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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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209話:寒冷地綿花

北方国家ベルセリア。


かつては。


寒さに耐えるだけの国だった。


長い冬。


凍る大地。


短い夏。


作物は育たず。


服は不足し。


包帯すら貴重だった。


怪我人は凍え。


病人は衰弱し。


子供は冬を越えられなかった。


だが。


今。


ベルセリアは変わり始めていた。


雪原の向こう。


広大な白い畑。


そこに植えられているのは。


寒冷地綿花。


普通の綿花ではない。


寒さに耐え。


北風に耐え。


痩せた土地でも育つ特殊品種。


繊維は太い。


加工難度は高い。


だが。


その代わり。


圧倒的に丈夫だった。


王都近郊。


新設された紡織工場。


内部では大量の綿が運ばれていた。


糸車。


織機。


乾燥室。


染色室。


全部が稼働している。


「止めるな!

湿気管理!」


「次の束運べ!」


「検品急げ!」


職人たちが動く。


その中心にいたのは。


ミーナだった。


帝国北部防衛都市グランゼル。


その都市で最高峰と呼ばれる紡織職人。


仕立師。


彼女は布を指で撫でる。


「……いい」


小さく呟く。


隣にいたベルセリア職人が緊張した顔をする。


「ほ、本当ですか?」


「ええ。

繊維強度は十分」


「吸水性も高い」


「これは売れるわ」


その瞬間。


工場に歓声が上がった。


ベルセリア人たちは理解していた。


これはただの布ではない。


国家を変える産業だ。


ミーナが机に広げたのは試作品。


タオル。


包帯。


下着。


防寒具。


全部。


寒冷地綿花から作られていた。


「これが……」


ベルセリア文官が息を呑む。


包帯が違う。


従来品より柔らかい。


吸水性が高い。


洗える。


繰り返し使える。


治療院革命だった。


ミネルバが静かに頷く。


「感染率が下がります」


「衛生状態も改善される」


「赤子の死亡率も減るはずです」


周囲が静まり返る。


ベルセリアでは。


病は日常だった。


寒さ。


不衛生。


傷口の腐敗。


全部が人を殺していた。


だが今。


変わり始めている。


フィリア女王が布を手に取る。


柔らかい。


温かい。


そして。


清潔だ。


「……これが産業」


彼女が呟く。


以前のフィリアなら。


武器を優先していた。


兵士を増やしていた。


だが今は違う。


民の生活を見る。


国家を見る。


それが女王スキルだった。


「服が増えれば病が減る」


「包帯が増えれば命が助かる」


「防寒具が増えれば冬を越えられる」


フィリアが静かに言う。


「国家は剣だけでは守れない」


その言葉に。


周囲の教師たちが微笑んだ。


成長している。


本当に。


王として。


そこへ。


大柄な男が入ってきた。


帝国武闘救援団。


拳神。


ドグラム。


巨大な体。


鍛え抜かれた肉体。


だが。


性格は意外なほど穏やかだった。


「おーい。

資材運んできたぞ」


肩に大量の木箱を抱えている。


兵士数人分の重量。


普通の人間なら潰れる。


だが。


ドグラムは平然としていた。


「乱暴に置かないでください」


そう言ったのは。


索敵教師リシェルだった。


緑色の髪。


鋭い目。


冷静な女教師。


ベルセリア派遣組の中心人物の一人。


「布は湿気と衝撃に弱いんです」


ドグラムが慌てて姿勢を正す。


「す、すまん!」


周囲が吹き出した。


拳神が怒られている。


しかも完全に素直。


リシェルは呆れたようにため息を吐く。


「本当に脳筋ですね」


「うっ……」


「でも。

運搬速度は助かってます」


ドグラムが固まる。


耳まで赤い。


周囲がニヤニヤし始める。


帝国武闘救援団員たちが肘で突き合う。


「おい拳神」


「顔」


「うるせぇ!」


リシェルは気づいていない。


完全に仕事モードだった。


だが。


ドグラムは完全に落ちていた。


そして。


リシェルも。


実は少し意識し始めていた。


この男。


単純。


真っ直ぐ。


不器用。


でも。


人を守るために動ける。


災害現場で。


真っ先に瓦礫へ飛び込む。


子供を抱えて戻る。


老人を運ぶ。


文句を言わない。


それを。


彼女は見ていた。


だから。


嫌いではない。


むしろ。


かなり好印象だった。


「リシェル先生!」


子供が駆け寄る。


「新しいタオルできた!」


「見せてください」


リシェルがしゃがむ。


子供の頭を撫でる。


その瞬間。


ドグラムが固まった。


優しい。


索敵教師としての鋭さとは別の顔。


その笑顔を見た瞬間。


ドグラムの身体から魔力が溢れた。


空気が震える。


周囲が驚く。


「なっ……!?」


ドグラムの視界が広がる。


熱。


風。


水分。


生命反応。


地形。


全部が見える。


全属性索敵スキル。


覚醒。


さらに。


頭の中へ知識が流れ込む。


教える。


育てる。


導く。


それが理解できる。


教導スキル。


覚醒。


ドグラムが目を見開く。


「これ……は……」


ピーターが静かに笑った。


「環境ですね」


「え?」


「人は。

環境で変わるんです」


リシェルが驚いた顔でドグラムを見る。


すると。


今度は。


彼女の身体からも魔力が溢れた。


「……っ!?」


視界が変わる。


身体制御。


剣筋。


間合い。


戦闘理解。


拳。


剣。


両方が流れ込む。


拳豪スキル。


剣豪スキル。


同時覚醒。


リシェルが目を丸くした。


「は……?」


ドグラムも固まる。


ピーターが苦笑する。


「相性いいですねぇ」


周囲が爆笑した。


リシェルが真っ赤になる。


「ち、違います!」


「いや絶対そうだろ!」


「拳神殿顔!」


「リシェル先生も!」


現場が騒がしくなる。


フィリア女王がそれを見て笑った。


昔のベルセリアには無かった光景。


笑い。


余裕。


人間関係。


未来。


全部。


増えている。


それは。


食料だけの問題ではない。


教育。


衛生。


産業。


道路。


医療。


全部が繋がっている。


循環。


グロマールが始めたもの。


それが今。


世界へ広がっていた。


ミーナが新しい布を掲げる。


純白のタオル。


ふわりと湯気を吸う。


「これ。

絶対売れるわ」


ジミーが即答する。


「いや。

もう売れる未来しか見えねぇ」


「帝国が欲しがる」


「循環領も大量導入」


「治療院全部変わるぞ」


フィリアが静かに言った。


「ベルセリアは。

寒さに耐える国ではない」


皆が彼女を見る。


フィリアの瞳は真っ直ぐだった。


「寒さを利用する国になります」


沈黙。


そして。


歓声。


ベルセリアの冬。


それは。


弱点ではなくなる。


国家の武器へ変わる。


寒冷地綿花。


紡織。


医療。


防寒。


輸出。


新産業。


全部が繋がる。


循環が。


また一つ。


世界を書き換えていた。







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