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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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188話:通信速度

夜。


循環国家中央通信塔。


巨大な魔導結晶が淡く発光していた。


塔内部。


無数の魔導線。


風属性増幅陣。


光属性伝達陣。


土属性固定基盤。


そして。


魔力循環制御。


それら全てが噛み合い。


一つの“神経網”を形成していた。


セレスが静かに盤面を見る。


「北部拠点、接続安定」


「西部農業区、通信良好」


「南部救護基地、同期完了」


報告が飛ぶ。


通信士達が即座に動く。


誰も怒鳴らない。


全員が理解している。


だから速い。


ピーターが小さく息を吐いた。


「……完成したんだね」


グロマールは静かに頷いた。


「魔導通信網」


「全土接続完了だ」


その瞬間だった。


塔中央。


巨大結晶が一段強く輝いた。


ブゥゥン……


低い振動。


そして。


各地の通信盤が同時に光る。


北部。


農業区。


工業区。


港湾。


学校。


病院。


前線。


全部が繋がった。


世界が変わる瞬間だった。


マイクが目を丸くする。


「……マジかよ」


「今、全部繋がったのか?」


セレスが頷く。


「もう伝令馬はいらない」


「情報は即時で届く」


「戦争の形が変わる」


それは。


旧世界の常識を破壊する技術だった。


ガルディア王国。


前線基地。


深夜。


伝令兵が倒れ込む。


「お、遅れました!」


「北部街道……崩落!」


指揮官が怒鳴る。


「今さらか!」


「それは三日前の情報だぞ!」


空気が凍る。


三日。


情報が届くまで三日。


その間。


状況は変わる。


敵は動く。


食料は尽きる。


兵は死ぬ。


旧世界では、それが普通だった。


一方。


循環国家。


南部前線。


通信盤が光る。


『西部補給車両、二時間遅延』


『原因:降雨』


『代替路線を自動切替』


『北部備蓄から補填開始』


一瞬だった。


前線指揮官が即座に命令する。


「第三補給隊、南側街道へ」


「土木班、ぬかるみ固定」


「氷保存庫を移送」


兵達が動く。


迷わない。


既に情報共有されているから。


マイクが呟く。


「……速すぎる」


「これ、戦争になんねぇぞ」


その通りだった。


戦争とは。


情報差で決まる。


敵位置。


補給状況。


兵力。


天候。


病。


全部。


先に知った側が勝つ。


循環国家は。


“全部を先に知る”。


それが致命的だった。


旧国家軍。


会議。


将軍達が地図を囲む。


「敵主力は南だ!」


「いや西だ!」


「伝令が違う!」


「どっちが本当なんだ!」


混乱。


怒号。


情報が古い。


しかも遅い。


さらに。


現場判断できる人材が少ない。


命令待ち。


確認待ち。


責任回避。


その間にも。


循環国家は動く。


ガルディア王国軍務卿が机を叩いた。


「なぜ奴らは動きが早い!」


宰相バルディスが静かに答えた。


「通信です」


「通信?」


「はい」


「奴らは、国家全体を一つの脳に変え始めている」


沈黙。


理解できない者も多い。


だから恐ろしい。


「馬より速い情報など存在しない」


老貴族が吐き捨てる。


バルディスは冷静だった。


「存在します」


「既に」


その言葉に。


空気が冷える。


通信。


それは。


単なる便利道具ではない。


国家構造そのものを変える。


農業。


物流。


軍事。


医療。


教育。


全部が変わる。


西部農園。


農民達が空を見る。


通信盤が光る。


『降雨接近』


『収穫優先』


『東部倉庫へ輸送変更』


農民達が即座に動く。


無駄がない。


昔なら。


雨で腐っていた。


情報が遅いから。


今は違う。


先に動ける。


つまり。


損失が減る。


それだけで国家は強くなる。


病院。


ミネルバが通信盤を見る。


『北部孤児院、熱病発生』


『薬草不足』


『輸送支援求む』


ミネルバが即座に答える。


「第三治療隊準備」


「解熱薬送ります」


「ピーター先生にも連絡を」


数分後。


返答が来る。


『了解』


『輸送開始』


『到着予定:二時間後』


ミネルバが静かに息を吐いた。


「……助かる」


昔なら。


数日。


人が死んでいた。


今は違う。


情報が命を救う。


夜。


グロマールが通信塔を見上げていた。


巨大な光。


それはまるで。


星を地上に降ろしたようだった。


セレスが隣へ来る。


「怖い?」


グロマールは少し考えた。


「強すぎる」


それが本音だった。


通信速度。


それは。


国家速度そのもの。


命令。


判断。


支援。


全部が変わる。


旧世界では。


王が命令を出してから届くまで数週間。


その間に。


現場は死ぬ。


今は違う。


即時。


だから。


現場判断も変わる。


責任構造も変わる。


軍の形も変わる。


戦争概念そのものが壊れる。


セレスが静かに笑う。


「もう戻れないね」


「戻らない」


グロマールは即答した。


戻せば。


また人が死ぬ。


教育が遅れる。


病が広がる。


飢える。


だから進む。


旧国家群。


その頃。


既に崩壊が始まっていた。


伝令が間に合わない。


補給が遅れる。


命令が届かない。


地方が勝手に動く。


軍が連携できない。


つまり。


国家が分裂し始めていた。


通信速度差。


それは。


文明速度差だった。


ガルディア王国。


深夜。


バルディスが一人で地図を見ていた。


そして静かに呟く。


「勝てない」


誰より理解していた。


兵数ではない。


武勇ではない。


国家処理能力。


それが違いすぎる。


循環国家は。


“人が考える速度”で動く。


旧世界は。


“馬が走る速度”で動く。


その差は。


もう埋まらない。


遠く。


通信塔の光が夜空を貫いていた。


まるで。


新しい時代そのものだった。







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