297話:文明圏
共和国中央交易都市アルトレス。
朝。
巨大交易広場。
鐘が鳴る。
同時に。
各国の商隊が門を通過していく。
共和国。
帝国。
北方国家ベルセリア。
旗が違う。
言葉も少し違う。
服装も違う。
だが。
争う空気は無い。
商人達は自然に挨拶を交わしていた。
「北方便到着!」
「帝国鋼材確認!」
「共和国穀倉搬入開始!」
広場全体が動き出す。
共和国以前。
国境とは、
睨み合う場所だった。
今。
物流地点へ変わっている。
巨大倉庫街。
共和国管理倉庫。
無数の木箱。
穀物。
薬草。
鉄材。
保存食。
布。
果物。
全部整理されている。
共和国物流責任者ジミーが、
倉庫確認をしていた。
若い物流官が報告する。
「北方保存果実、
品質安定」
「帝国鋼材、
加工適性良好」
「共和国小麦、
収穫量継続増加」
ジミーが頷く。
「北方便は北西部学校区優先」
「帝国鋼材は農具工房へ回せ」
即断。
共和国物流。
迷いが少ない。
理由。
情報共有。
共和国では、
物流が教育されている。
だから止まりにくい。
帝国商人区画。
大量の鋼材。
農具。
工具。
建築用金具。
帝国は元々工業力が強い。
人口。
鉱山。
職人。
全部揃っている。
共和国文明圏形成後。
さらに伸び始めていた。
帝国商人が共和国職人へ笑う。
「最近は農具注文ばかりだ」
共和国側職人も笑った。
「畑増えすぎなんですよ」
冗談交じり。
だが本当だった。
人口爆発。
食料増産。
農地拡張。
文明圏全体が成長している。
市場別区画。
北方国家ベルセリア。
寒冷地特産市場。
保存果実。
薬草。
発酵食品。
毛織物。
共和国民が普通に買っている。
北方商人の女性が誇らしげに言う。
「今年は冬越え死者、
かなり減ったよ」
共和国農業教師が頷く。
「保存技術と備蓄教育ですね」
北方国家。
昔。
冬を耐える国家。
今。
冬を管理する国家へ変わり始めている。
教育。
備蓄。
物流。
全部整い始めていた。
共和国中央学院。
巨大講堂。
今日は共同授業。
共和国教師。
帝国教師。
北方教師。
全員揃っている。
若い学生達が静かに席へ座る。
共和国教師が黒板へ書いた。
『文明圏』
周囲が静かになる。
教師がゆっくり言う。
「今まで国家は」
「単独で生きていました」
黒板。
王国。
帝国。
北方。
別々に書かれている。
次。
線で繋がれる。
物流。
教育。
農業。
医療。
工業。
全部接続。
「現在」
「各国は単独ではなく」
「循環接続を始めています」
学生達が真剣に記録する。
共和国教育。
現実から逃げない。
そこが強い。
帝国教師が口を開いた。
「帝国だけでは、
農業改革速度に限界があった」
北方教師が続ける。
「ベルセリア単独では、
教育速度に限界があった」
共和国教師が頷く。
「共和国単独では、
人口増加への工業対応が不足していた」
静かな空気。
つまり。
全部必要。
それが文明圏。
若い学生が手を挙げた。
「でも」
「なんで戦争が減ったんですか?」
共和国教師が即答する。
「壊すと損だからです」
講堂が静かになる。
教師が黒板へ書く。
北方停止。
果実不足。
保存食不足。
帝国停止。
鉄不足。
工業停滞。
共和国停止。
教育停滞。
物流停滞。
「つまり」
「全部繋がってる」
「だから壊せない」
学生達が静かに理解していく。
昔。
戦争は利益だった。
今。
文明破壊。
損失が大きすぎる。
共和国中央治療院。
大量の治癒師。
共和国。
帝国。
北方。
共同研究中。
病原対策。
栄養管理。
魔力循環治療。
全部共有。
共和国以前なら、
国家秘匿技術。
今。
共有した方が全体利益になる。
若い帝国治癒師が驚く。
「共和国式循環理論、
回復効率が高すぎる……」
共和国教師が答える。
「魔力を閉じ込めないからです」
「循環させる」
「吸収する」
「流す」
それだけ。
昔。
魔力切れは当たり前だった。
共和国が変えた。
世界には魔力が満ちている。
だから循環する。
だから回復する。
それを教育した。
だから民が強くなった。
共和国中央街道。
夕方。
巨大街道。
大量の荷車。
護衛。
商人。
旅人。
学生。
全部流れている。
昔の国境街道とは違う。
兵士が怯えていない。
商人が震えていない。
共和国兵士が静かに巡回する。
略奪も少ない。
盗賊も減った。
理由。
働いた方が得だから。
共和国文明圏。
人手不足。
教師不足。
工業不足。
農業不足。
つまり。
仕事が無限にある。
世界構造が変わった。
街道脇。
老人が若者へ呟く。
「昔はな」
「国境越えるだけで命懸けだった」
若者が驚く。
「そんなに?」
老人が苦笑する。
「食料盗まれる」
「兵士に殴られる」
「宿もない」
「病で死ぬ」
「それが普通だった」
若者が静かになる。
今。
かなり違う。
完全ではない。
だが。
確実に文明化している。
夜。
共和国中央行政塔。
巨大地図。
共和国。
帝国。
北方。
物流線。
教育線。
工業接続線。
全部伸びている。
セレス・レイヴンが静かに資料を見る。
共和国宰相。
疲労は深い。
だが。
目は止まっていない。
若い官僚が報告する。
「文明圏総人口、
推定七千万人到達」
「冬季死亡率、
全域減少継続」
「識字率上昇継続」
静かな空気。
重い数字。
セレスが窓の外を見る。
学校灯り。
工場灯り。
市場灯り。
全部繋がっている。
その時。
若い女性官僚が小さく呟いた。
「もう、
昔の世界には戻れませんね」
誰も否定しなかった。
共和国。
帝国。
北方。
三国家は既に。
単なる同盟ではなく。
一つの巨大文明圏へ、
変わり始めていた。




