149話:孤立
帝国中央。
朝。
商業ギルド本部。
空気は重かった。
王国旧貴族商会。
崩壊。
その報告が正式に届いたからだ。
かつて巨大だった商会群。
王国物流を支配し。
市場価格を操作し。
地方商人を潰し。
貴族権力を背景に暴れていた連中。
その全てが。
今。
瓦解していた。
理由は単純。
信用を失った。
それだけだった。
「荷が届かない」
「品質が悪い」
「価格が安定しない」
「契約を破る」
「責任を取らない」
そして。
偽情報。
市場煽動。
物流妨害。
商売として最悪。
帝国商会側は違った。
覚醒商人。
物流スキル。
索敵護衛。
ゴーレム輸送。
さらに。
教育。
人材。
信用。
もう勝負にならない。
民が選ぶ。
ただそれだけ。
レオハルト執務室。
大量の報告書。
ジミーが机へ放り投げた。
「まぁ」
「なるべくしてなったって言うのが正解っすね」
軽い口調。
だが目は冷静だった。
「市場ってのは信用で回るんすよ」
「脅しじゃない」
「特権でもない」
「便利な方に流れるだけっす」
レオハルトが資料を見ながら呟く。
「王国の貴族はバカばかりなのか?」
本気で理解できなかった。
商人を潰し。
物流を止め。
民を困らせ。
さらに。
帝国を敵に回す。
宰相スキルを持つ今のレオハルトには。
もう旧時代の発想が理解不能だった。
ジミーが肩を竦める。
「今までそれで通ってたんすよ」
「だから学ばなかった」
「結局」
「教育不足っす」
レオハルトが静かに頷く。
全部そこへ戻る。
教育。
理解。
循環。
グロマールが始めたもの。
それは。
単なる改革じゃない。
文明そのものだった。
その頃。
山岳都市。
メタルビレッジ。
街は今日も変わり続けていた。
鍛冶場。
火花。
轟音。
以前とは熱気が違う。
鍛冶師達。
ほぼ全員覚醒者。
火属性。
土属性。
鍛冶。
精製。
圧縮。
加工。
複数取得。
もう珍しくない。
若い鍛冶師が笑う。
「鉄の癖が見える!」
別の職人が頷く。
「熱の通り方も分かる!」
さらに。
掘削スキル。
採掘効率爆増。
鉱山事故激減。
索敵持ち鉱夫が崩落兆候を察知する。
死者が減る。
病が減る。
貧困も減る。
全部繋がっていた。
街角。
行政官達も忙しい。
書類。
統計。
人口。
物流。
全部増えている。
以前なら処理不能。
だが今は違う。
行政スキル。
計算補助。
整理。
情報管理。
覚醒。
さらに。
教師陣。
ほぼ全員。
行政スキル取得。
その結果。
大変な事になっていた。
「早っ!」
「報告書一瞬で終わった!」
「分類整理が頭に浮かぶ!」
教師達が大騒ぎ。
行政教師が感動していた。
「何これぇ!」
「めちゃくちゃ楽!」
別の教師も笑う。
「徹夜消えた!」
「革命!」
ピーターが苦笑する。
「皆さん」
「楽しそうですね……」
マリーが即答。
「教師って事務仕事多いんですよ」
周囲全員頷く。
「本当に多い」
「地獄」
「教育より書類多い時ある」
ピーターが遠い目をした。
「……はい」
その顔で。
教師達が吹き出した。
だが。
それだけ余裕が生まれていた。
街が回っている。
教育が機能している。
人材が育っている。
それが何より大きい。
さらに。
覚醒。
止まらない。
属性複数取得。
当たり前。
火。
風。
土。
光。
複合運用。
戦闘系スキル。
行政系スキル。
職業系スキル。
全部並行取得。
以前なら。
英雄級。
今は。
一般市民。
恐ろしい変化だった。
教師の一人が呟く。
「帝国そのものが変わってる……」
ピーターも静かに頷く。
実感していた。
これはもう。
地方改革じゃない。
文明進化。
その時だった。
索敵教師。
顔色が変わる。
「……っ」
空気。
変化。
山岳北部。
さらに奥。
深い森。
普通なら誰も入らない領域。
索敵を伸ばす。
風。
探索。
光。
影。
違和感。
巨大。
濃い。
魔力。
しかも。
動いている。
索敵教師が低く呟く。
「……なんだこれ」
近くの教師達も緊張する。
索敵共有。
全員へ伝播。
次の瞬間。
全員の背筋に寒気が走った。
森。
深遠。
その奥。
何かがいる。
巨大。
重い。
黒い。
地面が揺れる。
魔物?
違う。
アンデッド?
違う。
もっと。
深い。
古い。
嫌な感覚。
まるで。
森そのものが生きているような。
索敵教師が震えた声を出す。
「反応が……増えてる」
剣聖。
槍神。
戦闘教師。
全員動く。
一瞬で臨戦態勢。
光属性展開。
ピュリフィケーション待機。
ゴーレム部隊前進。
さらに。
索敵継続。
その時。
森の奥。
ゆっくり。
影が動いた。
巨大な木々が揺れる。
一本。
二本。
倒れる。
重い。
重すぎる足音。
ズン。
ズン。
ズン。
地面が鳴る。
戦闘教師が目を細める。
「……来る」
槍神が静かに槍を構える。
剣聖。
光を纏う。
だが。
誰も突撃しない。
本能が理解していた。
危険。
今までと違う。
索敵教師が息を呑む。
「魔力量が……異常です」
教師達も顔を強張らせる。
メタルビレッジ。
急速成長。
覚醒。
教育。
文明。
その裏側で。
何かが動き始めていた。
森の深遠。
黒い影。
それは。
確かに。
こちらを見ていた。




