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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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239話:工業都市

工業学校。


工場。


鍛冶。


物流。


都市分化。


朝。


循環領北部。


巨大な煙突群から白煙が上がる。


鉄の音。


蒸気。


槌音。


荷車。


ゴーレム運搬車。


無数の人間が動いていた。


ベルセリア使節団は、

言葉を失っていた。


「……都市だ」


ガルムが呟く。


しかし。


普通の都市ではない。


城が中心ではない。


神殿でもない。


市場でもない。


学校。


それが中心だった。


中央工業学校。


巨大な校舎。


そこから工場群が広がっている。


工業学校を中心に、

鍛冶区画。


物流区画。


紡織区画。


加工区画。


整備区画。


研究区画。


全部が繋がっていた。


フィリア女王が見上げる。


「学校が……都市を作っている」


セレスが静かに答える。


「はい」


「逆なんです」


「都市の中に学校を置くのではなく」


「学校の周囲に都市を作る」


ベルセリア側の文官たちがざわつく。


理解できる。


しかし。


発想が違う。


工業学校正門。


巨大な掲示板。


生産予定。


物流予定。


素材不足。


鍛冶炉稼働率。


学生評価。


全部が文字で管理されている。


フィリア女王が静かに読む。


「識字率が高いから……」


「情報共有速度が異常なのですね」


「はい」


セレスが頷く。


「だからミスが減ります」


「属人化もしません」


そこへ。


ドワーフ教師が現れる。


白髭。


筋骨隆々。


しかし眼鏡を掛けている。


鍛冶だけの男ではない。


研究者だった。


「今日は高熱炉の実演だ」


「ベルセリアの方々も見学可能だぞ」


案内が始まる。


巨大工場。


鉄鉱石。


精錬。


加工。


分業。


全てが異常な速度で進む。


理由。


教育。


学生たちは理解して動いている。


ただ命令されているのではない。


意味を知っている。


そこが違った。


若い獣人学生。


巨大な鉄材を運ぶ。


その隣。


エルフ学生が測定。


ドワーフ学生が加工。


人族が記録。


ダークエルフが魔力制御。


完全分業。


ガルムが呟く。


「軍より統率されてる……」


鍛冶教師が笑う。


「軍隊ですからな」


「工業は戦争です」


「止まったら死ぬ」


その言葉に。


ベルセリア使節団が黙る。


理解してしまう。


この国は。


もう。


“農村国家”ではない。


工業文明へ入っている。


次。


物流区画。


ここでベルセリア側はさらに驚く。


巨大倉庫。


荷物が並ぶ。


しかし混乱がない。


全部番号管理。


地域別。


品質別。


用途別。


温度管理。


保存期間。


全て文字で整理されていた。


ジミーが案内役として現れる。


「こっちは保存食」


「こっちは医療物資」


「で、こっちが工業素材」


「全部流れ決まってる」


ベルセリア商人たちが顔を青くする。


「……これ」


「盗難出ないのか?」


ジミーが笑う。


「出るぞ」


「でもすぐ分かる」


「識字率高いからな」


帳簿。


在庫。


記録。


全部残る。


つまり。


誤魔化せない。


物流とは、

“記録”だった。


フィリア女王が静かに言う。


「だから商業国家も崩れ始めているのですね」


セレスが頷く。


「教育された物流は強いです」


「感覚では勝てません」


次。


紡織区画。


巨大だった。


布。


糸。


染色。


織機。


魔導織機。


大量生産。


しかも。


品質が高い。


女性教師が説明する。


「紡織スキル覚醒者が増えています」


「教育すると適性が開花するので」


ベルセリア貴族女性たちが驚く。


「こんな均一な布……」


「王都でも見たことがありません」


そこへ。


若い少女が現れる。


元孤児。


今は紡織教師補佐。


「この染料は植物由来です」


「魔力循環で色落ちを抑えています」


専門知識。


流暢。


誇りがある。


フィリア女王はその少女を見ていた。


服装は簡素。


しかし。


堂々としている。


教育。


それが人間を変えていた。


昼。


工業学校食堂。


数千人規模。


しかし回る。


料理教師。


配膳係。


栄養管理。


全部教育済み。


ベルセリア使節団はまた驚く。


「工員が栄養管理されてる……」


「当然です」


料理教師が答える。


「倒れると効率が落ちます」


合理。


しかし。


同時に優しい。


それが循環領だった。


午後。


鍛冶実習場。


炎。


熱気。


巨大な炉。


学生たちが汗を流す。


ドワーフ教師が怒鳴る。


「温度見ろ!」


「感覚だけで叩くな!」


「数字を覚えろ!」


ベルセリア鍛冶師たちが固まる。


数字。


鍛冶に。


彼らは感覚でやっていた。


しかし。


ここは違う。


記録。


研究。


再現性。


つまり。


工業化。


グロマールが静かに言う。


「才能だけでは限界があります」


「再現できない技術は」


「滅びます」


その瞬間。


ベルセリア側は理解した。


この国。


強い理由。


英雄がいるからではない。


仕組み。


教育。


継承。


つまり。


“個人依存から脱却している”


夕方。


物流駅。


巨大だった。


荷車。


ゴーレム車両。


人。


物。


全部が動く。


交通整理。


時間管理。


配送管理。


遅延確認。


全部文字。


全部教育。


フィリア女王が静かに言う。


「都市が分化している……」


「農業都市」


「教育都市」


「工業都市」


「医療都市」


「物流都市」


「全部役割が違う」


セレスが頷く。


「効率が良いので」


「無理に全部を一箇所でやる必要がありません」


ベルセリア文官が震える。


「国家規模で分業してる……」


つまり。


循環領はもう。


“村”ではない。


文明だった。


夜。


歓迎会。


工業都市中央会館。


ドワーフ酒。


保存食。


燻製肉。


大量の料理。


ベルセリア使節団は疲れていた。


衝撃が多すぎた。


ガルムが酒を飲みながら言う。


「……勝てんな」


誰も否定しない。


戦争ではない。


文明差。


それを理解してしまった。


フィリア女王が静かにグロマールを見る。


「あなたは」


「どこまで行くつもりですか」


グロマールは少し考えた。


そして。


静かに答える。


「人が」


「才能を無駄にしない世界までです」


それだけだった。


しかし。


ベルセリア使節団全員が理解した。


この国は。


止まらない。


教育。


工業。


物流。


分業。


全部が繋がっている。


そして。


それを支えているのは。


英雄ではない。


学び続ける人間たちだった。







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