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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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214話:第二世代

雪解け。


循環領。


朝。


治療院の窓から、柔らかな光が差し込んでいた。


赤子の泣き声。


母親たちの笑い声。


湯気。


温かい匂い。


そこには、昔の世界には無かった空気があった。


安心。


それがあった。


ミネルバが赤子を抱き上げる。


小さな手。


柔らかな頬。


命。


かつて。


この世界では。


子供は“増えなかった”。


増やせなかった。


飢える。


死ぬ。


病に倒れる。


冬を越えられない。


孤児になる。


売られる。


消える。


だから人々は。


子を産むことを恐れていた。


だが今。


違う。


ミネルバが静かに言う。


「今年だけで……

出生率が五倍を超えました」


セレスが資料を確認する。


循環領。


帝国。


ベルセリア。


全部で同じ現象が起きていた。


【前年比出生率:523%】


【乳児死亡率:大幅減少】


【栄養失調率:激減】


【妊産婦死亡率:低下】


【孤児発生率:減少】


数字。


それは残酷なほど正直だった。


人は。


安心すると子供を産む。


未来が見えると。


家族を作る。


グロマールは窓の外を見る。


子供たちが走っている。


笑っている。


転んでいる。


泣いている。


それを。


親たちが笑って見ている。


以前は存在しなかった光景だった。


帝国時代。


子供は労働力だった。


農地へ。


鉱山へ。


戦場へ。


死ぬために育てられていた。


だが今。


違う。


教育。


衛生。


食事。


安全。


全部が揃い始めていた。


だから。


“第二世代”が生まれた。


最初から教育を受ける世代。


ピーターが教室へ入る。


小さな机。


小さな椅子。


そこに。


十数人の子供たちが座っていた。


年齢は五歳前後。


だが。


異常だった。


魔力制御ができている。


火を暴発しない。


水を暴走させない。


呼吸のように。


自然に魔力循環を行っている。


ピーターが驚いた顔をする。


「早い……」


隣の教師が頷く。


「生まれた時から見てますから」


それが大きかった。


親が理解している。


教師が存在する。


環境が整っている。


だから。


子供たちの成長速度が違った。


一人の少年が手を上げる。


「先生」


「なんですか?」


「水魔法って。

なんで温度変えられるんですか?」


周囲が静まる。


五歳児の質問ではなかった。


ピーターが笑う。


「いい質問です」


彼は丁寧に説明する。


熱。


循環。


魔力操作。


以前なら。


そんな教育は存在しなかった。


だから。


“才能ある者だけ”が偶然気づいていた。


今は違う。


全員が学ぶ。


だから。


全員が伸びる。


その時だった。


教室後方。


乳飲み子を抱いた母親が震える声を上げた。


「せ、先生……!」


ミネルバが駆け寄る。


赤子。


まだ生後半年。


その小さな周囲に。


淡い光が漂っていた。


水。


風。


光。


魔力が自然に循環している。


誰も息を呑む。


乳飲み子。


それなのに。


魔力暴走が無い。


完全安定。


グロマールが静かに鑑定する。


【魔力循環:発現】


【属性適性:全属性】


【精神安定率:極高】


セレスが息を呑む。


「まさか……」


ピーターの声が震える。


「生まれた時から……

教育環境があるから……?」


そう。


第二世代。


彼らは違った。


親が魔力を理解している。


栄養が足りている。


衛生がある。


恐怖が少ない。


教育がある。


だから。


“最初から土台が完成していた”


これは。


文明そのものだった。


ミネルバが優しく赤子を抱きしめる。


赤子は泣かない。


穏やかだった。


周囲の魔力を。


自然に循環している。


異常。


だが。


本来の人間だった。


今までが。


壊れていただけ。


ベルセリア。


雪国。


巨大保育院。


暖炉。


大鍋。


子供たちが笑っている。


カーラがベル芋煮スープを配っていた。


温かい匂い。


肉。


根菜。


湯気。


子供たちが夢中で食べる。


以前のベルセリアでは考えられなかった。


冬は。


死の季節だった。


今は違う。


食料自給率。


防寒具。


紡織産業。


医療。


全部が循環していた。


フィリア女王が静かにその光景を見る。


その隣。


ベルセリア最強剣士。


帝国最強剣士の一人である男が立っていた。


彼が呟く。


「国ってのは……

城じゃねぇんだな」


フィリアが微笑む。


「ええ」


「子供です」


静かな答え。


完全に本質だった。


国家とは。


未来へ投資する仕組み。


それを。


グロマールは作り始めていた。


その頃。


帝都ヴァルディス。


巨大教育区。


教師四千人。


生徒数。


十万超。


完全に国家規模だった。


アレクシス・ヴァルディスが資料を見る。


震えていた。


「十年後……

帝国はどうなる」


官僚が答えられない。


なぜなら。


誰も経験したことがない。


教育国家。


識字率上昇。


衛生革命。


農業革命。


物流革命。


全部同時。


前例が存在しない。


グロマールが静かに言う。


「変わりますよ」


「全部」


その言葉。


重かった。


既に。


始まっている。


孤児が教師になる。


農民が会計士になる。


元奴隷が技術者になる。


元娼婦が衛生教師になる。


獣人が索敵指揮官になる。


魔族が治療師になる。


血筋。


家柄。


その価値が。


崩壊し始めていた。


だが。


もっと恐ろしいのは。


第二世代だった。


最初から教育される世代。


最初から栄養がある世代。


最初から安心して眠れる世代。


最初から学べる世代。


それは。


別の生き物だった。


マイクが子供たちを見て笑う。


「こいつら……

俺らより遥かに強くなるな」


ピーターが苦笑する。


「ええ」


「たぶん」


「僕たちの時代は……

土台を作っただけです」


その言葉。


グロマールが静かに聞いていた。


英雄ではない。


王でもない。


支配者でもない。


循環を始めた人。


その結果。


世界そのものが。


別の形へ変わり始めていた。


窓の外。


子供たちが笑う。


その小さな手に。


未来が握られていた。







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