表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/322

201話:帝都ヴァルディス

帝都ヴァルディス。


人口三百万。


大陸最大都市。


帝国の心臓。


権力。


金。


軍。


文化。


全てが集まる場所。


……のはずだった。


大型輸送ゴーレムが帝都南門を潜る。


マイクが周囲を見回す。


「デケぇな」


素直な感想だった。


城壁は巨大。


塔は高い。


街は広い。


人間が溢れている。


荷車。


商人。


兵士。


貴族。


物売り。


娼婦。


孤児。


全部混ざっていた。


だが。


ピーターは眉をひそめた。


「……臭い」


空気が違う。


汚水。


腐敗。


酒。


血。


糞尿。


人が多すぎる。


排水が追いついていない。


道路脇。


黒い水が流れている。


子供が裸足で歩く。


痩せた女が壁にもたれて座っていた。


咳。


咳。


咳。


病。


栄養失調。


過密。


そして。


諦め。


ピーターは立ち止まった。


「……これが帝都」


隣でセレスが静かに答える。


「人口三百万。

 人類史上最大都市」


「だから維持できない」


マイクが眉をしかめる。


「なんで治さねぇんだ?」


「広すぎるのよ」


セレスが答える。


「昔の都市計画のまま人口だけ増えた」


「汚水路不足」


「水不足」


「治療院不足」


「食料物流限界」


「スラム拡大」


「全部同時」


ピーターは言葉を失った。


循環国家では。


都市は“流れ”で設計される。


道路。


排水。


食料。


通信。


全部先に考える。


だが帝都は違った。


人が集まりすぎた。


結果。


巨大な貧困が出来た。


裏路地。


孤児たちが座っている。


パンの取り合い。


痩せた犬。


骨みたいな老人。


ピーターが拳を握った。


「……グランゼルの昔みたいだ」


マイクが黙る。


違うのは規模だけ。


三百万。


つまり。


地獄が巨大化していた。


その時。


「ピーター先生!」


声。


振り向く。


帝国教師団だった。


教導スキル保持者たち。


行政教師。


索敵教師。


治療教師。


みんな頭を下げる。


「帝都視察、ありがとうございます!」


「道路工事、本当に助かってます!」


「北部死亡率が激減しました!」


ピーターが少し笑った。


「みんな頑張ってますね」


教師たちは誇らしそうだった。


かつて。


帝国は崩壊寸前だった。


北部は飢え。


兵站は死に。


冬で軍が壊滅した。


今は違う。


道路。


通信。


教育。


全部少しずつ変わっていた。


まだ遅い。


まだ足りない。


それでも。


前に進んでいた。


その夜。


帝都外縁。


循環国家側宿舎。


輸送隊の宴会が開かれていた。


大鍋。


酒。


笑い声。


現場人間たちは、どこでも強い。


「マイク隊長ー!」


「飲めー!」


「輸送成功ー!!」


マイクが豪快に笑う。


「おう!!」


完全に宴会の中心だった。


そこへ。


カーラが料理を運んでくる。


帝都視察用に同行していた。


「飲みすぎない」


「分かってる」


「分かってない顔してる」


周囲爆笑。


「夫婦ー!!」


「もう結婚しろー!!」


マイクが怒鳴る。


「うるせぇ!」


カーラは少し赤くなった。


だが。


その後。


静かに席を立つ。


マイクが気づく。


「……カーラ?」


外。


夜風。


帝都の灯が遠くに見える。


汚れた巨大都市。


カーラはしばらく黙っていた。


そして。


小さく言う。


「……ねぇマイク」


「あ?」


「私、ちゃんと言ってなかった」


マイクが首を傾げる。


カーラは少し震えていた。


「私ね」


「昔、娼婦だったの」


静かだった。


遠くの帝都騒音だけが聞こえる。


マイクは黙って聞いている。


カーラは続けた。


「帝都のスラムで生まれた」


「親いなかった」


「飯なくて」


「売られて」


「生きるために身体売ってた」


声が少し掠れる。


「病気にもなった」


「殴られた」


「死にかけた」


「……何回も」


マイクは何も言わない。


カーラは俯いた。


「その時」


「ピーター先生が来た」


「治療して」


「ご飯くれて」


「料理教えてくれて」


「料理スキルも授けてくれた」


「働く場所くれた」


「生きていいって言ってくれた」


涙が落ちた。


「だから私」


「今があるの」


「でも……」


カーラは拳を握る。


「私は綺麗じゃない」


「だから……」


言葉が止まる。


怖かった。


失うのが。


今の幸せを。


マイクは数秒黙った。


そして。


頭を掻く。


「……は?」


カーラが顔を上げる。


マイクは真っ直ぐ見ていた。


「関係ねぇだろ」


「え……」


「昔どうだったとか」


「そんなもん知らねぇ」


「今のお前しか見てねぇ」


カーラの目が揺れる。


マイクは一歩近づく。


「お前、働いてる」


「飯作る」


「人助ける」


「子供守る」


「現場回してる」


「優しい」


「すげぇ女じゃねぇか」


カーラの涙が止まらない。


マイクは顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「俺はお前が好きだー!!」


宿舎中に響いた。


一瞬静寂。


次の瞬間。


「ぎゃああああああ!!」


壁の向こうから絶叫。


「聞いてたのかよ!?」


「当たり前だろー!!」


「親分ー!!」


「やったぁぁ!!」


「カーラ先生ぇぇ!!」


完全に盗み聞きされていた。


カーラが顔を覆う。


真っ赤。


マイクも真っ赤。


だが。


マイクは逃げなかった。


「だからよ」


「過去とか関係ねぇ」


「俺は今のお前が好きなんだよ」


カーラが泣きながら笑った。


「……馬鹿」


「おう」


「ほんと馬鹿」


「知ってる」


カーラは一歩近づく。


そして。


マイクの胸に額を当てた。


周囲。


大爆発。


「うわああああ!!」


「くっついたぁぁ!!」


「親分んんん!!」


「カーラ先生ぇぇ!!」


ピーターは遠くで泣いていた。


「うぅ……

 よかったぁ……」


セレスが呆れる。


「保護者みたい」


「だってぇ……」


ミーナは静かに笑っていた。


「環境が人を変える」


「本当ですね」


帝都ヴァルディス。


巨大都市。


巨大貧困。


巨大格差。


だが。


その中でも。


救われた人間はいた。


変わった人間はいた。


循環。


それは。


国だけじゃない。


人もまた。


循環していた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ