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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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159話:若き皇帝

帝都ヴァルディス


帝国皇宮。


巨大な謁見の間には、静かな緊張が満ちていた。


高い天井。


白銀の柱。


赤い絨毯。


歴代皇帝の肖像画。


かつてこの場所は、“絶対”の象徴だった。


誰も逆らえない。


誰も疑えない。


帝国とは皇帝であり、皇帝とは帝国そのものだった。


だが今。


変わり始めている。


外からではない。


内側から。


教育。


物流。


農業。


魔法。


民。


地方。


全てが動き出していた。


そして、その中心にいるのは。


王でも。


貴族でもない。


学び始めた民衆だった。


謁見の間中央。


若き皇帝が静かに座っている。


まだ若い。


二十代前半。


金髪。


蒼眼。


美しい顔立ち。


しかし。


その瞳には疲労があった。


皇帝は知っていた。


帝国が限界だったことを。


飢餓。


病。


腐敗。


中抜き。


地方疲弊。


物流崩壊。


旧貴族の権益争い。


民の不満。


全部。


知っていた。


見えていた。


だが。


変えられなかった。


そこへ現れた。


グロマール。


そして。


教育という“革命”。


「……始める」


皇帝の声が響く。


謁見の間には、帝国上層部が集まっていた。


レオハルト。


改革派貴族。


軍部代表。


教育省代表。


教師団。


地方議員。


そして。


保守派残党。


以前より数は激減していた。


帝国議会で多くが離反したからだ。


もう。


時代を否定できなくなっていた。


皇帝は静かに資料を見る。


数字が並んでいた。


食料生産。


犯罪率。


税収。


教育率。


病死率。


覚醒者増加。


物流効率。


全て。


改善している。


異常な速度で。


「……恐ろしいな」


皇帝が小さく呟く。


誰に向けた言葉でもない。


レオハルトが答える。


「ええ」


「ですが、止まりません」


皇帝は苦笑した。


「止める気もない」


空気が変わる。


保守派が顔を上げた。


皇帝は立ち上がる。


まだ若い。


だが。


今この瞬間。


帝国の頂点として立っていた。


「余は見た」


「地方を」


「教育省を」


「治療院を」


「農地を」


「物流を」


「飛行輸送を」


「そして民を」


静寂。


「民は愚かではなかった」


「学ぶ機会が無かっただけだ」


その言葉に。


教師団の空気が揺れた。


ピーターが静かに目を閉じる。


その隣でミネルバが小さく笑った。


優しい顔だった。


彼女は知っている。


ピーターがどれだけ多くを救ってきたか。


どれだけ多くの子供を抱き上げたか。


どれだけ多くの民に寄り添ってきたか。


皇帝は続ける。


「余は皇帝として宣言する」


「帝国は改革を支持する」


ざわめき。


保守派が顔を青くする。


だが。


誰も反論できない。


数字が。


結果が。


現実が。


全て改革側にあるからだ。


皇帝の声はさらに強くなる。


「教育省を正式に帝国中央機関とする」


「地方教育予算を倍増」


「物流整備を国家事業化」


「農地改革支援を拡張」


「飛行魔法研究を許可」


「治療院を帝国全域へ展開する」


空気が震えた。


帝国が変わる。


本当に。


完全に。


保守派席。


老人貴族が震えていた。


「へ、陛下……!」


「地方が強くなりすぎます!」


「中央権力が弱体化しますぞ!」


皇帝は静かに老人を見る。


怒っていない。


失望していた。


「弱体化?」


「違う」


「今まで地方を弱らせすぎていたのだ」


完全な沈黙。


皇帝は玉座から降りる。


ゆっくり。


保守派の前まで歩く。


「余は知っている」


「地方では冬を越えられず死ぬ者がいた」


「病で子を失う親がいた」


「税で潰れる村があった」


「物流が止まり餓死した街もある」


その声は静かだった。


だが。


重い。


「その時」


「貴様らは何をしていた?」


誰も答えられない。


本当に何もしていなかったからだ。


皇帝は振り返る。


視線の先。


ピーター。


ミネルバ。


教師団。


レオハルト。


そして。


民の側に立つ者たち。


「余は思う」


「帝国とは民だ」


「民が死ねば国家は滅ぶ」


「貴族が死んでも民が生きていれば国は再建できる」


その瞬間。


保守派の何人かが顔を伏せた。


終わったのだ。


本当に。


時代が。


その時だった。


ゴォォォォッ!!


外から巨大な風圧音が響く。


謁見の間の魔導窓の外。


高速飛行。


数体の飛行ゴーレムが帝都上空を横切っていく。


空輸部隊。


ジミー直属。


以前なら考えられない光景だった。


皇帝が笑う。


「見ろ」


「空まで変わった」


議場が静まり返る。


帝国はもう。


以前の帝国ではない。


セレスが静かに呟く。


「文明が広がってる」


マイクが腕を組む。


「もう止まんねぇな」


ジミーは笑っていた。


「物流最強だからな」


「空飛べるようになった時点で時代終わったわ」


それは冗談ではない。


本当にそうだった。


山脈。


川。


国境。


全ての意味が変わり始めている。


皇帝はゆっくりと玉座へ戻る。


若き皇帝。


まだ未熟。


まだ迷いもある。


だが。


少なくとも。


現実を見る目は持っていた。


それが旧時代との決定的な違いだった。


「余は選ぶ」


「停滞ではなく前進を」


「支配ではなく循環を」


「無知ではなく教育を」


その言葉に。


ピーターが小さく頭を下げる。


ミネルバも微笑む。


レオハルトは静かに目を閉じた。


そして。


誰も口にはしなかった。


だが全員が理解していた。


この帝国を変えたのは。


皇帝ではない。


貴族でもない。


英雄でもない。


ただ一人。


循環を始めた男。


グロマールだった。







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