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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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158話:帝国議会

帝都ヴァルディス。


帝国議会大広間。


巨大な円形議場には、重苦しい空気が満ちていた。


以前までの帝国議会は違った。


貴族たちは余裕を持ち、

地方を見下し、

民衆を数字でしか見ていなかった。


だが今。


誰も笑っていない。


理由は明白だった。


帝国が変わってしまったからだ。


しかも。


想像を超える速度で。


「……教育省予算拡張案、および地方自治支援法案の審議を開始する」


議長の声が響く。


静まり返る議場。


そこへ。


重い足音が響いた。


レオハルト。


帝国改革派筆頭。


彼が立った瞬間、空気が変わる。


もはや名声だけの男ではない。


結果を出した側。


それが彼だった。


「報告する」


低い声。


無駄がない。


「メタルビレッジ農地改革は成功した」


ざわめき。


「山岳地帯の大規模灌漑も安定」


「新農地面積は従来比四倍」


「食料自給率は急上昇」


「犯罪率は半減」


「教育受講者十万人突破」


「覚醒者増加率も安定」


言葉が積み上がるたび。


保守派の顔色が悪くなる。


なぜなら。


全て事実だからだ。


レオハルトは続ける。


「さらに」


「ドラゴン二十五体討伐を確認」


議場が凍る。


未だに信じられない者もいる。


だが、帝国軍報告書にも記録済み。


虚偽ではない。


しかも。


死者は極小。


帝国史上でも異常だった。


「そんなもの……!」


一人の老人貴族が立ち上がった。


超保守派。


帝都で長く権勢を誇った男。


「地方に武力を持たせすぎだ!」


「農民が魔法を持つなど危険極まりない!」


「教育など与えれば民は増長する!」


瞬間。


議場後方から失笑が漏れた。


以前なら絶対に起きなかった。


老人貴族が振り返る。


若い地方議員だった。


「増長?」


青年は冷たく笑う。


「メタルビレッジでは餓死が消えた」


「病死も減った」


「子供が文字を書いている」


「農民がドラゴン討伐支援をしている」


「で?」


「あなた方は何をした?」


完全な沈黙。


答えられない。


本当に何もしていないからだ。


保守派席の空気が崩れ始める。


その時だった。


議場上空。


巨大な風圧音が響いた。


ゴォォォォッ!!


議員たちが天井を見上げる。


魔導ガラス越し。


帝都上空を三つの影が横切った。


高速飛行。


ざわめき。


「飛行魔法だと……!?」


「民間人が!?」


窓外。


三人の人影が減速しながら帝国議会外周広場へ降下していく。


風を纏うセレス。


巨大な荷箱を風圧制御で牽引するジミー。


そして。


空中から無理やり着地し石畳を砕くマイク。


「うおおっ! 止まれねぇぇぇ!」


轟音。


議場内で悲鳴が上がる。


セレスが額を押さえた。


「マイク……着地を覚えてください」


「飛ぶより降りる方が難しいんだよ!」


ジミーが笑う。


「いやー、空輸便利すぎるわ」


「物流革命だなこれ」


議場内。


保守派が青ざめていた。


民間人。


しかも元地方民。


それが飛行魔法を扱っている。


既に常識が崩れていた。


議場入口が開く。


三人が入場した。


レオハルトが静かに説明する。


「高位教師陣による飛行魔法教育は成功している」


「長距離高速移動も既に実用段階だ」


再び議場がざわつく。


飛行。


それは軍事。


物流。


情報。


全てを変える。


つまり。


帝国の地理そのものが変わる。


保守派が理解してしまった。


もう。


戻れない。


老人貴族が震える。


「ば、馬鹿な……」


「民に空を与えるなど……!」


ジミーが肩をすくめる。


「便利だから使ってるだけだぞ?」


「空輸だけで物流効率めちゃくちゃ変わるし」


「山越え時間も短縮できる」


「腐敗食材も減る」


「商会は大喜びだ」


それが現実だった。


理想論ではない。


利益が出ている。


だから止まらない。


セレスが静かに言う。


「教育は武器です」


「でも」


「人を壊すための武器じゃない」


「人を“回す”ための武器です」


彼女の声は静かだった。


だが。


議場全体に響いた。


マイクが腕を組む。


「俺は難しいことわかんねぇけどよ」


「腹いっぱい食えて」


「病気減って」


「子供が笑ってる方がいい」


「それだけだ」


その言葉に。


誰も反論できなかった。


なぜなら。


それが民の本音だからだ。


議場中央。


一人の中年貴族が立ち上がる。


保守派だった男。


「……我がフェルド家は改革支持へ回る」


ざわめき。


老人貴族が叫ぶ。


「裏切るのか!?」


中年貴族は疲れた顔をしていた。


「息子が教育省へ入った」


「娘は治療院で働いている」


「領民の病死は減った」


「税収も増えた」


「……反対する理由が無い」


また一人。


さらに一人。


「物流改革支持」


「地方自治法案も認める」


「教育省予算増額に異論なし」


保守派席が削れていく。


崩壊だった。


砂の城のように。


その光景を。


レオハルトは黙って見ていた。


勝ち誇らない。


煽らない。


ただ現実として受け止める。


それが改革派最大の強さだった。


議場後方。


ジミーが小さく笑う。


「物流止めた瞬間、帝都終わりかけたからな」


「もう皆わかってる」


「便利さには勝てねぇ」


セレスは窓外を見る。


帝都。


市場。


学校。


治療院。


魔導灯。


空輸ゴーレム。


飛行魔法訓練場。


そして。


空を飛ぶ若者たち。


文明が変わっていた。


完全に。


一人の老人議員が静かに立ち上がる。


超保守派。


皇帝即位以前から議席にいた男。


男はゆっくり周囲を見渡した。


そして。


小さく笑う。


「……老いたな」


静寂。


「儂は農民を信じておらんかった」


「教育など不要だと思っていた」


「無知な方が扱いやすいと思っていた」


男は深く息を吐く。


「間違っていた」


「愚かだったのは民ではない」


「儂らだ」


保守派席の空気が死ぬ。


老人議員は席章を外した。


机へ置く。


「議員職を辞する」


誰も止めなかった。


止められなかった。


時代が。


終わったからだ。


そして始まる。


教育と物流。


魔法と農業。


地方と人材。


文明そのものが循環する新時代が。


その起点にいたのは。


王でも。


英雄でもない。


ただ。


循環を始めた男。


グロマールだった。







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