中枢。


物流。


工業。


教育。


全部支えてきた。


国家規模で動いてきた。


でも。


“母になる”


それは。


共和国設計とは別種類の未来だった。


セレスが小さく呟く。


「……家族、か」


その言葉は、

どこか遠かった。


幼い頃。


食料不足。


病。


崩壊寸前の村。


未来なんて無かった。


生き残るだけ。


それで精一杯だった。


だから。


子供を持つ未来。


家族を守る未来。


そんなものは、

人生設計に存在していなかった。


ピーターが優しく言う。


「共和国は変わりました」


「だからですよ」


セレスが静かに目を閉じる。


その言葉の意味を、

誰より理解していた。


共和国は今。


人が未来を持てる国家になった。


それは。


彼女自身が、

作ってきたものだった。


夕方。


帝国行政庁。


フェルド・レイヴンが、

大量書類を処理していた。


帝国改革。


貴族権限調整。


地方行政再編。


共和国方式一部導入。


若き帝国官僚達の中心人物。


それがフェルドだった。


冷静。


合理。


処理能力化け物。


帝国官僚達から、

半分恐れられている。


そのフェルドの前へ、

魔導通信が届く。


確認。


数秒後。


フェルドが止まった。


部下官僚達がざわつく。


「……フェルド様?」


「どうされました?」


フェルドが固まっている。


珍しい。


帝国官僚達は知っていた。


この男。


基本的に動揺しない。


帝国崩壊危機ですら、

平然と書類整理していた。


その男が。


止まっている。


フェルドが小さく呟く。


「……子供?」


部下達。


「は?」


フェルドがもう一度確認する。


読み直す。


また読む。


完全に混乱していた。


部下官僚が恐る恐る聞く。


「……何か問題でも?」


フェルド。


「いや」


「問題ではない」


「全く問題ではない」


「むしろ共和国規模で見れば極めて良い」


「出生率上昇は文明安定を意味する」


そこまで高速で言って。


止まる。


そして。


「……俺が父親?」


完全に処理落ちした。


周囲の官僚達が目を逸らす。


見てはいけないものを見た顔だった。


その夜。


共和国中央住宅区。


セレスが窓際に立っていた。


共和国の夜景。


魔導灯。


物流列車。


工場灯火。


人の生活。


全部動いている。


共和国は、

止まらない。


その後ろから。


転移魔法。


フェルドが現れる。


珍しく。


かなり慌てていた。


セレスが振り返る。


「早かったわね」


フェルド。


「帝国側は全部終わらせた」


「十日分前倒しした」


セレスが笑う。


「相変わらず化け物ね」


フェルドは近づく。


でも。


途中で止まる。


珍しく距離感が分からなくなっていた。


セレスが吹き出す。


「何その顔」


フェルド。


「……いや」


「どう反応すれば正解なのか分からん」


セレスが肩を震わせる。


「珍しい」


「あなたにもそんな事あるのね」


フェルドは真面目だった。


「国家運営なら分かる」


「行政も分かる」


「物流も理解している」


「工業も教育も分析できる」


「だが」


そこで止まる。


少し考えて。


「家族は未知だ」


セレスが静かに目を細めた。


その言葉。


少し嬉しかった。


この男は、

嘘をつかない。


理解できない事を、

理解したふりもしない。


だから信用できる。


フェルドが低く言う。


「……怖くはないのか」


セレスは窓の外を見る。


共和国。


人々の灯り。


子供達の笑い声。


昔は無かった。


全部。


無かった。


「怖いわよ」


「当然」


「でも」


そこで少し笑う。


「今の共和国なら」


「子供が生まれても、

ちゃんと生きていける」


フェルドが黙る。


それは。


奇跡みたいな言葉だった。


旧時代。


子供は不安だった。


冬で死ぬ。


病で死ぬ。


飢えて死ぬ。


教育も無い。


未来も無い。


でも共和国は違う。


農業革命。


工業革命。


物流革命。


教育革命。


全部積み上げた。


だから今。


“家族を持てる”


それ自体が、

国家安定の証明になっていた。


フェルドが静かに言う。


「共和国は恐ろしいな」


セレス。


「何が?」


「戦争が強い事か?」


フェルドは首を振る。


「違う」


「人が未来を前提に生き始めている」


「そこだ」


セレスは少し黙る。


その通りだった。


共和国は今。


“今日を生き延びる国家”ではない。


“明日を作る国家”


になり始めている。


中央行政区。


深夜。


グロマールが書類を読んでいた。


出生率推移。


食料供給量。


住宅増設。


教育機関拡張。


全部確認する。


セレス懐妊報告書。


視線が止まる。


数秒。


そして。


次の書類へ移った。


隣にいたジミーが呆れる。


「もっと反応ねぇのかよ」


グロマール。


「必要な環境は整える」


「それで十分だ」


ジミーが苦笑する。


「ほんっと変わらねぇな」


グロマールは短く答える。


「変える必要がない」


でも。


既に。


住宅区拡張。


保育施設増設。


医療院人員増加。


教育予算追加。


全部承認済みだった。


共和国は今。


子供が増える前提で、

国家そのものが動き始めている。


それはつまり。


文明が、

未来を信じ始めたという事だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ