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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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155話:農地改革

山岳都市メタルビレッジ。


かつてこの都市は、“鉄の街”と呼ばれていた。


山を削り。


鉱石を掘り。


鍛冶を行い。


武器を作る。


それが全てだった。


だから。


農地がない。


正確には、“作れないと思い込んでいた”。


山岳地帯では畑は広がらない。


水が足りない。


土が薄い。


岩盤が多い。


誰もがそう考えていた。


だから食料は外部依存だった。


物流が止まれば飢える。


帝都と同じ。


脆い構造。


それを。


ピーターは静かに見つめていた。


朝。


メタルビレッジ外縁。


山肌の前に、大量の人々が集まっていた。


農民。


鍛冶師。


兵士。


教師。


そして。


新たに覚醒したゴーレムスキル持ちたち。


ざわめきが広がる。


「本当に農地になるのか?」


「ここ岩だぞ?」


「水も少ねぇ」


不安は当然だった。


そんな中。


ピーターは穏やかに笑った。


「大丈夫です」


「環境は作れます」


その言葉には不思議な説得力があった。


彼はグロマールを見てきた。


荒れ地が村になる瞬間を。


飢えた土地が食料充足率300%を超える瞬間を。


知っている。


だから迷わない。


「まず水路を作ります」


教師たちが動く。


土属性魔法。


石操作。


圧縮。


掘削。


山肌が削られていく。


ゴゴゴゴゴ……


岩盤が動く。


巨大な溝が形成される。


若い農民が息を呑んだ。


「すげぇ……」


「山が削れてる……」


さらに。


ゴーレムスキル持ちたちが前へ出る。


「土木用ゴーレム、起動」


地面から巨大な土ゴーレムが立ち上がる。


十体。


二十体。


五十体。


以前とは違う。


動きが滑らかだった。


魔力循環。


魔力操作。


教育。


それらを学んだ結果。


ゴーレムは“道具”へ進化していた。


ゴーレムたちは巨大岩を持ち上げる。


砕く。


運ぶ。


積む。


教師が驚く。


「精度が高すぎる……」


「もう職人レベルですよ……」


ピーターは苦笑した。


「皆、努力してますから」


その言葉に。


ゴーレム使いたちは少し照れた。


彼らは元々、ただの鉱夫だった。


一生、山を掘って終わるはずだった。


しかし。


教育を受けた。


魔力循環を学んだ。


魔力操作を学んだ。


結果。


人生が変わった。


それだけだった。


昼頃。


巨大な水路が完成する。


山上の湖。


地下水脈。


雪解け水。


それらを繋ぐ巨大灌漑網。


水属性持ちたちが一斉に動いた。


「ウォーターフロー!」


大量の水が流れ始める。


乾いた大地へ。


山岳地帯へ。


今まで水が届かなかった場所へ。


民衆が歓声を上げた。


「流れた!!」


「水だ!!」


「畑になるぞ!!」


老人が震えながら呟く。


「……こんなの、初めて見た」


彼は七十年以上この土地に生きていた。


だが。


山岳都市で農地が増えるなど、一度も見たことがなかった。


それを。


この若者たちはやっている。


力ではない。


知識で。


技術で。


教育で。


午後。


次は土壌改良だった。


農業教師たちが前へ出る。


「石灰投入!」


「土壌混合!」


「排水調整!」


土属性魔法が発動する。


岩混じりだった地面が、次第に“畑”へ変わっていく。


そこへ。


新たに覚醒した農夫たちが加わった。


「農業スキル発動!」


「土壌活性!」


地面が変化する。


柔らかい。


黒い。


生命力ある土。


教師たちが驚く。


「早すぎる……」


「普通なら数年かかる」


ピーターも驚いていた。


覚醒速度。


技術吸収。


適応。


全てが異常に速い。


教導スキル。


レベル5。


その影響は、彼の想像を超え始めていた。


隣で土木教師マリーが笑う。


「ピーター先生、また顔してますよ」


「え?」


「“なんでこんな成長するの?”って顔です」


図星だった。


ピーターは頭を掻く。


「だって本当に早いんですよ……」


マリーは小さく笑った。


その横顔を、少しだけ見つめる。


優しい。


真面目。


誰より努力する。


だから皆がついていく。


マリーは知っていた。


自分が憧れていることを。


しかし。


口にはしない。


彼には。


ミネルバがいる。


その事実を知っていたから。


夕方。


第一農地区画完成。


広大な段々畑が山肌へ広がっていた。


豆畑。


芋畑。


根菜畑。


さらに。


水路沿いには果樹苗まで植えられていく。


農民たちが呆然としていた。


「一日で……」


「こんなに……」


鍛冶師の男が笑う。


「もう“鉄だけの街”じゃねぇな」


周囲も笑った。


そこへ。


ジミーから通信が入る。


『おーいピーター』


「ジミーさん?」


『帝都の連中、メタルビレッジが農業始めたって聞いて顔面蒼白だぞ』


「えぇ……」


『山岳都市まで自給始めたら終わりだからな』


その通りだった。


これまで。


帝国は地方依存だった。


食料。


物流。


鉱石。


全て分業。


しかし。


教育が始まってから変わった。


どの都市も。


“自分で生きられる”


ようになり始めていた。


それは強い。


圧倒的に。


夜。


山岳都市を見下ろす高台。


ピーターは完成した灌漑網を見ていた。


無数の魔導灯が輝いている。


水路が光を反射する。


ゴーレムたちは今も働いていた。


荷運び。


岩撤去。


水管理。


誰も止まらない。


人々が自分で動いている。


グロマールが始めた循環。


それは。


確かに広がっていた。


そこへ。


若い農夫が走ってきた。


「ピーター先生!!」


「どうしました?」


「芽が出ました!!」


「え?」


全員が畑へ走る。


そこには。


昼に植えたばかりの豆が、小さな芽を出していた。


農民たちが歓声を上げる。


「早ぇ!!」


「もう発芽した!」


「すげぇ!!」


農業教師が震えていた。


「魔力循環の影響か……?」


「土壌活性と成長促進が重なってる……」


生命が加速していた。


環境が変われば。


人は変わる。


土地も変わる。


世界すら変わる。


ピーターは小さく笑った。


「……本当に」


「グロマール様の言った通りだ」


教育は。


人を救う。







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