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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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203話:行政スキル

帝都ヴァルディス。


人口三百万。


帝国最大都市。


そして。


世界最大規模の行政地獄。


朝。


帝都中央行政庁。


役人たちが机に埋もれていた。


紙。


紙。


紙。


書類。


山。


未処理。


紛失。


重複。


改竄。


滞留。


誰も全体を把握していない。


帝国は巨大だった。


だから。


“感覚”で運営できる規模を超えていた。


「税収記録が消えました!!」


「南区食糧在庫が合いません!!」


「輸送許可証が重複しています!!」


「井戸工事予算が足りません!!」


怒号。


混乱。


疲労。


睡眠不足。


役人たちの目が死んでいた。


そこへ。


静かな声。


「まず整理しましょう」


全員が振り向く。


ピーターだった。


後ろには。


グロマール。


セレス。


ジミー。


帝国教師団。


帝国官僚たちがざわつく。


「教師……?」


「行政に口を出すのか……?」


老官僚の一人が吐き捨てる。


「理想論では国は回らん」


グロマールは否定しなかった。


「その通りです」


「だから数字を使います」


沈黙。


グロマールは山積みの書類を見る。


「帝国は人が悪いわけじゃない」


「規模が限界を超えた」


「だから仕組みが必要です」


セレスが前へ出る。


机に地図を広げた。


帝都全域。


行政区分。


人口。


水路。


食料倉庫。


輸送路。


病発生率。


全部書かれている。


帝国官僚たちが目を見開いた。


「……なんだこれは」


「統計です」


セレスが答える。


「感覚で統治すると人は死にます」


「数字で見ないと駄目です」


帝国役人たちは沈黙した。


今まで。


経験。


勘。


派閥。


口利き。


それで帝国を回してきた。


だが。


もう限界だった。


人口三百万。


都市国家レベル。


一人の天才では処理できない。


そこで。


教育。


帝国官僚改革。


始まった。


第一講義。


記録。


ピーターが黒板に書く。


「記録とは」


「未来のための記憶です」


役人たちが顔をしかめる。


だが。


ピーターは静かだった。


「覚えてるは信用しません」


「紙を信用します」


「数字を信用します」


「記録を残します」


帝国官僚が反論する。


「そこまで細かく書けるか!」


「時間がない!」


ピーターは即答した。


「だから様式統一します」


次。


書式改革。


誰でも読める。


誰でも書ける。


共通形式。


日付。


担当。


数量。


移動先。


責任者。


全部固定化。


帝国役人たちが驚愕する。


「読みやすい……」


「確認速度が違う……」


「ミスが減る……」


セレスが言う。


「属人化を減らします」


「一人しか分からない仕事は禁止」


帝国側が固まる。


それは。


帝国貴族社会そのものの否定だった。


情報独占。


知識独占。


それが権力だった。


だが。


循環国家は違う。


知識共有。


教育共有。


仕組み共有。


だから崩れにくい。


次。


会計。


今度はジミーが前に出る。


「はい、金勘定講座始めまーす」


軽い。


だが。


天才だった。


「金が消える理由は簡単」


「誰も流れを見てねぇから」


帝国財務官たちが眉をひそめる。


ジミーは紙を並べる。


税。


輸送。


食糧。


工事。


人件費。


全部線で繋ぐ。


「金ってのは流れです」


「止まると腐る」


「見えないと盗まれる」


帝国官僚たちが息を呑む。


今まで。


帳簿は複雑なほど良いと思っていた。


読めない方が権威になると思っていた。


ジミーは逆だった。


「馬鹿でも読めるようにしろ」


「それが一番強い」


物流講義。


輸送時間。


道路状態。


積載量。


破損率。


全部数字化。


帝国側が青ざめる。


「今まで適当だったのか……」


「こんなに損してたのか……」


ジミーは笑う。


「そりゃ貧しくなる」


次。


統計。


セレスが黒板に書く。


人口。


出生率。


死亡率。


病率。


労働率。


食糧備蓄。


「国とは」


「人です」


「つまり数字です」


帝国官僚たちが静まり返る。


誰も。


そこまで国家を見たことがなかった。


王。


貴族。


軍。


税。


そこしか見ていなかった。


だが。


循環国家は違う。


子供の数。


病人の数。


孤児の数。


教師数。


全部見ている。


だから崩れない。


講義は続いた。


そして。


変化が起きる。


帝国官僚の一人。


若い男。


震えながら言った。


「……見える」


周囲が振り向く。


男は机を見る。


書類を見る。


数字を見る。


「流れが見える……」


瞬間。


光。


男の身体から淡い光が溢れる。


帝国教師たちが息を呑む。


ピーターが静かに笑った。


「覚醒です」


スキル。


行政スキル。


帝国初。


官僚特化スキル。


男は震える。


「書類整理速度上昇……」


「統計補助……」


「会計補正……」


「人員配置補助……」


周囲が騒然となる。


そして。


連鎖。


次々と役人たちが覚醒する。


行政スキル。


記録スキル。


統計スキル。


会計スキル。


流通管理スキル。


帝国官僚たちが呆然とする。


「俺たちにも……」


「才能が……」


ピーターが首を振る。


「違います」


「元々あったんです」


「教育が無かっただけです」


静まり返る。


その言葉は重かった。


帝国は今まで。


才能がないと思っていた。


違う。


育てていなかった。


それだけだった。


その夜。


皇城。


アレクシス・ヴァルディスは報告書を見る。


行政速度改善。


処理遅延減少。


税記録誤差低下。


輸送事故率減少。


全部数字で出ていた。


レオハルトが静かに言う。


「帝国が変わっています」


アレクシスは小さく笑った。


「恐ろしいな」


「教育とは」


「はい」


「剣より強い」


窓の外。


帝都はまだ巨大だった。


まだ腐敗もある。


まだ問題も山ほどある。


だが。


少しずつ。


流れ始めている。


記録。


会計。


流通。


統計。


全部が繋がる。


循環。


グロマールは支配していない。


だが。


環境を作っている。


そして。


環境が。


人を育てていた。







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