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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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252/322

250話:文明

夜明け前。


教育都市中央塔の最上階。


巨大な窓の向こうに、

文明が広がっていた。


灯り。


物流道路。


農地。


工場。


学校。


病院。


研究施設。


港。


ゴーレム輸送列。


遠方では、

夜勤の工場区がまだ稼働している。


さらに外周。


巨大農業地帯。


食料充足率七〇〇%超。


もはや“飢えない”ことが前提になった世界。


その光景を、

グロマールは静かに見下ろしていた。


隣にはセレス。


少し離れた場所にフェルド。


さらに護衛代わりにマイク。


昔なら考えられなかった並びだった。


村。


病。


飢餓。


泥。


何もなかった場所。


そこから始まった。


セレスが小さく笑う。


「……もう国家って規模じゃないわね」


グロマールは答えない。


ただ街を見る。


その沈黙を、

マイクが破った。


「正直、まだ信じられねぇな」


「俺、昔は腹減って石投げてケンカしてたんだぞ」


フェルドが苦笑する。


「今では防衛隊の総司令官です」


「人生は分からないものですね」


マイクが頭をかく。


「そういう難しい話はいいんだよ」


「けどまぁ……」


街を見る。


子供たちが歩いている。


夜明け前なのに、

勉強している学生。


物流確認をする若い役人。


朝食準備をする料理人。


衛生確認を行う治癒師。


全部動いている。


誰かに怒鳴られているわけじゃない。


命令されているわけでもない。


自分で動いている。


マイクが呟く。


「……ほんと変わったな」


グロマールがようやく口を開いた。


「変えたんじゃない」


静かな声。


「戻しただけだ」


セレスが視線を向ける。


グロマールは続けた。


「人は、本来学ぶ」


「本来考える」


「本来助け合う」


「それを止めていたものを壊しただけだ」


窓の向こう。


朝日が差し込む。


街が金色に染まる。


その瞬間、

中央学校の鐘が鳴った。


一斉に都市が動き始める。


学生。


教師。


役人。


物流。


農業。


工場。


病院。


全部が連動している。


文明だった。


フェルドが静かに言う。


「帝国では、最近こう呼ばれています」


「“循環文明圏”と」


グロマールが眉をひそめる。


「勝手に名前を付けるな」


セレスが笑った。


「もう無理よ」


「世界が勝手にそう呼んでる」


実際、そうだった。


帝国。


ベルセリア王国。


神殿国家ルーメシア。


宗教国家レヴァイン。


さらに周辺小国家。


全部、教育制度を導入していた。


教師育成。


衛生教育。


行政学校。


工業学校。


農業学校。


物流設計。


統計管理。


文明が連鎖している。


しかも止まらない。


教育が教育を生み、

技術が技術を育て、

人材が次の人材を育てる。


完全循環。


昔の世界は違った。


知識は独占。


技術は秘匿。


教育は禁止。


だから停滞した。


今は逆。


広げるほど伸びる。


だから文明速度が異常だった。


中央行政区。


巨大な統計盤。


人口。


出生率。


死亡率。


GDP。


食料充足率。


幸福度。


教育普及率。


覚醒率。


全部表示されている。


若い官僚たちが真剣な顔で確認していた。


「北方領、幸福度低下」


「物流遅延です」


「原因特定急げ」


「教師追加派遣します」


誰も隠さない。


数字で見る。


現実を見る。


それが新時代だった。


病院区。


若い治癒師たちが動いている。


ミネルバ派。


ピーター派。


第二世代。


彼らは普通に滅菌する。


普通にポーションを使う。


普通に衛生管理する。


だから死者が少ない。


かつては疫病で国が滅んだ。


今は違う。


文明が病に勝ち始めていた。


工業区。


巨大な工場。


紡織機械。


精製設備。


鍛冶炉。


魔導加工。


ドワーフたちが指導している。


若い職人たちが学ぶ。


「温度管理!」


「素材混合比!」


「物流確認!」


知識が現場に降りている。


それが文明だった。


中央道路。


巨大なゴーレム輸送列が進む。


マリーが設計した専用道路。


完全分離物流。


事故率激減。


輸送効率大幅向上。


さらに、

教育都市と工業都市、

農業都市が全て繋がっている。


文明圏。


国家単位ではない。


世界構造そのものが変わっていた。


高台。


第二世代の子供たちが街を見ていた。


彼らは知らない。


昔の絶望を。


だから逆に、

未来を見る。


「俺、研究者になる!」


「私は教師!」


「僕は行政官!」


夢がある。


未来がある。


それが文明だった。


夕方。


中央広場。


多種族の人々が普通に食事していた。


エルフ。


魔族。


獣人。


人族。


ドワーフ。


誰も気にしていない。


昔なら戦争していた。


今は一緒に飯を食っている。


理由は単純。


教育があるから。


比較できるから。


対話できるから。


夜。


中央塔。


セレスがグロマールを見る。


「ねぇ」


「後悔してる?」


グロマールは少し考えた。


長い沈黙。


街を見る。


光。


人。


循環。


文明。


静かに口を開く。


「……分からん」


「俺は王じゃない」


「循環を始めただけだ」


その言葉は、

妙に静かだった。


英雄の言葉じゃない。


征服者の言葉でもない。


本当に、

そう思っている声だった。


セレスが小さく笑う。


「でも、その循環で世界が変わった」


グロマールは答えない。


代わりに、

街を見続ける。


文明はもう、

彼一人のものではなかった。


教師が育てる。


学生が受け継ぐ。


役人が支える。


農民が作る。


職人が繋ぐ。


治癒師が守る。


物流が回す。


全部が循環している。


だから止まらない。


そしてその夜。


教育都市中央学校。


夜遅くまで灯りがついていた。


若い教師たちが、

明日の授業準備をしている。


それは戦争ではない。


支配でもない。


未来だった。







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