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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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177話:無駄死に

南方戦線・旧国家軍後退区域。


戦場は終わっていた。


勝敗は既に決している。


それでも。


死だけは増え続けていた。


乾いた大地に、無数の兵士が倒れている。


矢傷。


裂傷。


熱。


脱水。


感染。


だが。


循環国家軍側の死体は少ない。


対して。


旧国家軍側は、倒れている兵の数が異常だった。


老将ギュスタフは、その光景を見下ろしていた。


言葉が出ない。


戦闘で死んだ兵より。


“戦闘後”に崩れた兵の方が多かった。


水不足。


治療不足。


衛生崩壊。


傷口腐敗。


熱病。


恐慌。


全部だ。


そして、それを誰も処理できない。


なぜなら。


教育されていないから。


軍医がいない。


衛生知識がない。


補給概念がない。


連携がない。


つまり。


戦う前から壊れていた。


後方。


旧国家軍野営地。


呻き声が響いていた。


兵士たちは地面に転がっている。


泥水を飲み。


腐った肉を食い。


熱を出し。


震えていた。


若い兵士が叫ぶ。


「み、水を……」


誰も動かない。


動けない。


補給隊が消えた。


循環国家軍に補給線を切られたからだ。


それだけで軍が止まる。


いや。


止まるどころか。


崩れる。


若い兵士が隣を見る。


仲間が死んでいた。


昨日まで話していた男。


名前も知っている。


なのに。


誰も埋葬しない。


余裕がない。


臭いが広がる。


病気も広がる。


兵士は震えた。


「……なんでだよ」


答える者はいない。


その時。


遠くで怒号。


将校が兵を殴っていた。


「立て!」


「敵はまだいる!」


「根性を見せろ!」


兵士が倒れる。


熱だ。


限界だった。


だが将校は理解しない。


理解できない。


教育されていないから。


老将ギュスタフは目を閉じた。


昔。


若かった頃。


自分も同じだった。


気合。


根性。


命令。


怒鳴れば兵は動く。


恐怖で縛れば軍は保つ。


そう教わった。


それしか知らなかった。


だが。


今、目の前にあるのは。


その果てだ。


無駄死に。


兵が弱いんじゃない。


才能がないわけでもない。


育てられていない。


それだけ。


ギュスタフは、戦場の向こうを見る。


循環国家軍。


整然としている。


負傷兵が運ばれる。


すぐ治療される。


水が配られる。


部隊交代。


休息。


補給。


全部が回っている。


軍なのに。


“壊れない”。


そこが恐ろしかった。


循環国家軍・後方医療陣地。


ピーターが負傷兵を診ていた。


敵兵もいる。


味方もいる。


関係ない。


治せるなら治す。


それだけ。


若い治癒師が報告する。


「北側、感染症疑い三名」


ピーターが即座に指示。


「隔離」


「水精製強化」


「浄化班回してください」


全員動く。


迷わない。


理解している。


教育されているから。


ピーターは、倒れた旧国家軍兵士を見る。


年齢は自分と変わらない。


痩せている。


栄養失調。


身体が限界だった。


兵士が震えながら聞く。


「……なんで」


「敵なのに……」


ピーターは包帯を巻きながら答える。


「死ぬ必要がないからです」


兵士が泣いた。


静かに。


ボロボロ泣いた。


今まで。


そんな扱いを受けたことがなかった。


彼らの軍には。


“兵を守る”という発想がない。


使い潰すだけ。


死んだら補充。


だから。


人が育たない。


後方。


マイクが戦場を見ていた。


表情は重い。


勝っている。


完全に。


でも。


気分は最悪だった。


敵が弱すぎる。


違う。


弱くされた。


それが見えてしまう。


倒れている兵の中には、子供みたいな顔の奴もいる。


まともに飯も食えていない。


訓練も足りない。


なのに戦場へ出される。


マイクが吐き捨てる。


「……クソみてぇだな」


隣のセレスが静かに言う。


「環境よ」


「人は環境で変わる」


マイクは黙る。


その通りだった。


昔の自分だって。


グロマールに会わなければ。


ただの乱暴者で終わっていた。


今。


自分は部隊を動かしている。


避難民を守っている。


子供を救っている。


全部。


教育されたからだ。


セレスが地図を見る。


「旧国家軍、もう持たないわね」


風属性通信が届く。


「南側部隊、食料不足で停止」


「東側、脱走増加」


「病死多数」


セレスが目を閉じた。


戦闘じゃない。


構造崩壊。


それが起きている。


補給なし。


衛生なし。


通信なし。


教育なし。


そんな軍は。


長期戦に耐えられない。


当然だった。


だが。


今までの世界では、それで成立していた。


なぜなら。


他も同じだったから。


だから問題にならなかった。


しかし今。


比較対象が生まれてしまった。


循環国家軍。


教育された軍。


その存在が。


旧世界を壊していく。


旧国家軍野営地。


若い兵士ラドは、仲間の死体を見ていた。


昨日まで笑っていた。


今日死んだ。


敵に斬られたわけじゃない。


熱病。


傷の腐敗。


それだけ。


ラドは震える。


「なんで……」


「なんで俺たちは……」


そこへ。


年老いた兵が座る。


ボロボロだった。


老兵が言う。


「坊主」


「お前、字は読めるか」


ラドは首を振る。


「読めません」


老兵が笑った。


乾いた笑い。


「俺もだ」


「だから俺たちは、こうなる」


ラドは意味が分からなかった。


老兵は遠くを見る。


循環国家軍。


整然としている。


「連中は知ってる」


「水の管理を」


「病の防ぎ方を」


「部隊の動かし方を」


「俺たちは知らねぇ」


「だから死ぬ」


ラドは言葉を失う。


老兵が続ける。


「勇気とか根性じゃねぇんだ」


「知識だ」


「教育だ」


その時。


遠くで風属性通信が響いた。


循環国家軍の連絡。


何十キロ先まで声が届く。


旧国家軍兵士たちは顔を上げる。


理解できなかった。


なぜそんなことが可能なのか。


なぜそこまで差があるのか。


老兵が呟く。


「世界が変わっちまったな」


同時刻。


グロマールは後方都市で報告書を読んでいた。


静かだった。


戦況。


死者数。


補給状況。


難民流入。


全部数字で見ている。


感情論はない。


だが。


目は冷たくなかった。


彼は知っている。


これは“勝利”ではない。


旧世界が崩れているだけ。


そして。


崩れた先で。


人を拾わなければならない。


教育しなければならない。


循環へ入れなければならない。


グロマールは窓の外を見る。


遠く。


夜空。


その向こうで。


無数の人間が。


“初めて知る”。


根性では腹は膨れない。


命令だけでは人は育たない。


恐怖だけでは国は続かない。


人材は。


教育で生まれる。


それを。


世界が理解し始めていた。







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