292話:教育国家
共和国中央教育都市ルミナス。
朝。
巨大な始業鐘が鳴る。
同時に。
都市全体が動き始めた。
子供達。
教師達。
巡回教育官。
教材運搬隊。
治癒教師。
農業教師。
工業教師。
共和国では、
朝の光景そのものが違う。
学校へ向かう人間の数が、
軍隊より多い。
それが教育国家。
共和国だった。
中央大通り。
制服姿の子供達が歩いていく。
笑いながら。
本を抱えながら。
昔の世界では、
あり得ない景色。
子供は働き手だった。
学ぶ余裕など無かった。
共和国はそこを変えた。
教育院中央庁舎。
巨大な白亜建築。
共和国最大組織。
教育院。
国家中枢。
そこでは、
大量の官僚達が動いていた。
地方学校建設。
教師配置。
教材供給。
巡回教育。
孤児教育。
全部ここで管理されている。
共和国教育院長ピーターが資料を見る。
かつて泣き虫だった少年。
今や、
世界最大教育制度の中心人物。
だが。
肩書よりも有名なのは別。
教師達の師。
それが今のピーターだった。
側近官僚が報告する。
「共和国全学校数、
二百万突破」
静かな空気。
だが。
誰も驚かない。
共和国人口。
既に二千万超。
しかも。
人口増加継続中。
餓死減少。
病死減少。
乳幼児死亡率低下。
だから学校数も増える。
共和国では、
学校は特別施設じゃない。
生活基盤。
水道と同じ。
農地と同じ。
だから増え続ける。
別の官僚が続けた。
「教師総数、
二百万人超」
「教導スキル保有率、
上昇継続」
ピーターが静かに頷く。
共和国最大の特徴。
それは教師が強い事。
ただ教えるだけではない。
教導スキル。
理解補助。
覚醒補助。
習得速度上昇。
育成特化。
国家規模で発生していた。
昔。
教師は軽視された。
読み書きだけ。
暇人。
学者崩れ。
共和国はそこを壊した。
教師こそ国家。
だから教師の地位が高い。
給金。
住居。
食料。
全部優遇。
さらに。
尊敬されている。
教育院廊下。
若い教師達が走っていく。
十代後半。
二十代。
元農民。
元孤児。
元難民。
共和国では珍しくない。
教育が人を変えた。
若い女性教師が教材を抱えながら言う。
「北部巡回学校、
今日からでしたよね?」
隣の男性教師が頷く。
「寒冷地農業授業も追加」
共和国教育。
単なる読み書きではない。
農業。
工業。
物流。
衛生。
魔力循環。
全部教える。
だから国が強くなる。
巨大講堂。
そこでは、
新任教師達への授業が行われていた。
講師は老教師。
教導スキル持ち。
周囲には数百人の新人教師。
老教師が静かに言う。
「共和国教師は、
知識を渡すだけではありません」
全員が耳を傾ける。
「人を生かす仕事です」
静かな声。
だが。
重い。
共和国では、
教師が文明を支えている。
農民を育てる。
職人を育てる。
治癒師を育てる。
官僚を育てる。
全部教師。
だから共和国は、
教師不足になる。
人口増加速度が異常だから。
地方開発。
工業化。
全部教育が必要。
だから教師が足りない。
教育院中央会議室。
大量の資料。
地方教育地図。
学校建設図。
中央席。
ピーターが静かに口を開く。
「報告を」
地方教育官。
「南部地方、
学校不足継続」
「人口増加予測超過」
農業教育官。
「農業教師不足」
「地方巡回頻度増加必要」
工業教育官。
「鍛冶師教育速度、
需要超過」
「建築教師追加要請」
共和国最大問題。
教師不足。
だが。
それすら共和国は、
成長で解決し始めていた。
若い官僚が新資料を持ってくる。
「新教師覚醒者、
急増しています」
空気が静かに動く。
ピーターが資料を見る。
教導スキル。
教育補助。
理解共有。
育成加速。
共和国では、
教師自身が覚醒し始めている。
しかも。
連鎖的に。
教育を受けた者が教師になる。
教師がまた教師を育てる。
完全循環。
若い女性官僚が驚いた声を漏らす。
「十五歳で教導覚醒……?」
隣の官僚が頷く。
「地方初等学校出身です」
空気が変わる。
昔ならあり得ない。
貴族だけ。
学者だけ。
特別な人間だけ。
そう思われていた。
違った。
教育が無かっただけ。
共和国が証明している。
教育院窓の外。
巨大都市。
無数の学校。
鐘の音。
子供達の声。
共和国では、
学校が日常だった。
その時。
廊下から歓声が聞こえる。
小さな子供達。
初等学校入学組。
新品の教材を抱えている。
文字が読める。
計算ができる。
衛生を知る。
魔力循環を知る。
だから死なない。
共和国文明。
その根幹。
それは教師。
ピーターが窓の外を見る。
静かに呟いた。
「ようやく、
普通に生きられる世界になってきた」
隣の老教師が笑う。
「まだ足りませんよ」
ピーターも笑った。
「ああ」
「だから教師が必要なんです」
終業鐘が鳴る。
共和国全土。
無数の学校で。
子供達が帰っていく。
笑いながら。
未来を持ちながら。
共和国教育国家。
それは。
人類が初めて、
“才能ではなく環境で育つ”と理解した文明だった。




