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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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163話:敵国へ

帝国西方。


旧敵対国家。


ルードヴェル王国。


そこでも飢饉は始まっていた。


畑は枯れ、川は細り、街道には難民が溢れている。


帝国ほどではない。


北方連合ほどでもない。


だが。


確実に壊れ始めていた。


王都ルード。


市場は静まり返っている。


以前なら商人の声が響いていた場所。


今は違う。


空腹の目だけが並んでいた。


痩せた子供。


疲れ切った母親。


鎧の隙間が目立つ兵士。


全員が。


食べられていない。


王城会議室。


空気は重かった。


「帝国へ頭を下げるのか?」


老貴族が低く言う。


別の貴族が吐き捨てる。


「敵国だぞ」


「過去に何度戦ったと思っている」


若い将軍が机を叩く。


「ではどうする!」


「このまま冬に入れば地方都市が死ぬ!」


「食料庫は空だ!」


「商会も崩壊寸前だぞ!」


怒号。


だが。


答えは無い。


食料が無い。


それが現実だった。


王は静かだった。


老いている。


疲れている。


そして理解していた。


負けたのだ。


戦争ではない。


文明に。


その頃。


帝国。


防壁都市グランゼル。


巨大物流区域。


大型輸送ゴーレム群が並んでいた。


数百。


巨大積載箱。


小麦。


乾燥豆。


保存肉。


薬草。


水精製器。


建築資材。


大量だった。


避難民たちが呆然と見ている。


「まだ運ぶのか……」


「帝国、どれだけ食料あるんだ……」


誰も理解できなかった。


食料が余る世界など。


昔は存在しなかった。


物流管理室。


ジミーが帳簿を見ている。


セレスが後ろから言った。


「今度は敵国」


ジミーは頷く。


「ルードヴェル王国」


「かなり危ない」


セレスが腕を組む。


「普通なら放置よね」


「弱れば安全になる」


ジミーは帳簿を閉じた。


「飢えた国は危険だ」


「盗賊化する」


「暴発する」


「内戦も起きる」


「だから食わせる」


現実的だった。


感情ではない。


計算。


だが。


冷酷でもない。


ジミーは窓の外を見る。


避難民の子供たち。


笑っている。


食べている。


「……食えなくなると、人は壊れる」


小さな声だった。


セレスは何も言わない。


ジミー自身。


昔は空腹を知っている。


弱者のズルさを知っている。


だから分かる。


飢えは人を狂わせる。


その時。


扉が開く。


マイクだった。


「準備終わったぞ!」


飛行装備。


防衛隊。


完全武装。


後ろには飛行班の若者たち。


マイクは得意げに笑う。


「輸送護衛隊だ!」


「今度は着地失敗しねぇ!」


周囲が少し笑う。


セレスがため息を吐く。


「フラグっぽいからやめなさい」


マイクが不満そうな顔をする。


「何だよそれ!」


だが。


空気は軽くなった。


張り詰め過ぎない。


それも必要だった。


その頃。


治療院。


ピーターは北方避難民の診察を終えていた。


疲労は大きい。


だが。


顔には以前ほどの焦りが無い。


助けられる。


食料がある。


薬がある。


人手もある。


それがどれほど大きいか、彼は知っていた。


ミネルバが薬草箱を整理している。


彼女は静かに言った。


「敵国まで助けるんですね」


ピーターは少し考えた。


「……グロマールさんらしいと思う」


「敵とか味方とかより」


「壊れる方を嫌うから」


ミネルバは小さく笑った。


「分かります」


その時。


転移光。


グロマールだった。


空気が変わる。


避難民たちが自然と姿勢を正す。


威圧ではない。


安心感だった。


グロマールは資料を見る。


ルードヴェル王国。


人口。


飢餓率。


病死率。


農地崩壊率。


物流停止区域。


数秒。


それだけで把握する。


「輸送路は?」


ジミーが即答する。


「南西街道」


「ただ途中の橋が崩落してる」


グロマールは頷く。


「修復する」


短い。


それだけ。


次の瞬間。


大型建築ゴーレム群が動き始めた。


周囲が震える。


避難民たちが息を呑む。


巨大ゴーレム。


土属性魔法。


石材形成。


橋梁構築。


わずか数十分。


崩壊していた橋が再建されていく。


ルードヴェル側の使者が呆然としていた。


若い外交官だった。


震える声で言う。


「な、何故……」


「敵国の我々に……」


グロマールは橋を見る。


「飢えは国境を守らない」


静かな声だった。


「崩壊は連鎖する」


「だから止める」


使者は言葉を失う。


それは理想論ではなかった。


現実論だった。


完全な合理。


だが。


そこに人命軽視は無い。


むしろ逆だった。


グロマールは続ける。


「条件はある」


「物流共同管理」


「教育受け入れ」


「農地改革協力」


「水路整備」


使者が息を呑む。


セレスが小さく笑う。


「優しいけど容赦ないのよね」


ジミーが頷く。


「支援はする」


「でも、古い仕組みまでは助けねぇ」


それが帝国側の結論だった。


救う。


だが。


停滞までは守らない。


大型輸送ゴーレム群が動き出す。


重低音。


大地が震える。


数百体。


膨大な食料。


膨大な物資。


護衛飛行班が空を飛ぶ。


マイクが先頭だった。


「行くぞおおおお!!」


飛行班が続く。


避難民の子供たちが歓声を上げた。


ピーターはその光景を見る。


昔なら。


こんな光景はあり得なかった。


敵国へ食料を送る。


敵国の民を助ける。


そんな余裕は無かった。


だが今は違う。


食料がある。


物流がある。


教育がある。


人が育っている。


だから。


国境を越えられる。


ミネルバが小さく言った。


「文明って……」


「こういうことなんですね」


グロマールは静かに輸送隊を見る。


巨大ゴーレム群。


飛行班。


物流。


教育。


農業。


全部が繋がっている。


英雄一人ではない。


人が人を支える循環。


その文明は。


今。


敵国すら飲み込み始めていた。







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