152話:民兵
森の深淵。
そこは既に戦場ではなかった。
山は崩れ。
大地は抉れ。
巨大な竜の死骸が無数に転がる。
焦土。
破壊。
災害。
まるで天災が通り過ぎた後だった。
しかし。
まだ終わっていない。
残る敵は三体。
アースドラゴン二体。
エンシェントドラゴン一体。
超巨大。
国家災害級。
普通なら一国が滅びる。
だが。
その三体ですら、既に自由を失っていた。
ピーターの魔法。
アイスマスク。
ウォーターマスクから派生した超高密度氷結拘束魔法。
巨大な竜の顔面を氷塊が完全に覆っている。
呼吸。
咆哮。
魔力放出。
全て封殺。
エンシェントドラゴンですら暴れるだけで何もできない。
教師たちは呆然としていた。
「……嘘だろ」
「エンシェントドラゴンを拘束してる……」
「しかも三体同時……?」
ピーター本人は、その反応に気づいていなかった。
彼は冷静だった。
生徒たちの安全。
教師の生存。
被害最小化。
その結果として最適解を選んだだけ。
そこへ。
戦闘部隊が動く。
剣神。
槍神。
拳神。
かつて農民だった者。
元兵士。
鍛冶職人。
木こり。
普通の民。
教育。
覚醒。
戦闘経験。
それら全てを積み重ね、到達した存在。
身体強化。
筋肉強化。
風属性加速。
土属性圧縮。
複数属性同時展開。
魔力が爆発する。
空気が震える。
剣神が消えた。
次の瞬間。
アースドラゴンの首が宙を舞う。
教師たちが目を見開く。
「速い……!」
しかし。
それだけではない。
本来。
ドラゴンの首など斬れない。
超高密度鱗。
超高密度魔力。
だが。
ピーターの拘束魔法が竜の魔力循環を封じていた。
だから通る。
剣神が吠えた。
「拘束があるから斬れる!」
その言葉通りだった。
ピーターが止める。
戦闘部隊が殺す。
完全分業。
さらに槍神。
風属性加速。
地面が爆ぜる。
槍が空間を裂いた。
エンシェントドラゴンの首元。
一点。
完全貫通。
魔力核粉砕。
エンシェントドラゴンが痙攣し、そのまま絶命する。
教師たちが完全に沈黙した。
国家最強クラス。
そのはずのエンシェントドラゴンが。
民に討伐されている。
しかし。
まだ一体。
最後のアースドラゴンが残っていた。
怒り狂っている。
氷を砕こうと暴れ続ける。
そこで。
拳神が前へ出た。
元農民。
鍬を握っていた男。
教育を受け。
覚醒し。
拳神へ至った。
男は静かに拳を握る。
身体強化。
筋肉強化。
土属性圧縮。
風属性加速。
拳へ全魔力集中。
教師たちが息を呑む。
「まさか……素手で……?」
拳神は地面を踏み砕いた。
爆音。
超加速。
次の瞬間。
正拳突き。
アースドラゴンの顔面へ直撃。
衝撃。
空間が歪む。
そして。
アースドラゴンの頭部が爆散した。
血。
骨。
肉片。
巨大な頭部が消し飛ぶ。
そのまま巨体が崩れ落ちた。
静寂。
誰も喋れなかった。
ドラゴン二十五体。
エンシェントドラゴン五体。
国家滅亡級災害。
それを。
教育された民が倒した。
ピーターは小さく息を吐いた。
「……終わりましたね」
その声で教師たちが現実へ戻る。
「終わった……?」
「いや待ってください!?」
「ドラゴン二十五体ですよ!?」
戦闘教師が頭を抱える。
別の教師は座り込んでいた。
ピーターは困ったように笑う。
そして右手を上げた。
アイテムボックス。
巨大な魔法陣が展開。
アースドラゴン二十体。
エンシェントドラゴン五体。
全て収納される。
教師たちが再び絶句。
「全部入った……」
「容量どうなってるんですか……」
「いやもうそこじゃない気もする……」
ピーターは首を傾げる。
「え? 普通に入りますよ?」
完全に感覚が壊れていた。
そこへ。
索敵教師が顔色を変える。
「ピーター先生!」
「……帝都です」
空気が変わった。
ピーターの目が細くなる。
「動きましたか」
「はい」
「地方貴族勢力が武装を始めています」
教師たちが緊張する。
しかし。
ピーターは冷静だった。
「転移します」
次の瞬間。
転移魔法。
教師。
生徒。
戦闘部隊。
全員が光に包まれる。
そして。
帝都。
皇宮。
巨大な謁見の間。
突然現れた大量の人影に、衛兵たちが騒然となる。
レオハルトが立ち上がった。
「ピーター先生!?」
さらに。
皇帝も目を見開く。
ピーターは無言でアイテムボックスを開いた。
直後。
轟音。
巨大なドラゴン死体二十五体が皇宮広場へ出現した。
地面が揺れる。
衛兵たちが悲鳴を上げた。
「ドラゴン!?」
「エンシェントだぞ!?」
「二十五体!?」
レオハルトが完全に固まる。
皇帝も絶句していた。
ピーターはその場に座り込んだ。
「あー……つかれた……」
土木教師のマリーが慌ててタオルを差し出す。
「ピーター先生、水分を」
「ありがとうございます……」
教師たちが苦笑した。
「いや、疲れたで済ませる規模じゃないんですよ……」
その時。
皇宮外が騒がしくなる。
大量の民衆。
農民。
職人。
兵士。
そして。
縄で拘束された貴族たち。
悪意ある地方貴族。
偽情報を流した者。
反乱を企てた者。
武器を隠していた者。
全員が民衆によって拘束されていた。
教師たちが驚く。
「農民が……」
「拘束した……?」
そこにいた農民たちは、以前とは違った。
目に力がある。
身体も鍛えられている。
魔力循環。
魔力操作。
属性魔法。
索敵。
拘束。
教育を受けた民だった。
一人の農民が皇帝へ頭を下げる。
「陛下」
「この者たちが反乱を企てておりました」
別の農民も言う。
「帝国を乱そうとしていました」
さらに。
「俺たちはもう騙されません」
その言葉に、レオハルトが静かに目を見開いた。
理解した。
これが教育。
知識を持った民。
考える民。
自分で判断できる民。
だから支配されない。
だから煽動されない。
だから国家が強くなる。
皇帝はゆっくり立ち上がる。
拘束された貴族たちを見る。
かつて帝国を支えていた者たち。
しかし。
変化を拒んだ。
既得権にしがみついた。
民を見下した。
そして。
民に敗れた。
皇帝は静かに言う。
「……時代が変わったな」
レオハルトも頷く。
「はい」
「教育が、人を変えました」
広場の隅。
マリーが静かにピーターを見ていた。
棄民出身。
何も持たなかった少女。
ピーターに救われ。
教育を受け。
教師になった。
そんな彼女の視線の先。
ピーターは疲れ切った顔で座り込んでいる。
それでも。
誰よりも多くの人を救っていた。
教師たちも笑い始める。
恐怖が終わったから。
生き残ったから。
そして。
未来が見えていたから。
教育。
覚醒。
循環。
それはもう、誰にも止められなかった。




