249話:未来
第二世代が世界を見る。
循環政治が始まってから生まれた世代。
彼らにとって、
学校は当たり前だった。
教師がいる。
病院がある。
文字が読める。
物流が届く。
腹いっぱい食べられる。
それは奇跡ではない。
日常だった。
教育都市中央学校。
朝。
巨大な鐘が鳴る。
同時に、
子供たちが校舎へ走っていく。
人族。
エルフ。
ドワーフ。
獣人。
魔族。
ダークエルフ。
全部混ざっている。
昔なら考えられなかった光景だった。
教室。
若い教師が黒板へ文字を書く。
「今日の授業は歴史です」
子供たちが静かに座る。
その中には、
循環政治以後に生まれた子供たちも多い。
彼らは知らない。
昔の世界を。
飢え。
病。
無教育。
圧政。
それを“物語”としてしか知らない。
教師が問いかける。
「昔の国家は、なぜ崩壊したのでしょう?」
少年が手を挙げる。
「教師がいなかったからです!」
別の少女。
「学べなかったから!」
さらに獣人の少年。
「偉い人が命令するだけだったから!」
教師は頷く。
「その通りです」
「そして、比較できなかった」
「だから間違いに気づけなかった」
子供たちは真剣に聞いている。
歴史を“暗記”しているのではない。
考えている。
それが今の教育だった。
教育都市中央広場。
昼。
学生たちが討論していた。
工業学校。
行政学校。
農業学校。
衛生学校。
料理学校。
それぞれの学生が、
普通に議論している。
「蒸気機関は必要か?」
「いや、まだゴーレム物流の方が効率的だ」
「でも長距離輸送は?」
「食料保存技術を優先すべきだ」
誰も黙らない。
誰も怒鳴らない。
身分で押さえつけない。
理屈で話す。
それが普通だった。
旧時代を知る老人たちは、
時々その光景を呆然と見ていた。
「……変わったな」
「本当に別世界だ」
市場通り。
子供たちが本を持って歩いている。
物流ゴーレムが横を通る。
料理店には列。
工場区からは規則的な音。
農業区では、
若い教師たちが土壌改善を教えている。
全部繋がっている。
全部循環している。
工業学校実習区。
若いドワーフ教師が声を上げる。
「そこ! 温度管理!」
「鉄は感覚だけで打つな!」
学生たちが汗を流す。
エルフの少女が真剣な顔で炉を見る。
獣人の青年が図面を描く。
人族の少年が物流設計を考える。
昔ならあり得ない。
種族ごとに分断され、
技術は秘匿され、
教育は独占されていた。
今は違う。
教える。
共有する。
育てる。
だから文明が伸びる。
行政学校。
フェルド・レイヴンが特別講義をしていた。
若手官僚候補たちが静まり返る。
フェルドが静かに言う。
「官僚とは何ですか?」
生徒たちは考える。
若い少女が答えた。
「民を支える仕事です」
フェルドは頷く。
「正解です」
「支配ではありません」
「上に立つことでもありません」
「国家を止めないことです」
教室が静かになる。
さらに続ける。
「優秀な官僚ほど、目立ちません」
「循環を止めないからです」
それは、
まさにグロマールの思想だった。
英雄ではなく、
循環。
個人支配ではなく、
仕組み。
教育都市病院。
ミネルバ派の治癒師たちが動いている。
若い治癒師。
衛生教師。
薬師。
全員、第二世代だった。
彼らにとって、
病院とは普通の存在。
衛生教育も普通。
ポーションも普通。
滅菌も普通。
だから死亡率が低い。
昔のように、
病が村を滅ぼすことはほとんど無くなった。
若い薬師が呟く。
「昔って、滅菌しなかったんですか?」
年配教師が苦笑する。
「昔は概念すら無かった」
若い薬師は目を丸くする。
信じられない。
それほど文明差が開いていた。
農業学校。
巨大な畑。
若い教師たちが、
魔力循環型農法を教えている。
土壌回復。
水管理。
輪作。
害虫対策。
保存技術。
さらに魔法運用。
風魔法による送風。
水魔法による灌漑。
土魔法による地盤整備。
全部体系化されている。
学生たちは自然に使う。
特別な力だと思っていない。
学べば使える。
それが彼らの常識だった。
夕方。
教育都市高台。
子供たちが街を見下ろしていた。
物流道路。
工場区。
農業区。
学校。
病院。
研究区。
全部光っている。
少年が言う。
「俺、大臣になりたい」
隣の少女が言う。
「私は教師」
さらに別の子。
「俺は物流作る!」
夢がある。
未来を見ている。
それが第二世代だった。
彼らは、
“生き延びるため”に生きていない。
“作るため”に生きている。
夜。
中央行政塔最上階。
セレスが帝都を見下ろしていた。
隣にはフェルド。
静かな夜。
セレスが小さく呟く。
「……不思議ね」
「昔は、生きるだけで必死だったのに」
フェルドが答える。
「今の子供たちは違います」
「未来を前提に生きている」
それが最大の変化だった。
昔の世界に、
未来は無かった。
今はある。
学校へ行けば、
未来が変わる。
努力すれば、
未来が伸びる。
学べば、
世界が広がる。
それを子供たちは知っている。
セレスが静かに笑う。
「……ようやく、始まったのかもしれないわね」
文明は、
まだ完成していない。
けれど確実に進んでいる。
第二世代は、
もう誰かに命令されて生きる世代ではなかった。
自分で学び、
自分で考え、
自分で未来を選ぶ世代だった。




