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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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212/322

210話:いも煮

北方国家ベルセリア。


雪。


白銀。


凍える風。


それがこの国の日常だった。


だからこそ。


人は“温かさ”を求める。


火。


湯。


食事。


人の声。


その全部が。


生きる理由になる。


王都ベルセリア中央広場。


巨大な鉄鍋が並んでいた。


十。


二十。


三十。


全部が稼働している。


薪の火。


蒸気。


湯気。


肉の香り。


香草。


味噌に似た発酵調味料。


人々の歓声。


子供たちの笑顔。


ベルセリア名物。


ベル芋煮スープ。


その中心にいたのは。


カーラだった。


帝国北部防衛都市グランゼル。


そこで人気を誇る料理人。


元々は貧困街出身。


だが。


ピーターに救われ。


料理スキルを授かり。


人生を変えた。


今では。


帝国でも名を知られる料理人だった。


「ベル芋追加!」


「肉はまだ煮込む!」


「焦るな!

火を殺すな!」


カーラが指示を飛ばす。


周囲の料理人たちが一斉に動く。


以前のベルセリアではあり得ない光景。


大量調理。


共同食事。


民衆文化。


全部が新しい。


鍋の中では。


大量のベル芋が煮込まれていた。


ベル芋。


ピーターが持ち込んだ寒冷地向け根菜。


寒さに強い。


保存性が高い。


栄養価も高い。


そして。


腹に溜まる。


ベルセリアの民にとって理想的な作物だった。


カーラが木匙でスープを掬う。


とろり。


濃厚。


ベル芋が崩れ。


スープに溶け込んでいる。


肉の脂。


香草。


野菜。


全部が混ざる。


「……うん」


カーラが小さく頷く。


料理スキルが反応していた。


温度。


塩分。


旨味。


全部が見える。


そして。


今。


この料理は完成していた。


「配膳開始!」


歓声が上がる。


民衆が列を作る。


老人。


子供。


労働者。


兵士。


教師。


全部が並ぶ。


昔なら。


食料配給は奪い合いだった。


怒号。


喧嘩。


混乱。


だが今は違う。


余裕がある。


食料がある。


未来がある。


それが国家を変えていた。


マイクが巨大鍋を持ち上げる。


普通なら数人必要。


だが。


親分スキル覚醒後のマイクは別格だった。


「おらぁ!

熱いから気ぃつけろ!」


子供たちが笑う。


「マイク兄ちゃんすげぇ!」


「任せろ!」


完全に人気者だった。


そして。


女たちが騒いでいた。


「マイク様ぁぁ!」


「今日も格好いい!」


「抱えてぇぇ!」


カーラがじっと見る。


マイクが苦笑した。


「……なんか最近すげぇな」


「人気ですね」


カーラが少しだけ不機嫌そうに言う。


マイクが首を傾げた。


「ん?」


「別に」


「……なんで怒ってんだ?」


「怒ってません」


完全に怒っていた。


周囲の料理人たちがニヤニヤする。


マイクは鈍い。


だが。


最近ようやく理解し始めていた。


カーラが自分を意識している。


そして。


自分も。


カーラを見てしまう。


仕事中の真剣な顔。


笑った顔。


料理している時の目。


全部。


好きだった。


カーラがスープを渡す。


「味見してください」


マイクが飲む。


熱い。


濃厚。


腹の底から温まる。


「……うめぇ」


その一言。


カーラが少しだけ笑った。


その笑顔を見て。


周囲の女たちが絶叫した。


「カーラさんずるいぃ!」


「距離近い!」


「マイク様ぁぁ!」


広場が笑いに包まれる。


フィリア女王がその光景を見る。


静かに。


優しく。


「温かい国になりましたね」


隣にいたピーターが頷く。


「はい」


「昔は。

食べるだけで必死でした」


フィリアが鍋を見る。


大鍋文化。


共同食事。


それは。


単なる料理ではない。


国家文化だった。


皆で食べる。


皆で笑う。


皆で冬を越える。


ベルセリアは。


“耐える国”から。


“支え合う国”へ変わっていた。


その時だった。


歓声が上がる。


「来たぞ!」


「武闘救援団だ!」


帝国武闘救援団。


大男たちが広場へ入ってくる。


拳神。


剣豪。


槍聖。


剣聖。


だが。


もう彼らは“戦争屋”ではない。


災害救助。


物流。


護衛。


建設。


全部を担当する存在だった。


その中心。


拳神ドグラム。


巨大な鍋を片手で持っている。


周囲が笑う。


「お前また鍋持ってんのか!」


「運ぶの楽なんだよ!」


その時。


索敵教師リシェルが現れた。


「ドグラム」


「お、おう!」


一瞬で姿勢が正しくなる。


周囲が吹き出した。


「まただ」


「完全に尻に敷かれてる」


リシェルが鍋を覗き込む。


「火力強すぎです」


「ベル芋崩れますよ」


「ま、まじか!?」


慌てて火を弱めるドグラム。


拳神なのに完全に素直だった。


リシェルが呆れたようにため息を吐く。


「脳筋」


「ひでぇ!」


だが。


そのやり取りが自然だった。


二人は既に。


かなり息が合っていた。


ピーターが微笑む。


「いいですねぇ」


ミネルバも頷く。


「はい。

なんだか安心します」


人が育つ。


環境で。


教育で。


関係性で。


グロマールが始めた循環。


それは。


戦争を減らし。


国家を変え。


人間を変えていた。


ベルセリアの空に雪が降る。


白い。


冷たい。


だが。


広場は温かかった。


湯気。


笑い声。


鍋。


火。


人。


全部が繋がっている。


フィリア女王が静かに言う。


「この国は変わります」


誰も否定しなかった。


もう。


ベルセリアは貧しいだけの北方国家ではない。


寒冷地綿花。


紡織。


道路。


教育。


医療。


料理。


共同文化。


全部が繋がり始めている。


循環。


それが。


世界を変えていた。







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