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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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258話:ピーター先生

循環領北部。


旧開拓地。


そこには今、巨大な仮設都市が広がっていた。


避難民。


元騎士。


農民。


商人。


孤児。


使用人。


王国全土から流れ着いた人々。


既に人口は十万を超え始めている。


それでも。


循環領は崩壊していなかった。


水が流れている。


食事が配られている。


病人が治療されている。


子供たちが笑っている。


それを見た避難民たちは、皆同じ顔をした。


信じられない。


まるで別世界だった。


朝。


巨大な木造建築。


新設教育棟。


そこへ大量の子供たちが集まっていた。


机。


椅子。


黒板。


紙。


筆記具。


全て循環領生産。


循環領では、既に教育が“当たり前”になっている。


建物前。


ピーターが子供たちを見ていた。


優しい目。


だが昔の弱々しさはもう無い。


今の彼は教師だった。


治癒師だった。


循環領最大級の教育責任者。


子供たちが駆け寄る。


「ピーター先生ー!」


「今日なに習うの!?」


「字!」


「数字!」


「あと地図も!」


子供たちが笑う。


その光景を、遠巻きに元王国騎士たちが見ていた。


皆、呆然としている。


元騎士の一人が呟いた。


「……学校だ」


隣の男が息を呑む。


「子供が……字を習ってる」


彼らの常識ではありえなかった。


識字は貴族。


一部商人。


高級文官。


そういう“特別な人間”の技術。


平民の子供が学ぶなど聞いたことがない。


その時。


一人の少女が黒板へ文字を書く。


まだ拙い。


だが書けている。


騎士が目を見開いた。


「先生……」


ピーターが振り返る。


騎士は震える声で言った。


「子供まで字を書いてるのか」


ピーターは不思議そうな顔をした。


「普通ですよ?」


沈黙。


騎士たちは言葉を失う。


普通。


その言葉が重かった。


彼らの王国では違った。


農民は畑だけ。


孤児は路地。


使用人は一生使用人。


学ぶ機会そのものが無かった。


だが循環領では違う。


ピーターが黒板へ文字を書く。


『水』


『土』


『食』


『人』


子供たちが真似して書いていく。


ピーターは笑った。


「文字は便利ですよ」


「知らないことを残せます」


「遠くの人とも繋がれます」


「未来へ渡せます」


元騎士たちは静かに聞いていた。


武人団も補助へ入っている。


元々文字が苦手だった彼ら。


しかし今では教師補助だ。


武人団の大男が子供へ優しく言う。


「そこはこう書く」


少女が笑う。


「ありがとう!」


元騎士が呆然と呟く。


「武人が……教師を……」


その時。


マイクが後ろから笑った。


「俺らも最初は字なんか書けなかったぞ」


元騎士たちが振り返る。


マイクは腕を組む。


「でも困るんだよ」


「報告書読めねぇと」


「地図読めねぇと」


「数字分かんねぇと」


彼は子供たちを見る。


「強いだけじゃ守れねぇ」


その言葉は重かった。


王国騎士団は強かった。


だが国家は守れなかった。


一方。


循環領。


中央管理区。


セレスが大量の情報を確認していた。


人口。


食料。


住宅。


教育。


そして。


王宮内部索敵。


風属性索敵教師が報告する。


「王宮残留人員、減少継続」


「文官二十三」


「使用人三十七」


「近衛騎士十九」


セレスは静かに目を細めた。


「鑑定結果は」


教師が魔導板を確認する。


「忠誠型多数」


「現実理解者も確認」


「一部、王国至上思想残存」


「命令絶対型もいます」


セレスは即答した。


「選別」


教師たちが頷く。


循環領は誰でも救うわけではない。


見る。


判断する。


教育可能か。


循環へ加われるか。


危険か。


そこを徹底する。


転移教師団。


索敵教師団。


鑑定教師団。


全員が連携している。


その頃。


王宮裏区画。


残された使用人たちは疲弊していた。


食料不足。


灯火減少。


給金停止。


皆、限界が近い。


老執事が静かに言う。


「……王宮はもう終わりだ」


若い侍女が涙を流す。


「でも、陛下が……」


老執事は首を横へ振る。


「国家は王だけでは動かない」


その瞬間。


風が吹いた。


空間が揺れる。


転移魔法。


使用人たちが息を呑む。


現れたのは。


循環領教師団だった。


若い女教師が一礼する。


「循環領です」


「保護対象を迎えに来ました」


近衛騎士たちが剣へ手をかける。


だが教師たちは冷静だった。


鑑定済み。


索敵済み。


危険人物も把握済み。


女教師が静かに言う。


「王国民を救援しています」


「協力してください」


老執事が震える声で尋ねる。


「我々も……?」


教師は頷く。


「働ける人は歓迎します」


「学べる人も歓迎します」


若い侍女が泣き崩れる。


その時。


別廊下側。


怒鳴り声。


王国至上思想の近衛騎士だった。


「裏切り者共が!」


「王を見捨てる気か!」


彼は剣を抜く。


だが次の瞬間。


風拘束。


土拘束。


一瞬だった。


教師が冷たく言う。


「保護対象外」


誰も反論しない。


循環領は甘くない。


救う。


だが壊す者は切る。


それが循環領だった。


老執事が静かに頭を下げる。


「……感謝します」


女教師は首を横へ振る。


「循環領は、人を使い捨てません」


その言葉で、多くの使用人たちが泣き出した。


一方。


教育棟。


ピーターの授業は続いていた。


子供たちが笑っている。


数字を書く。


文字を書く。


地図を見る。


元騎士たちは、その光景を見つめていた。


騎士の一人が呟く。


「これが……国か」


ピーターは聞こえていた。


だが振り返らない。


彼は黒板へ大きく書く。


『未来』


子供たちが声を揃える。


「みらい!」


ピーターは笑った。


「そうです」


「皆さんが未来です」


その言葉に。


元騎士たちは、静かに俯いた。


ベルグラード王国には無かった。


未来を育てる仕組みが。


だから滅びた。


循環領にはある。


だから広がる。


国家とは城ではない。


民だ。


生活だ。


そして。


“教育”だった。







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