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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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153話:戦わない勝利

帝都は、静かに崩れ始めていた。


誰かが城門を破ったわけではない。


軍が攻め込んだわけでもない。


火の手も上がっていない。


血も流れていない。


それでも、人々は理解し始めていた。


「止まった」のだと。


物流が。


朝。


帝都中央市場。


いつもなら夜明け前から荷馬車が並び、怒号と笑い声が飛び交う巨大市場は、異様な静寂に包まれていた。


「……来ない」


商人の一人が呟く。


野菜が来ない。


肉が来ない。


塩が来ない。


薬草が来ない。


布が来ない。


炭が来ない。


何より。


魔石が来ない。


「おい……どうなってる」


「北街道は?」


「閉鎖されてる」


「南は!?」


「荷が止まってる」


「東部倉庫は!?」


「空だ!」


混乱が広がる。


しかし、まだこの時点では誰も理解していなかった。


これは事故ではない。


戦争でもない。


“選別”なのだと。


帝都中央管理塔。


大量の帳簿を前に、ジミーは椅子に座ったまま笑っていた。


「なるべくしてなったって言うのが正解だな」


周囲の行政教師たちは冷や汗を流している。


「本当に止めるんですか……?」


「止めた」


「全部?」


「全部」


ジミーは机に広げられた巨大地図を見る。


街道。


倉庫。


中継点。


輸送隊。


農地。


港。


鉱山。


帝都。


すべてが線で繋がっていた。


かつて誰も理解していなかった。


物流とは“血流”だということを。


「別に兵を送ったわけじゃねぇ」


ジミーは肩を竦める。


「荷を止めただけだ」


それだけで。


帝都は死ぬ。


教師の一人が震えた声で言った。


「こんなに影響が出るなんて……」


「当然だろ」


ジミーは即答した。


「今の帝都は、自分で何も作ってねぇ」


その言葉は冷酷だった。


しかし事実だった。


帝都貴族たちは。


他人を搾取することに慣れすぎた。


農地を軽視した。


物流を見下した。


生産者を奴隷扱いした。


結果。


誰も帝都のために働かなくなった。


今、帝都を支えているのは。


グロマール領式教育を受けた者たちだった。


覚醒者。


農民。


商人。


鍛冶師。


織工。


治癒師。


教師。


彼らが物流網を支えていた。


そして。


その中心にいるのがジミーだった。


弱者のズルさを知る男。


だからこそ。


「どこを止めれば人が困るか」


を誰より理解していた。


「塩止めろ」


「肉止めろ」


「高級酒止めろ」


「貴族専用香辛料も止めろ」


「魔石も一旦停止」


指示が飛ぶ。


教師たちは凍りついた。


「魔石まで止めるんですか!?」


「当たり前だろ」


ジミーは帳簿を閉じた。


「魔導灯が消えりゃ、誰が物流握ってるか理解する」


その頃。


帝都貴族街。


「灯りが消えたぞ!」


「予備魔石は!?」


「ありません!」


「買ってこい!」


「市場にありません!!」


豪奢な屋敷が暗闇に沈む。


悲鳴。


怒号。


混乱。


貴族たちは初めて理解する。


“金だけではどうにもならない”


という現実を。


帝国宰相レオハルトは、その報告書を見て苦笑していた。


「戦わずに制圧か……」


隣の皇帝も低く笑う。


「面白い男だな、ジミーというのは」


「完全に物流を掌握しています」


「兵より恐ろしい」


皇帝の目は細められた。


「なるほど。これがグロマールの教育か」


暴力ではない。


循環。


支配ではない。


依存構造の理解。


帝国は変わり始めていた。


その中心にいるのは英雄ではない。


“理解者”たちだった。


一方。


帝都南部。


パン屋。


「小麦が来ない!」


「閉めるしかない!」


「冗談じゃないぞ!」


人々が騒ぎ始める。


しかし。


次の瞬間。


別の荷車が現れた。


御者は若い女性だった。


「並んでください」


「全員に配給します」


民衆がざわめく。


荷車に刻まれていたのは。


グロマール領の紋章だった。


「無料……?」


「子供優先です」


「病人を先に」


民衆が静まり返る。


そこにいた教師が穏やかに言った。


「勘違いしないでください」


「止めたのは“悪意ある貴族への流通”です」


「民への供給は止めていません」


その瞬間。


空気が変わった。


人々は理解した。


狙われているのは民ではない。


既得権層だと。


老婆が震えながら言った。


「……助けてくれるのかい」


教師は優しく頷いた。


「もちろんです」


「グロマール様は、民を見捨てません」


涙を流す者がいた。


帝都は初めて見る。


“支配ではない統治”


を。


その頃。


帝都地下。


旧貴族商会の幹部たちは青ざめていた。


「何故だ!」


「何故止まる!?」


「賄賂は渡しただろう!」


商人が震えながら答える。


「もう無理です……」


「誰も従いません」


「輸送隊も」


「農民も」


「倉庫管理も」


「全員、グロマール式教育を受けています……」


沈黙。


絶望。


彼らは理解した。


武力ではない。


“信用”で負けたのだと。


同時刻。


帝都治療院。


ミネルバは忙しく動いていた。


孤児。


病人。


老人。


次々に治療していく。


治癒師たちも全員覚醒者。


光属性。


水属性。


土属性。


複数属性が当たり前になっていた。


「ミネルバ先生!」


「北区で子供が熱を!」


「すぐ行きます!」


ミネルバは駆け出す。


その姿を見て若い治癒師が呟いた。


「すごいなぁ……」


「全然休まない」


隣の女性教師が苦笑する。


「ミネルバ先生ですから」


「優しい人ほど無茶をします」


そこへ通信魔法が届いた。


『帝都北部、混乱拡大』


『食料不足による暴動の兆候あり』


マイクが立ち上がった。


「行くぞ」


直属防衛部隊が動く。


しかし。


武器を抜いた者はいない。


代わりに。


巨大な土壁が形成された。


逃走経路封鎖。


風牢。


水拘束。


影縛。


暴徒たちは、一瞬で無力化された。


マイクが怒鳴る。


「落ち着け!!」


声が響く。


身体強化された肺。


強化された声帯。


圧倒的声量。


民衆が止まる。


「飯は配給される!」


「怪我人は治療院へ行け!」


「騒ぐ前に並べ!」


その言葉に。


人々は従った。


誰もが理解していた。


マイクたちは。


民を殴らない。


殺さない。


見捨てない。


だから。


信用された。


戦わず。


殺さず。


それでも制圧される。


帝都は、初めて経験していた。


“本物の統治”


を。


その夜。


皇宮。


レオハルトは静かに呟いた。


「……剣ではなく物流で勝つか」


皇帝も笑う。


「面白い時代になった」


窓の外。


帝都にはまだ灯りが残っていた。


グロマール領製の魔導灯。


その灯りは。


帝国の未来そのものだった。







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