148話:真実
山岳都市メタルビレッジ。
夜。
巨大鉱山の灯りが山肌を照らしていた。
以前とは違う。
暗かった街が、明るい。
疲弊しかなかった空気に、人の声が混じる。
笑い声。
鉄を打つ音。
荷車。
ゴーレムの歩行音。
そして。
魔力灯。
青白い光が夜道を照らしていた。
民達はまだ慣れない様子で見上げている。
「夜なのに見える……」
「すげぇな」
「前は真っ暗だったのに」
子供達が走り回る。
以前なら危険だった。
盗賊。
酔っ払い。
魔物。
暗闇は犯罪を育てる。
だが今は違う。
夜警。
索敵。
覚醒者。
光属性。
全部揃っている。
犯罪率は目に見えて下がっていた。
その頃。
教師達は忙しかった。
通信網。
魔導通信。
帝国各地から情報が飛び交う。
「偽情報確認!」
「東地区で拡散!」
「王都方面から!」
索敵教師達が即座に位置特定。
さらに。
通信教師が全都市へ送信。
『誤情報です』
『教師暗殺未遂犯は既に拘束済み』
『黒幕貴族特定済み』
『帝国公式発表確認』
即時否定。
早い。
早すぎる。
以前の帝国では考えられない速度だった。
情報が届く前に。
否定が届く。
民達が驚く。
「もうわかったのか?」
「早くね?」
「前なら数ヶ月揉めてたぞ」
教師達も少し笑っていた。
通信網。
索敵。
教育。
全部繋がっている。
その時だった。
土木教師マリーがぽつりと言う。
「……ピーター先生」
「教導スキル成長してません?」
空気が止まる。
ピーターが固まった。
「え?」
周囲教師も静かになる。
実は。
全員。
薄々気づいていた。
異常だった。
覚醒速度。
成長速度。
属性魔法精度。
再覚醒率。
全部。
おかしい。
普通じゃない。
ピーターが困惑した顔で言う。
「いや、でも……」
「そんな急に……」
マリーが苦笑する。
「先生」
「自覚なかったんですか?」
「私達、ここ最近ずっとおかしいですよ」
別の教師も頷く。
「魔法精度が急激に伸びてます」
「教えた生徒が即覚醒する」
「普通あり得ません」
「グロマール様でもここまで早くなかった」
ピーターが青ざめる。
「え」
「え?」
慌てて自分を鑑定。
視界に文字。
教導スキル Lv5
ピーター。
硬直。
数秒後。
「ええええええぇぇぇっ!?」
山岳都市に響いた。
教師達が吹き出す。
「遅いです先生!」
「今さらですか!」
「絶対そうだと思ってました!」
ピーターは真っ赤だった。
「ぼ、僕が原因!?」
「昨今の異常覚醒者大量発生って!?」
「えぇぇぇっ!?」
頭を抱える。
本気で知らなかった。
ピーターはそういう男だった。
自分を過小評価する。
昔から。
ずっと。
その様子を見ながら。
マリーは少しだけ優しく笑う。
やっぱり。
変わらない。
昔から。
ずっと。
優しい人だった。
マリー。
元は棄民だった。
食う物も無い。
家も無い。
親も病で死んだ。
冬。
雪。
飢え。
盗み。
暴力。
人間扱いされなかった。
帝国の端。
捨てられた子供。
その時。
グロマール領へ流れ着いた。
最初は怖かった。
皆優しい。
信じられなかった。
そんな世界があるわけない。
だが。
いた。
ピーターが。
泣いていたマリーへ。
最初に差し出したのは。
パンだった。
温かいスープだった。
そして。
笑顔だった。
『大丈夫ですよ』
『ここは殴られません』
『ゆっくり覚えましょう』
あの言葉。
今でも覚えている。
ピーターは。
教えるのが上手かった。
本当に。
理解できるまで待つ。
怒鳴らない。
見捨てない。
だから皆。
安心して失敗できた。
教育が回る。
それが。
グロマール領の強さ。
マリーは土木教師になった。
最初は何もできなかった。
文字も知らない。
計算もできない。
でも。
ピーターは笑わなかった。
『一緒に覚えましょう』
その言葉だけで。
頑張れた。
気づけば。
好きになっていた。
でも。
絶対敵わない。
ミネルバ。
優しい。
強い。
綺麗。
そして。
ピーターを見る目。
誰より柔らかい。
ピーターも。
無自覚だが。
ミネルバを見る時だけ。
少し表情が違う。
だから。
マリーは自分の気持ちを隠した。
教師として。
支える。
それでいい。
そう決めた。
その時。
ピーターがまだ慌てていた。
「え、えぇ……」
「レベル5って……」
「そんな……」
教師達が笑う。
「もう帝国中おかしくなってますよ」
「先生の近くにいるだけで成長速度違います」
「索敵覚醒率も異常です」
「属性精度も上がるし」
「戦闘系再覚醒率も高いです」
ピーターが青い顔。
「責任重大すぎません!?」
教師達がまた笑った。
「今さらですよ」
「もう諦めてください」
「先生は化け物側です」
「違いますぅ!」
全力否定。
その時。
通信魔導具。
点灯。
索敵教師から連絡。
『アンデッド反応確認』
『北東部』
『数百』
空気が変わる。
教師達。
即切り替え。
早い。
もう慣れている。
ピーターも立ち上がる。
「行きましょう」
「はい」
狩り部隊。
出動。
山岳地帯。
夜。
冷たい風。
索敵教師が指差す。
「前方です」
次の瞬間。
アンデッド。
大量。
以前なら恐怖だった。
だが。
今は違う。
戦闘部隊。
全員。
光属性持ち。
さらに。
ピュリフィケーション。
槍士が前へ出る。
「行くぞ!」
剣士。
槍士。
拳士。
全員。
光を纏う。
魔法部隊後方展開。
ピュリフィケーション詠唱。
その時。
ピーターは少し驚いた。
戦闘部隊の魔力精度。
また上がっている。
教導スキル。
影響。
間違いない。
剣聖が剣を振る。
光斬撃。
アンデッド消滅。
さらに。
槍聖。
光槍。
貫通。
殲滅。
魔法部隊。
広域ピュリフィケーション。
夜空が白く染まる。
一瞬。
山岳地帯全体が昼になった。
アンデッド群。
蒸発。
静寂。
狩り部隊が息を吐く。
強い。
以前とは比べ物にならない。
その時。
若い兵士が驚いた顔をする。
「……俺」
「ピュリフィケーション覚えた」
周囲が笑う。
「またかよ!」
「今日何人目だ!」
教師達も苦笑する。
もう異常。
完全に。
ピーターが頭を抱える。
「ほんとに僕原因なの……?」
マリーが小さく笑う。
「はい」
「たぶん」
「ほぼ確実に」
ピーターがまた叫ぶ。
「えぇぇぇぇぇ!?」
山に響いた。
皆が笑った。
昔ならあり得なかった。
笑いながら戦える世界。
恐怖だけじゃない。
希望がある。
教育がある。
支える人がいる。
だから。
人は育つ。
山岳都市の夜。
魔力灯。
焚火。
笑い声。
そして。
広がっていく覚醒。
グロマールが始めた循環は。
今。
帝国そのものを書き換え始めていた。




