205話:武闘救援団
帝都ヴァルディス。
東部演習区画。
朝。
巨大な土煙が上がっていた。
轟音。
衝撃。
石畳が震える。
周囲の役人たちが緊張する。
帝国武装戦力。
最上位。
帝国武闘団。
そこに集まっていたのは。
一種類ではない。
拳神。
剣神。
槍神。
さらに。
拳豪。
拳聖。
剣豪。
剣聖。
槍豪。
槍聖。
帝国が長年。
戦争のためだけに育て続けた化け物たち。
普通の兵士ではない。
一人で軍を壊せる。
そんな存在。
昔。
民は彼らを恐れた。
戦場で暴れる。
城門を砕く。
魔物を切り裂く。
敵軍を消す。
それが役目。
それしか知らない。
だが。
今。
彼らは。
崩れた建物を運んでいた。
瓦礫除去。
負傷者搬送。
水路掘削。
洪水対策。
子供救助。
周囲の帝都市民が呆然と見ている。
「あれ……剣神様だよな……?」
「槍聖が……瓦礫どけてる……」
「拳豪が子供抱えてるぞ……」
誰も信じられなかった。
演習場中央。
ピーターが立っていた。
隣には。
若皇帝アレクシス・ヴァルディス。
レオハルト。
マイク。
工兵教師団。
さらに。
帝国最強格。
剣神ガルドレイン。
槍神ヴァルツ。
拳神ドグマ。
全員いる。
異様だった。
剣神ガルドレイン。
長身。
白髪混じり。
帝国最強剣士。
その男が真剣な顔でノートを書いている。
「崩落地点では」
「切断より固定が優先か」
隣で槍神ヴァルツが頷く。
「地盤が死んでると二次崩落する」
拳神ドグマが腕を組む。
「つまり」
「壊すより支える方が難しい」
ピーターが静かに答えた。
「はい」
「だから」
「教育が必要なんです」
全員が黙る。
彼らは強い。
圧倒的に。
だが。
今まで。
“人を救う方法”を学んでこなかった。
帝国は長年。
強者を。
戦争へ送り続けた。
剣は殺すため。
拳は砕くため。
槍は貫くため。
そう教えた。
だから。
皆。
不器用だった。
人を守ることに。
ピーターはゆっくり周囲を見る。
「力は悪じゃありません」
「問題は」
「使い道です」
静寂。
その言葉が。
妙に重かった。
グロマールの思想。
それが。
今。
帝国武闘団へ流れ込んでいた。
レオハルトが苦笑する。
「帝国最強戦力に」
「瓦礫撤去を教える日が来るとはな」
マイクが笑う。
「いいじゃねぇか」
「強ぇ奴が人助けした方が早い」
その通りだった。
災害現場。
巨大瓦礫。
普通の工兵では動かない。
だが。
拳神なら持ち上がる。
剣神なら精密切断できる。
槍神なら崩落地点へ高速侵入できる。
力は。
使い方次第。
そこへ。
索敵教師団が到着。
風属性。
光属性。
探索開始。
「地下反応二!」
「西側水路閉塞!」
「魔物流入確認!」
即座に動く。
剣聖が瓦礫切断。
拳豪が持ち上げる。
槍豪が救助進入。
治癒師搬送。
全部連携。
帝国役人たちが絶句していた。
「軍隊より速い……」
「いや……」
「これ、災害専門部隊だ……」
そう。
戦争ではない。
救助。
支援。
維持。
循環。
それが目的。
ピーターが静かに言う。
「帝国は大きいです」
「だから災害も多い」
「洪水」
「崩落」
「疫病」
「火災」
「全部起きます」
「だから」
「守る専門部隊が必要です」
アレクシス・ヴァルディスが頷く。
若皇帝。
理解者。
彼はもう理解していた。
帝国を維持するのは。
戦争だけではない。
生活。
衛生。
物流。
教育。
そして。
災害対応。
そこへ。
小さな子供が近づいた。
泣いている。
崩落現場で母親とはぐれたらしい。
近くにいた拳神ドグマが固まる。
「……俺か?」
子供が泣く。
ドグマが困る。
周囲の拳豪たちが焦る。
「おい!」
「何とかしろ!」
「無理だろ俺たち!」
マイクが大笑いする。
「戦場最強が子供一人で混乱してんじゃねぇ!」
カーラまで笑っていた。
そこへ。
ミネルバが来る。
優しく子供を抱く。
「大丈夫ですよ」
「お母さん探しましょうね」
子供が泣き止む。
拳神ドグマが呆然とする。
「……すげぇ」
ミネルバは苦笑した。
「違います」
「慣れてるだけです」
だが。
拳神たちは妙に感動していた。
戦場では無かった空気。
怒号ではない。
恐怖でもない。
安心。
それが。
新鮮だった。
夕方。
帝都中央会議室。
武闘団幹部会議。
帝国将軍たちが並ぶ。
緊張。
だが。
アレクシスが静かに告げた。
「帝国武闘団」
「名称を変更する」
空気が変わる。
皇帝が続けた。
「本日より」
「帝国武闘救援団」
「そう定める」
静寂。
将軍たちが驚く。
だが。
反対は出なかった。
もう見てしまったから。
民の反応を。
感謝を。
救われた人々を。
アレクシスが立ち上がる。
「帝国は変わる」
「戦争国家では終わらせん」
「守る国家になる」
拳神。
剣神。
槍神。
全員が黙って聞いていた。
ガルドレインが口を開く。
「……悪くない」
槍神ヴァルツも笑う。
「俺は気に入った」
拳神ドグマが頷く。
「助けた方が」
「飯が美味い」
周囲が笑った。
ピーターは静かに見る。
兄弟子構造。
それは本当に大きかった。
拳神。
剣神。
槍神。
全員。
ピーター系統。
教導。
支援。
循環。
だから。
無駄に争わない。
役割が違うだけ。
強さ比べではない。
その夜。
帝都。
大雨。
水路が溢れかける。
だが。
すぐ動く。
武闘救援団。
工兵団。
教師団。
輸送班。
全部連動。
剣神が流木切断。
拳神が堤防固定。
槍神が高速連絡。
治癒師待機。
通信網稼働。
昔なら。
死者が出た。
今は違う。
間に合う。
人が助かる。
環境が変わると。
役割も変わる。
役割が変わると。
人も変わる。
帝都の夜。
雨の中。
武闘救援団が走っていた。
もう。
彼らは。
戦争だけの存在ではなかった。




