150話:教育省
帝国歴。
大転換期。
そう呼ばれ始めていた。
帝都。
中央議会。
皇帝直属機関。
新設。
帝国教育省。
かつて存在しなかった組織だった。
理由は単純。
今まで。
教育そのものが存在しなかったからだ。
貴族は家で学ぶ。
平民は働く。
それだけ。
だから帝国は停滞した。
才能が埋もれ。
病が広がり。
貧困が固定され。
民は“持たない存在”として扱われていた。
そこへ。
グロマールが現れた。
魔力循環。
魔力操作。
魔力吸収。
教育。
覚醒。
全てを変えた。
そして今。
帝国は理解していた。
教育こそ国家そのものだと。
皇帝が玉座から静かに告げる。
「教育を制する者が未来を制する」
議場は静まり返った。
誰も否定できない。
結果が出すぎていた。
識字率上昇。
平均寿命上昇。
病の激減。
犯罪率低下。
税収増加。
農業革命。
紡織産業拡大。
魔導灯普及。
全て教育が起点だった。
レオハルトが立ち上がる。
宰相スキルを持つ男の声は重い。
「帝国教育省初代長官」
「ピーター先生を推薦します」
空気が揺れた。
平民出身。
元泣き虫。
元落ちこぼれ。
だが。
今。
帝国最大の教育者。
ピーター本人だけが青ざめる。
「えっ……ぼ、僕ですか?」
教師達が一斉に頷いた。
「当然です」
「むしろ他に誰がいます?」
「帝国全土で覚醒者を増やしてるのピーター先生ですよ」
行政教師まで泣いていた。
「書類文化まで変わりました!」
「報告速度が段違いです!」
ピーターは困惑していた。
自分がそんな存在なのか。
実感がない。
だが。
帝都の民は知っていた。
彼が来てから。
世界が変わった。
ミネルバが隣で微笑む。
「ピーター先生なら大丈夫です」
柔らかい声。
それだけで少し落ち着く。
その時だった。
索敵教師が青ざめた顔で会議室へ飛び込んできた。
「北部森林地帯!」
「巨大魔力反応です!」
空気が変わる。
レオハルトが即座に立ち上がる。
「数は」
索敵教師の声が震えた。
「ドラゴン20」
「さらに……エンシェントドラゴン5です」
議場が凍った。
国家災害級。
通常なら軍団案件。
都市壊滅級。
ピーターだけが冷静だった。
「場所は?」
「メタルビレッジ北方深林です!」
レオハルトが即断する。
「戦闘教師を招集しろ!」
「狩り部隊も出す!」
教師達が一斉に動く。
転移魔法陣。
展開。
ピーターも立ち上がる。
ミネルバが心配そうに見る。
「気を付けてください」
ピーターは頷いた。
「はい」
そして。
転移。
景色が変わる。
メタルビレッジ北方。
森の深淵。
空気が重い。
木々が揺れる。
地面が震える。
そして。
現れた。
巨大な竜。
アースドラゴン。
岩石の鱗。
圧倒的質量。
20体。
さらに奥。
黒き巨影。
エンシェントドラゴン。
5体。
教師達の顔色が変わる。
剣聖。
槍神。
戦闘教師。
全員。
緊張していた。
「冗談だろ……」
「こんなの都市が消えるぞ」
「数がおかしい……!」
生徒達も青ざめる。
当然だった。
だが。
ピーターは静かだった。
彼は知っている。
教師が怯えれば。
生徒も壊れる。
だから。
落ち着いて言った。
「大丈夫です」
不思議だった。
強い言葉じゃない。
怒鳴りでもない。
なのに。
皆が落ち着く。
教導スキル。
レベル5。
周囲へ影響を及ぼし始めていた。
ピーターは前へ出る。
転移魔法展開。
座標固定。
次の瞬間。
消えた。
教師達が目を見開く。
アースドラゴンの眼前。
超至近距離。
巨大な瞳。
咆哮。
暴風。
ピーターは冷静。
水属性。
魔力操作。
極限圧縮。
「ウォーターマスク」
巨大水球。
瞬時形成。
ドラゴンの顔面を覆う。
アースドラゴンが暴れた。
咆哮。
爪。
突進。
地面陥没。
木々粉砕。
だが。
取れない。
魔力操作。
魔力循環。
魔力吸収。
実質無限魔力。
水が消えない。
ドラゴンが苦しむ。
窒息。
教師達が絶句する。
「……え」
「ドラゴンが窒息してる……?」
常識外。
だが合理的。
肺呼吸。
なら塞げばいい。
ただそれだけ。
グロマール式。
剣神が叫ぶ。
「真似しろ!」
全員動いた。
身体強化。
筋肉強化。
超加速。
戦闘教師達がドラゴンへ突撃。
ウォーターマスク。
連続展開。
アースドラゴン達へ貼り付く。
暴れる。
地面が割れる。
だが。
外れない。
索敵教師が叫ぶ。
「循環を切るな!」
「圧縮維持!」
教師達が即応する。
教育済み。
理解して戦う。
だから強い。
数分後。
一体。
また一体。
アースドラゴンが倒れる。
11体。
窒息死。
教師達が凍りつく。
「……嘘だろ」
「ドラゴンを窒息で……」
「しかも集団で」
文明が変わる瞬間だった。
さらに後方。
魔法部隊。
エンシェントドラゴン対応。
極大魔力収束。
光属性。
浄化。
圧縮。
一人の魔法教師が詠唱する。
「ホーリーバレット」
巨大光弾。
一直線。
エンシェントドラゴンが咆哮。
その瞬間。
光が口内へ直撃。
頭部貫通。
絶命。
エンシェントドラゴン。
一撃死。
場が静まり返る。
槍聖が呟いた。
「……勝てる」
希望。
それが広がる。
以前なら逃げるしかなかった。
今は違う。
教育された者達。
学んだ者達。
理解する者達。
彼らは対処していた。
残るは。
アースドラゴン9体。
エンシェントドラゴン4体。
まだ脅威。
それでも。
誰も怯えていなかった。
ピーターは静かに戦場を見る。
教導スキル。
レベル5。
人を育てる力。
それは。
限界そのものを押し広げていた。
そして。
その根本にあるのは。
教育。
環境。
循環。
グロマールが始めたものだった。




