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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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27話:病が消える

朝。


村に鐘の音が響いた。


以前なら、その音は恐怖だった。


誰かが倒れた。


熱を出した。


子供が息をしなくなった。


冬を越えられなかった。


鐘は、死を知らせる音だった。


しかし今。


鐘の意味は変わり始めていた。


「診療開始だ!」


ピーターの声が響く。


村人たちが笑う。


子供たちが走る。


水路の水が流れ、朝日を反射していた。


グロマールはその光景を静かに見ていた。


病が減っている。


数字として。


確実に。


以前、この村は病だらけだった。


腹を壊す。


熱が出る。


傷が腐る。


肺を悪くする。


子供が育たない。


理由は単純だった。


汚い水。


腐った食料。


湿気。


排泄物。


知識不足。


つまり環境だ。


人間が弱かったわけではない。


環境が悪すぎた。


グロマールは最初にそこを変えた。


水源。


浄化。


排水。


乾燥。


保存。


循環。


魔法だけではない。


仕組みだ。


だから村は変わった。


診療所の前。


ミネルバが子供の手を洗っていた。


「ちゃんと指の間まで洗うの」


優しい声。


しかし甘くない。


子供が適当に済ませようとすると、彼女はしっかりやり直させる。


以前のミネルバは遠慮していた。


嫌われることを怖がっていた。


でも今は違う。


「病気になる方が辛いの」


その言葉に子供は素直に頷く。


教育が浸透していた。


セレスが帳簿を確認する。


「今月の死亡者、ゼロ」


静かな声だった。


しかし重かった。


ミレナが息を止める。


ゼロ。


以前なら考えられない。


毎月誰か死んでいた。


老人。


子供。


病人。


それが普通だった。


しかし今。


死なない。


もちろん完全ではない。


怪我もある。


病もある。


だが明らかに違う。


ピーターが診療所から出てくる。


汗だくになっていた。


「腹痛の子も減ってる」


「咳も」


「熱も前よりずっと少ない」


ミネルバが小さく笑う。


「水ね」


グロマールが頷く。


水は全てに繋がる。


飲み水。


洗浄。


調理。


農業。


病。


だから最優先だった。


以前の井戸は酷かった。


泥。


虫。


腐敗。


排水も混ざっていた。


飲めば病気になる。


だが村人は知らなかった。


教育が無かったから。


グロマールは水属性魔法と光属性の浄化を組み合わせ、水源を徹底的に管理した。


さらに水路。


流れを止めない。


停滞させない。


汚染を循環させない。


その結果。


病が減った。


セレスが空を見る。


「怖いくらいね」


「人って、環境でここまで変わるんだ」


グロマールは答える。


「逆だ」


「今まで壊されていた」


その言葉に。


ミレナが静かに目を伏せた。


彼女は知っている。


昔の村を。


諦めた目。


死んだ顔。


笑わない子供。


冬になるたび消える老人。


病気は運命だと思っていた。


貧困は当然だと思っていた。


でも違った。


変えられた。


環境を変えれば。


ミレナはグロマールを見る。


この男は不思議だった。


支配しない。


威張らない。


英雄ぶらない。


ただ循環を作る。


そして人を育てる。


だから村人が変わる。


マイクが走ってくる。


「おい!」


「風呂できたぞ!」


広場がざわつく。


土属性で作った浴場。


簡易ではある。


しかし十分だった。


石造り。


排水付き。


熱湯生成。


蒸気循環。


グロマールが作り、村人たちが改良した。


以前の村では風呂など贅沢だった。


水が貴重だったから。


しかし今は違う。


水路がある。


浄化がある。


循環がある。


だから洗える。


マイクが笑う。


「ガキどもがめちゃくちゃ騒いでる」


セレスが吹き出した。


「そりゃそうでしょうね」


子供たちが走っていく。


笑っている。


それを見て、老人たちの目が少し潤む。


昔は無かった。


子供が元気な村。


病気で寝込まない村。


ミネルバは診療所へ戻る。


そこには以前助けた老人がいた。


咳をしていた男。


もう長くないと思われていた。


だが今は違う。


顔色がいい。


「……最近、息が楽だ」


ミネルバが笑う。


「ちゃんと水を飲んでますから」


「手も洗ってる」


老人は少し恥ずかしそうに笑った。


「最初は面倒だったがなぁ」


「でも、本当に変わるんだな」


ミネルバは静かに頷いた。


彼女も変わった。


以前は怖かった。


誰かを救えないことが。


でも今は違う。


知識がある。


仲間がいる。


環境がある。


だから救える。


診療所の外。


エバが数字を書いていた。


「病欠減少」


「作業時間増加」


「食料生産上昇」


「労働効率改善」


セレスが苦笑する。


「相変わらず数字ね」


エバは真顔だった。


「大事だから」


「病人が減ると、人が働ける」


「働けると余裕ができる」


「余裕があると教育できる」


「教育するとさらに病気が減る」


循環。


完全に理解している。


グロマールは何も言わない。


必要ない。


村人たちが自分で理解し始めている。


それが重要だった。


その時。


広場で小さな騒ぎが起きる。


子供が転んだ。


膝を切った。


以前なら放置だった。


泥が入り、化膿し、高熱を出す。


運が悪ければ死ぬ。


でも今は違う。


ピーターがすぐ駆け寄る。


水で洗う。


浄化。


光属性による微弱治癒。


包帯。


動きが早い。


迷いがない。


子供が泣き止む。


母親が頭を下げる。


ピーターは慌てて手を振った。


「い、いや、普通だから」


セレスが笑う。


「前は泣いてたのにね」


ピーターが真っ赤になる。


でも変わった。


弱かった少年が。


今は誰かを救っている。


環境が人を育てていた。


夕方。


村に湯気が広がる。


風呂。


調理。


洗濯。


以前ならあり得ない光景。


水がある。


薪がある。


食料がある。


そして笑顔がある。


ミレナは風呂帰りの子供たちを見る。


「……臭くない」


セレスが吹き出した。


「そこ?」


「大事よ」


本当に大事だった。


衛生は、生存だ。


グロマールは水路を歩く。


流れを確認する。


詰まり。


汚染。


循環。


問題なし。


空を見上げる。


夕日が赤い。


この村はまだ小さい。


貧しい。


未熟だ。


それでも。


確実に変わっている。


病が消え始めていた。


奇跡じゃない。


才能でもない。


教育。


循環。


衛生。


環境。


積み重ね。


だから再現できる。


だから広がる。


グロマールは静かに目を閉じた。


英雄はいらない。


必要なのは、続く仕組みだ。


そして今。


この村では確かに。


命が循環し始めていた。







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