301話:大学
共和国中央教育院。
夜。
巨大施設。
まだ灯りが消えていない。
教師達が働いていた。
教材。
統計。
教育記録。
人口推移。
職業適性表。
共和国では、
教育が国家中枢だった。
だから。
教師達は忙しい。
共和国人口。
三千万人目前。
都市拡大。
農地拡大。
工業拡大。
出生率増加。
全部順調。
だからこそ。
教育需要が限界を超え始めていた。
中央教育院会議室。
巨大円卓。
共和国主要教師達が集まっている。
ピーター。
ミネルバ。
セレス・レイヴン。
索敵教師リシェル。
工業教師団。
農業教師団。
治癒教師団。
共和国最高教育陣。
机上には、
大量の資料。
教師不足。
学校不足。
地方教育格差。
新生児増加率。
全部並んでいる。
若い教師が疲れた顔で言った。
「地方学校、
教師数が追いつきません」
別の教師も頷く。
「中央卒業者を回しても、
足りない」
「人口増加速度が想定以上です」
共和国では珍しくない。
問題が発生する。
すぐ共有される。
隠さない。
だから強い。
ピーターが資料を見ていた。
かつて。
泣き虫だった少年。
今では共和国教育の中心。
誰よりも。
教育の限界を理解していた。
ピーターが静かに言う。
「教師育成速度が、
共和国拡張速度に負け始めています」
会議室が静かになる。
深刻だった。
共和国の根幹。
教育。
そこが詰まれば、
循環が止まる。
セレスが腕を組む。
「工業側も限界が近いわ」
「現場指導出来る上級教師が足りない」
「農業区も同じ」
農業教師が頷く。
「地方農地が広がり過ぎてる」
「新人教師だけでは回らない」
共和国以前。
教師は少数だった。
今。
教師数は数百万。
それでも足りない。
理由は単純。
共和国は、
全員教育するから。
ミネルバが静かに資料を見る。
孤児院人口。
初等教育。
治癒教育。
全部増えている。
「……子供達が多いんです」
優しい声。
でも。
嬉しい問題だった。
昔。
孤児は死んだ。
今。
生きる。
だから増える。
共和国は、
「死なない文明」へ近づいていた。
その時。
会議室後方。
静かに座っていたリシェルが口を開く。
「索敵教育も限界が近い」
全員が視線を向ける。
索敵教師リシェル。
共和国最強格の索敵教師。
全属性索敵魔法運用。
探索。
転移。
剣豪。
拳豪。
共和国でも、
異常な実戦能力を持つ女。
そして。
共和国最大派閥の索敵教師団を作った女。
ベルセリア北方索敵教師の大半は、
リシェルの弟子だった。
リシェルが静かに続ける。
「弟子の弟子が、
もう教師側へ回ってる」
「現場経験不足が増えてる」
「知識継承速度が足りない」
そこが重要だった。
共和国は、
才能依存ではない。
教育依存。
だから。
「教育者の教育」が必要になる。
ピーターが静かに息を吐く。
そして。
口を開いた。
> 「教育を維持する教育機関が必要です」
会議室が静まる。
誰も否定しない。
必要だった。
共和国は、
もう村じゃない。
国家ですらない。
文明規模へ入っている。
だから。
教師養成だけでは足りない。
研究。
理論。
統計。
専門教育。
全部必要。
ピーターが資料を机へ置く。
「共和国初の高等教育機関を作ります」
「教師を育てる教師」
「研究する教師」
「文明を前進させる教師」
静かな声。
だが。
重かった。
セレスが目を細める。
「……大学」
ピーターが頷く。
共和国中央大学。
世界初。
本格高等教育機関。
構想始動。
会議室空気が変わる。
若い教師が呟く。
「そこまで行くんですか……」
ピーターが静かに答える。
「共和国は、
もう止まれません」
誰も反論出来ない。
共和国は、
循環し続ける。
だから拡張する。
だから知識が必要。
知識独占では足りない。
知識循環。
そこへ到達し始めていた。
共和国中央都市。
翌朝。
建設区域。
巨大更地。
既に工兵達が動いている。
土属性建築師。
石加工師。
測量教師。
全部集まっている。
共和国建築は速い。
理由。
教育済みだから。
若い工業教師が図面を広げる。
「中央講堂」
「研究棟」
「魔力循環理論棟」
「農業実験区」
「治癒研究院」
「物流統計区」
次々説明される。
共和国大学。
もはや学校ではない。
文明研究施設。
そこへ近い。
ジミーが呆れた顔をする。
「本当に作るのかよ……」
セレスが苦笑する。
「あなた、
今さら何言ってるの」
「共和国よ?」
ジミーが頭を掻く。
「いや、
毎回規模がおかしいんだよ」
誰も否定しない。
共和国は、
毎回規模が狂っていた。
農地。
物流。
教育。
工業。
全部。
国家規模を超えている。
その奥。
グロマールが建設予定地を見ていた。
静かに。
共和国創設者。
英雄ではない。
循環開始者。
彼は騒がない。
いつも通り。
現場を見る。
人を見る。
流れを見る。
リシェルが隣へ来た。
風が揺れる。
「大学ね」
グロマールが頷く。
「ああ」
「必要だ」
リシェルが遠くを見る。
工事。
教師。
学生候補。
全部動いている。
「昔、
文字読めるだけで特別だったのに」
グロマールが静かに言う。
「今は足りない」
そこが共和国だった。
進めば進むほど、
必要水準が上がる。
止まらない。
リシェルが少し笑う。
「本当に、
世界変えたわね」
グロマールは否定しない。
でも。
少し違う。
「変えたのは、
教育だ」
短い言葉。
だが。
リシェルは理解していた。
共和国以前。
才能は埋もれた。
貧困。
病。
飢餓。
教育不足。
全部。
人間を潰していた。
今。
共和国は違う。
才能を探す。
育てる。
循環させる。
だから文明が伸びる。
建設区域奥。
大量の若者達が集まっていた。
元孤児。
元農民。
元兵士。
共和国大学志願者。
彼らは笑っている。
未来があるから。
そこが大きい。
昔。
未来は貴族の物だった。
今。
民が未来を持つ。
共和国初。
大学建設。
それは。
学校ではない。
文明そのものを育てる場所だった。




