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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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286話:共和国宣言

共和国暦五年。


旧ベルグラード王都。


冬。


だが、

寒くない。


街全体に張り巡らされた温水循環路が、

石畳の下を流れている。


白い湯気が立ち上る。


かつて。


この王都では、

冬になるたびに老人が凍死した。


今は違う。


市場は開いている。


工場も動く。


子供たちは雪の中を走り回る。


共和国中央広場。


数十万の民が集まっていた。


農民。


商人。


教師。


治癒師。


兵士。


紡績工。


建築士。


物流管理官。


水路整備士。


かつて、

名前すら与えられなかった職業が、

今では国家を支えている。


広場中央。


巨大な旗が掲げられる。


三重円。


循環の紋章。


人。


物。


知識。


全てを循環させる国家。


歓声が広場を揺らした。


「共和国万歳!」


「教育万歳!」


「循環国家万歳!」


「子供たちを守れ!」


誰も、

王を称えない。


英雄を崇拝しない。


それが共和国だった。


壇上。


セレス・レイヴンが立つ。


黒髪。


静かな瞳。


共和国宰相候補。


彼女は広場を見渡した。


昔。


この王都は死んでいた。


貴族は奪い。


兵は疲弊し。


民は飢え。


子供は売られた。


教育は無かった。


医療も無かった。


未来も無かった。


だが今。


子供たちは文字を書く。


教師は三千人を超えた。


食料充足率は七五〇%超。


物流網は全土を繋ぎ。


病死率は激減。


戦災孤児すら、

学校へ通っている。


文明が変わった。


セレスは知っている。


これは奇跡ではない。


循環だ。


人を育て。


人がまた人を育てる。


それだけだった。


静寂。


セレスが口を開く。


「旧ベルグラード統合行政機構を改編」


「ここに」


「グロマール共和国の建国を宣言します」


大歓声。


泣き崩れる老人。


抱き合う夫婦。


子供たちの笑顔。


兵士たちですら涙を流していた。


共和国。


それは、

戦争で生まれた国家ではない。


循環で生まれた国家だった。


セレスは続ける。


「共和国は、

誰か一人の国家ではありません」


「民の国家です」


「教育を独占しない」


「食料を独占しない」


「技術を独占しない」


「知識を独占しない」


「支配ではなく」


「循環で文明を維持します」


拍手。


終わらない拍手。


共和国議会。


地方代表たちが立ち上がる。


老女侯爵エレノア・ローゼンベルク。


ブライト伯爵。


地方子爵。


農業領主。


教育局代表。


全員が起立。


エレノアが言う。


「共和国初代宰相として」


「セレス・レイヴンを推薦します」


満場一致。


反対ゼロ。


セレスは目を閉じた。


昔。


ただの村娘だった。


現実を知っていただけの女。


だが。


今では、

共和国全土を支える知性になっていた。


徽章が渡される。


共和国宰相章。


セレスは受け取った。


静かに。


重く。


そして。


最初に言った。


「……本当は」


「私ではない」


空気が静まる。


皆、

理解していた。


本来。


ここに立つべき人間を。


グロマール。


循環を始めた男。


文明を変えた男。


だが。


彼はいない。


共和国中央通信局。


魔導通信士が慌ただしく叫ぶ。


「南部応答無し!」


「北部農業区未確認!」


「西方物流中継局も不通!」


セレスが疲れた顔をした。


「……また消えたの」


通信士が青ざめる。


「代表就任要請、

全拒否です」


議場に笑いが広がった。


マイクが大声で笑う。


「ははっ!

あの人らしい!」


ジミーも肩をすくめた。


「権力とか、

一番嫌いそうだしな」


誰も怒らない。


もう理解している。


グロマールは、

王になる人間ではない。


循環を作る人間だ。


そして。


作った後は、

また別の場所へ行く。


セレスは小さく息を吐いた。


「本当に、

面倒な人」


だが。


その声は、

どこか優しかった。


外。


共和国中央街。


祭りが始まる。


巨大な屋台街。


北方肉料理。


共和国式蒸気麺。


南方果実酒。


各地の料理が並ぶ。


物流革命。


それが文化まで変えていた。


子供たちが走る。


その中心。


マイクの息子。


五歳。


木剣を振り回しながら叫ぶ。


「おりゃああ!」


周囲が笑う。


マイクが頭を抱えた。


「元気すぎる……」


その隣。


ジミーの娘。


五歳。


店の値札を見ている。


「この値段設定、

回転率悪いよね」


商人たちが凍る。


「五歳だよな?」


「完全に親父だ……」


さらに。


共和国中で、

子供たちが生まれていた。


出生率急増。


理由は単純。


未来があるから。


食料がある。


仕事がある。


医療がある。


教育がある。


だから。


人は家族を持てる。


共和国中央保育院。


ミネルバが子供たちを見ていた。


笑い声。


泣き声。


昼寝。


普通の光景。


だが。


この世界では、

それが一番難しかった。


ミネルバは小さく微笑む。


「……良かった」


教師が尋ねる。


「何がですか?」


「子供たちが、

普通に笑えてる」


教師が黙る。


それだけで、

十分だった。


北方国家ベルセリア。


王城。


フィリア女王が、

三歳の娘を抱いていた。


窓の外。


共和国式学校。


共和国式農地。


共和国式水路。


全部、

ベルセリアへ導入済みだった。


エルグレイが言う。


「共和国、

正式建国ですか」


フィリアは静かに頷く。


「ええ」


娘が笑う。


その笑顔を見て、

フィリアも微笑んだ。


昔。


北方は、

生き残るだけで精一杯だった。


略奪。


飢餓。


冬。


だが今。


娘は、

戦争を知らずに育っている。


フィリアが呟く。


「……不思議ね」


「昔は、

国を守る事しか考えていなかった」


エルグレイが聞く。


「今は?」


フィリアは娘を抱きしめた。


「この子たちが、

普通に生きられる世界を守りたい」


共和国は、

人間の願いそのものを変えていた。


夜。


共和国中央議事堂。


セレス・レイヴンが、

窓の外を見ていた。


物流灯。


学校。


工場。


治療院。


全部動いている。


誰か一人の力じゃない。


民が動かしている。


循環している。


セレスは静かに呟く。


「……帰ってきなさいよ」


返事は無い。


グロマールは、

またどこかにいる。


辺境。


崩壊領。


病人のいる場所。


飢えた村。


きっとまた。


文明の種を蒔いている。


だが。


彼がいなくても。


循環は、

もう止まらなかった。







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