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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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302/322

300話:国とは

共和国中央区。


夕暮れ。


空が赤く染まっていた。


巨大都市。


石畳。


学校。


工房。


市場。


治療院。


物流倉庫。


無数の灯りが広がっている。


昔。


ここは存在しなかった。


崩壊した村。


荒れた街道。


盗賊。


飢餓。


病。


死。


それが世界だった。


今。


共和国は動いている。


誰か一人の力ではない。


教師が教える。


農民が育てる。


工員が作る。


物流が運ぶ。


治癒師が救う。


全部繋がっている。


循環。


共和国文明の本質だった。


共和国中央物流街道。


巨大荷車列。


夜でも動いている。


保存食。


薬草。


布。


農具。


教材。


共和国では、

物流が止まらない。


止まれば。


人が止まるから。


街道脇。


ジミーが帳簿を見ていた。


共和国物流統括。


かつての調子者。


今では共和国経済を支える男。


部下が報告する。


「南部農業区、

収穫量増加」


「中央備蓄、

基準値超過」


「北方交易、

継続安定」


ジミーが鼻で笑う。


「昔なら戦争して奪ってた量だな」


誰も否定しない。


共和国以前。


不足は略奪だった。


今。


流通。


保存。


教育。


それで回る。


そこが文明だった。


共和国中央学校区。


夜。


まだ灯りが消えない。


教師達が教材を作っている。


若い教師。


老教師。


元孤児。


元農民。


元兵士。


全部混ざっている。


共和国では、

教師が特別だった。


国を回す職だから。


一人の若い教師が呟く。


「昔、

文字も書けなかったのに……」


隣の老教師が笑う。


「今は教えてる側だ」


若い教師が少し照れた。


共和国では、

人生が固定されない。


そこが強い。


中央治療院。


夜でも動いている。


ミネルバが患者を見ていた。


老人。


子供。


労働者。


全部普通に治療される。


昔なら。


金が無ければ死んだ。


共和国では違う。


治療も循環だから。


若い治癒師が報告する。


「地方治療院、

拡張完了しました」


ミネルバが頷く。


「死亡率は?」


「さらに減少しています」


静かな返答。


だが。


それは奇跡に近かった。


共和国以前。


病は運だった。


今。


治療理論。


衛生教育。


魔力循環。


全部体系化されている。


だから助かる。


共和国中央農業区。


夜風。


小麦畑が揺れる。


グロマールが歩いていた。


静かに。


いつも通り。


護衛も少ない。


共和国では、

グロマールは神格化されていない。


そこが重要だった。


絶対王じゃない。


絶対支配者でもない。


循環の起点。


それだけ。


畑奥。


セレスが立っていた。


風が髪を揺らす。


共和国工業統括官。


現実担当。


全部見てきた女。


セレスがグロマールを見る。


少し笑う。


「……静かね」


グロマールが畑を見る。


「ああ」


遠く。


子供達の笑い声。


夜なのに聞こえる。


共和国では、

夜に子供が笑う。


昔では考えられない。


セレスが隣へ並ぶ。


しばらく沈黙。


共和国は、

もう忙し過ぎる。


戦争する暇もない。


学校。


農地。


工房。


物流。


全部回っている。


止める方が難しい。


セレスが空を見る。


「結局、

国って何だったと思う?」


静かな問い。


昔なら。


王。


軍。


支配。


権力。


そう答える者が多かった。


グロマールは少し考える。


そして。


静かに答えた。


「人が生きる仕組みだ」


短い。


だが。


セレスは笑った。


「本当に、

あなたらしい答え」


グロマールは肩を竦める。


「実際そうだろ」


「飯を食う」


「学ぶ」


「働く」


「病を治す」


「子供を育てる」


「老いて死ぬ」


「それを維持する」


「国はその為の仕組みだ」


風が吹く。


小麦が揺れる。


セレスが静かに呟く。


「昔の国は、

人を使い潰してた」


「ああ」


「でも共和国は違う」


グロマールは否定しない。


共和国は、

人を循環へ組み込む。


だから壊れにくい。


無理に英雄を作らない。


無理に犠牲を出さない。


教師を増やす。


農民を育てる。


治癒師を育てる。


それで国力を増やす。


現実的。


合理的。


だが。


異常なほど強い。


セレスが遠くを見る。


共和国中央都市。


巨大灯り。


「……変わったわね」


グロマールも見る。


本当に変わった。


最初は村だった。


何も無かった。


飢え。


病。


崩壊。


そこから始まった。


今。


帝国。


北方。


共和国。


全部繋がっている。


文明圏。


人類圏。


それが出来始めている。


セレスが笑う。


「ねえ」


「もし昔の人達が見たら、

信じると思う?」


グロマールが即答する。


「無理だな」


「俺でも信じない」


二人が少し笑う。


共和国中央街道。


夜でも人が歩いている。


商人。


教師。


農民。


職人。


兵士。


全部混ざっている。


昔。


兵士は死ぬ為の存在だった。


今。


共和国兵は、

守る側へ変わっている。


共和国では、

戦争そのものが減っている。


理由は単純。


奪うより、

交易した方が得だから。


教育した方が得だから。


循環させた方が得だから。


そこへ文明が到達した。


畑奥。


子供達がまだ遊んでいる。


教師が苦笑している。


「もう寝る時間ですよ!」


子供達が笑う。


「はーい!」


走っていく。


普通の光景。


だが。


昔なら存在しなかった。


グロマールが静かに目を閉じる。


聞こえる。


笑い声。


風。


生活音。


戦争じゃない。


悲鳴じゃない。


生活だった。


セレスが静かに言う。


「あなた、

満足してる?」


少しだけ。


珍しく柔らかい声。


グロマールは少し考えた。


そして。


遠くの灯りを見る。


学校。


畑。


工房。


治療院。


全部動いている。


誰かが生きている。


だから。


静かに答えた。


「ああ」


「悪くない」


共和国建国篇。


それは。


“支配者の物語”ではなかった。


人が生き残る為の、

循環の物語だった。







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