表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/322

156話:移民

メタルビレッジ。


かつて“鉄と煤の街”と呼ばれた山岳都市は、今や帝国内で最も異様な変化を遂げていた。


山肌には巨大な段々畑。


夜になれば魔導灯が光る。


水路が山を巡り。


ゴーレムが荷を運ぶ。


さらに。


子供たちが学校へ通っていた。


それは、この世界では異常だった。


教育。


それ自体が、貴族の特権だったからだ。


朝。


都市外縁。


長蛇の列ができていた。


移民希望者。


王国から。


帝国地方都市から。


崩壊した旧貴族領から。


人が押し寄せていた。


老人。


鍛冶師。


農民。


元兵士。


商人。


孤児。


母子。


全員が疲弊している。


それでも。


目だけは死んでいなかった。


「本当に……仕事があるんですか?」


受付の若い女性へ、痩せた男が尋ねる。


女性は頷いた。


「あります」


「教育もあります」


「住居も順番に用意しています」


男が絶句した。


教育。


その言葉に。


後ろの列がざわつく。


「子供も……?」


「はい」


「子供も学校へ通えます」


泣き出す母親がいた。


王国では。


貧民に教育はなかった。


文字も。


計算も。


魔力循環も。


何も教えられない。


だから一生貧民。


一生労働。


一生搾取。


それが普通だった。


しかし。


ここは違う。


受付では、教師たちが忙しく動いていた。


行政スキル。


書類作成。


分類。


人口整理。


配置計画。


全てが異常速度で処理されていく。


土木教師マリーが笑う。


「行政スキル便利すぎません?」


隣の教師も苦笑する。


「報告書が三分の一の時間で終わるんですけど……」


「前まで徹夜だったのに……」


ピーターは少し離れた場所で、その光景を見ていた。


人が増えている。


毎日。


異常な速度で。


それでも崩れない。


教育が回っているから。


役割分担があるから。


人材育成が成立しているから。


グロマールの思想。


“循環”。


それが都市単位で機能し始めていた。


そこへ。


ジミーが通信魔導具越しに話しかける。


『ピーター、そっちまた増えてるか?』


「今日は三千人超えました」


『ははっ……終わってんな旧貴族領』


笑っている。


しかし。


声は冷静だった。


ジミーは既に理解していた。


物流。


教育。


食料。


治安。


全部が繋がっている。


どれか一つ崩れれば国は壊れる。


今、王国旧貴族領で起きているのはそれだった。


物流停止。


食料不足。


高額転売。


兵糧不足。


さらに。


教育格差。


結果。


人材流出。


止まらない。


ジミーが続ける。


『面白いのはさ』


『逃げてくるのが“使える人材”ばっかなんだよ』


ピーターは頷いた。


実際そうだった。


鍛冶師。


職人。


兵士。


事務官。


教師志望。


つまり。


“努力した人間”ほど逃げてくる。


逆に。


既得権にしがみつく連中ほど残る。


環境が人を選び始めていた。


昼。


メタルビレッジ中央広場。


新規移民向け説明会。


壇上にはピーター。


周囲には教師陣。


そして大量の移民。


静まり返る。


ピーターはゆっくり口を開いた。


「この都市では」


「身分より能力を重視します」


ざわめく。


貴族社会ではあり得ない言葉だった。


「教育を受ければ、誰でも技術を得られます」


「農業も」


「鍛冶も」


「魔法も」


「行政も」


「全てです」


移民たちは信じられない顔をしていた。


そんな世界。


存在するはずがない。


しかし。


実際に見えている。


魔導灯。


水路。


ゴーレム。


畑。


学校。


全部。


存在している。


一人の少女が手を挙げた。


「……わたしでも、学べますか?」


痩せた少女だった。


服もボロボロ。


だが。


目は強い。


ピーターは優しく笑った。


「もちろんです」


「この街では、学ぶ意思がある人を拒否しません」


少女は泣き崩れた。


後ろで母親も泣いている。


その様子を見ていたミネルバが、小さく胸を押さえる。


彼女は今、グランゼルで孤児保護を続けていた。


しかし通信網は繋がっている。


メタルビレッジの状況も届いていた。


ミネルバは呟く。


「……増えてる」


「救われる人が」


その隣で。


セレスが静かに笑った。


「ピーター先生、完全に人たらしね」


「え?」


「本人無自覚なのが一番厄介」


ミネルバは少し困った顔で笑った。


否定できない。


ピーターは優しすぎる。


だから人が集まる。


だから都市が変わる。


だから環境が変わる。


夕方。


メタルビレッジ外周。


新たな住宅地建設が始まっていた。


ゴーレムが整地する。


土属性持ちが壁を作る。


水属性持ちが生活水路を引く。


火属性持ちが金属加工。


全員が動いていた。


しかも。


誰も命令されていない。


自分で考えている。


それが一番大きかった。


以前の帝国兵なら。


「命令待ち」だった。


しかし今は違う。


教育を受けた。


考える力を得た。


結果。


自分で動く。


若い兵士が笑いながら言う。


「俺、元々ただの槍兵だったんですよ」


「今、灌漑設計やってるとか意味わかんないっす」


周囲が笑う。


別の男も言った。


「俺なんか元盗賊だぞ」


「今、治安維持隊」


さらに笑いが広がる。


環境が変わると。


人は変わる。


それを全員が実感していた。


夜。


山岳都市を見下ろす高台。


ピーター。


ジミー。


マイク。


三人が通信魔導具で会話していた。


マイクが笑う。


『そっち人増えすぎだろ!』


『もう都市じゃねぇか!』


ジミーが鼻を鳴らす。


『物流屋としては頭痛ぇけどな』


『食料も資材も全部足りねぇ』


ピーターが苦笑した。


「それでも皆働いてくれてます」


『そりゃ働くだろ』


『未来あるからな』


マイクの言葉に。


少しだけ沈黙が落ちる。


未来。


それが今まで無かった。


貧民には。


農民には。


孤児には。


存在しなかった。


しかし。


今はある。


教育。


技術。


仕事。


仲間。


守る場所。


それが人を変えていた。


その時。


索敵持ちの若者が走ってきた。


「ピーター先生!!」


「どうしました?」


「また移民です!」


「今度は王国騎士団崩れが二百人!!」


ジミーが吹き出した。


『ははははっ!!』


『もう終わりだろ王国!!』


ピーターは頭を抱えた。


だが。


少し笑っていた。


人が集まる。


才能が集まる。


教育が回る。


さらに人が育つ。


循環が加速していた。


遠く。


山岳都市の魔導灯が輝く。


その光は。


まるで新しい時代の始まりのようだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ