表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

277/322

275話:共和国構想

旧ベルグラード王国。


王が死んでから七日。


それでも世界は止まらなかった。


むしろ。


止まっていたものが動き始めていた。


王都崩壊。


貴族逃亡。


騎士団消滅。


税停止。


行政停止。


王国という巨大な器だけが砕け散り、その中で生き残った民たちは、ようやく呼吸を始めていた。


循環領中央行政棟。


深夜。


巨大な地図が広げられている。


壁一面。


旧ベルグラード王国全土。


赤。


灰。


青。


緑。


色分けされた無数の印。


セレスはその前に立っていた。


長い髪を後ろでまとめ、書類を片手に静かに地図を見ている。


誰も話しかけない。


今の彼女が、共和国そのものだからだ。


背後。


ジミーが書類を抱えて歩いてくる。


「最新報告」


「避難民総数、二十七万超え」


「救援完了四十五領」


「部分復旧二十八領」


「完全放棄十六領」


「飢餓継続三十六領」


セレスは頷く。


驚かない。


もう慣れている。


王国崩壊以来。


数字が人間の悲鳴に見えるようになっていた。


ジミーが続ける。


「物流はまだ回る」


「ダグラス商会も全力支援」


「食料在庫は余裕あり」


「今年収穫が入ればさらに増える」


机の上。


大量の物流図。


穀物流通。


水路。


街道。


倉庫。


冷蔵庫。


乾燥保存庫。


加工工場。


全部繋がっている。


セレスは静かに言った。


「……もう王国じゃない」


ジミーが顔を上げる。


セレスの視線は地図の中央。


かつて王都があった場所。


今は灰色。


空白地帯。


王が死んだ場所。


「作り直す」


その声は静かだった。


だが。


確信に満ちていた。


その瞬間。


空気が変わる。


国家誕生の瞬間だった。


背後の扉が開く。


ミレナ。


マイク。


ピーター。


ミネルバ。


主要メンバーが集まってくる。


マイクは椅子にどかっと座った。


「また徹夜かよ」


セレス。


「国作るんだから当然」


「軽いよねアンタ」


マイクは笑う。


昔なら怒鳴っていた。


今は違う。


彼も理解している。


戦争より重い仕事だ。


ピーターは地図を見て青ざめる。


「……こんなに領地が……」


セレス。


「百五十領」


「旧ベルグラード全域」


「王国は消えた」


「だから今度は民を基準に組み直す」


ミネルバが静かに呟く。


「国を……作り直す……」


セレスは頷いた。


「うん」


「王の国じゃない」


「民の国」


沈黙。


重い。


だが暗くはない。


未来の重さだった。


机の上。


新しい行政案。


共和国構想。


・地方自治


・教育義務化


・全領学校設置


・教師派遣制度


・農地共同開発


・物流共有化


・医療共有


・識字教育


・職業教育


・覚醒支援


全部書かれている。


ジミーが資料をめくる。


「税率低すぎね?」


セレス。


「生産性で回す」


「搾り取らない」


「増やす」


「共和国は循環国家」


マイクが鼻を鳴らす。


「グロマールらしいな」


誰も否定しない。


グロマール本人はいない。


最近はずっと現場だ。


農地。


水路。


魔力循環炉。


物流。


相変わらず泥まみれで働いている。


だが。


この国家の思想は、全部あの男から始まっている。


セレスが静かに言う。


「王国は“支配”だった」


「共和国は“循環”」


「全然違う」


ピーターが地図を見る。


赤い領地。


崩壊領。


飢餓領。


放棄領。


まだ多い。


救えていない。


「……間に合うかな」


小さな声。


弱さではない。


優しさだった。


セレスは即答する。


「間に合わせる」


「だから教育を増やす」


「教師が教師を育てる」


「農民が農民を育てる」


「治癒師が治癒師を育てる」


「そうやって増殖する」


ミネルバが書類を見る。


治療院計画。


孤児院計画。


出産支援。


衛生教育。


栄養管理。


全部書かれている。


彼女は小さく息を呑む。


「……ここまで考えてたの?」


セレスは淡々としている。


「国だから」


「生活全部必要」


窓の外。


巨大な建築群。


夜なのに灯りが消えない。


学校増築。


共同住宅建設。


倉庫。


工場。


農具製造。


紡織工場。


魔導灯工場。


人が動いている。


民が働いている。


生きている。


それだけで。


王国時代とは全く違っていた。


マイクが腕を組む。


「しかし本当に変わったな」


「昔は飯食うだけで必死だったのによ」


ジミーが笑う。


「今は在庫管理で頭痛ぇ」


「穀物増えすぎだ」


セレス。


「贅沢な悩み」


その時。


扉が再び開く。


ダグラス商会会頭。


マイケル・ダグラス。


老商人。


かつては利益第一だった男。


今は違う。


彼もまた変わった。


商売鑑定。


流通解析。


市場予測。


覚醒した能力は、共和国経済そのものを支えている。


ダグラスは地図を見た。


「……本当に国を作る気か」


セレス。


「もう始まってる」


「止まれない」


ダグラスは苦笑する。


「商人人生五十年だ」


「こんな国は見たことがない」


「利益で動いてるのに、全員得してやがる」


ジミーがニヤニヤする。


「悪徳商人泣くな」


「泣いてねぇよ」


「怖ぇんだよ」


ダグラスは本音を漏らした。


「こんな循環を作られたら、普通の国家は全部負ける」


静かになる。


それは真実だった。


共和国は。


戦争していない。


侵略していない。


なのに周囲が崩れていく。


なぜか。


民が流れるから。


人材が流れるから。


食料が流れるから。


教育が流れるから。


文明が流れるから。


セレスは地図中央を見る。


空白になった旧王都。


王が死んだ場所。


そこに新しい印を置いた。


青。


共和国中央行政区。


誰も喋らない。


国家誕生の瞬間だった。


ミレナが小さく言う。


「……本当にやるんだね」


セレスは頷いた。


迷いは無い。


「うん」


「もう後戻りできない」


「ベルグラード王国は終わった」


「だから次を作る」


「民が死なない国を」


風が吹く。


窓の外。


夜の共和国。


まだ未完成。


まだ脆い。


問題だらけ。


敵も多い。


だが。


確かに回り始めていた。


教育。


物流。


農業。


医療。


全部が繋がり始めている。


循環。


文明。


それはもう。


誰にも止められなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ