146話:護衛隊
グランゼル。
朝。
魔力灯がゆっくり消えていく。
夜を照らしていた白光が薄れ。
代わりに朝日が街を包み込む。
かつて。
この都市は防壁都市だった。
守るだけ。
耐えるだけ。
魔物に怯え。
アンデッドに震え。
食料不足に苦しみ。
病に倒れ。
貧困が積み重なっていた。
今。
違う。
市場は動く。
農地は広がる。
工房は煙を上げる。
学校では子供達が文字を書く。
夜でも街は明るい。
そして。
民が笑っていた。
教師本部。
ピーターが報告書を閉じる。
教師達が集まっていた。
皆。
疲れている。
だが。
表情は暗くない。
充実していた。
一人の教師が口を開く。
「最新集計です」
「グランゼル覚醒者」
「十万人突破しました」
室内が静かになる。
だが。
驚きより。
納得が勝っていた。
ピーターが小さく息を吐く。
「……ここまで来ましたか」
十万人。
以前なら。
国家規模でもあり得ない数字。
それが。
一都市。
しかも。
まだ成長途中。
教師の一人が苦笑する。
「もう普通の都市じゃありませんね」
別の教師も頷く。
「教育都市です」
「いや」
「文明圏ですね」
ピーターは窓の外を見る。
農夫。
職人。
子供。
兵士。
皆。
自然に魔力を扱っている。
魔力循環。
魔力操作。
魔力吸収。
特別ではなくなった。
日常。
そして。
その結果。
民が育つ。
環境が人を変えていた。
同時刻。
城壁外。
狩り部隊。
今日も戦果は異常だった。
大量の魔物。
大量のアンデッド。
全部狩る。
そして。
魔石回収。
ゴーレム達が戦場を歩く。
小型ゴーレム。
中型ゴーレム。
役割分担。
回収。
運搬。
仕分け。
全部自動。
槍神が笑う。
「便利になったなぁ」
隣の剣聖が頷く。
「前は回収だけで半日だった」
今。
違う。
効率化。
合理化。
教育。
全部繋がっている。
回収された魔石。
その数。
膨大。
アンデッド魔石。
魔物魔石。
全部。
グロマール領へ送られる。
転移。
保管。
浄化。
グロマール領。
巨大浄化施設。
光属性保持者。
浄化師。
さらに。
グロマール本人。
魔力吸収。
魔力循環。
実質無限魔力。
浄化速度が異常だった。
黒く濁った魔石が。
次々に透明化していく。
その浄化済み魔石が。
再び帝国へ戻る。
循環。
無駄がない。
魔力灯。
ゴーレム。
工場。
防壁。
全部の燃料になる。
つまり。
アンデッドすら。
都市発展資源へ変わっていた。
帝国中央ですら。
驚愕していた。
「……化け物だな」
帝国官僚が呟く。
「アンデッド災害を燃料に変えている」
「普通は損耗なのに」
別の官僚が低く言う。
「これが“循環”か」
一方。
グランゼル。
マイク直属防衛部隊。
正式編成。
隊員数。
急増。
元冒険者。
元兵士。
元農民。
元鍛冶師。
色々いる。
だが。
全員共通している。
教育済み。
覚醒済み。
さらに。
マイク本人が強すぎた。
訓練場。
マイクが部下達へ怒鳴る。
「遅ぇ!」
「避けろ!」
巨大な石槍。
風刃。
飛び交う。
隊員達が必死に回避。
身体強化。
風操作。
全員使う。
新人が転ぶ。
瞬間。
マイクが襟首を掴む。
そのまま投げ飛ばす。
直後。
新人がいた場所へ石壁が落ちた。
新人が青ざめる。
「す、すみません!」
マイクが笑う。
「謝る暇あるなら動け!」
周囲の隊員達も笑う。
空気は厳しい。
だが。
明るい。
恐怖支配ではない。
信頼。
だから育つ。
隊員の一人が呟く。
「ほんと変わったな」
別の隊員が頷く。
「前は死にたくねぇだけだった」
「今は守りてぇ」
その言葉を。
マイクはちゃんと聞いていた。
だから少し笑う。
グロマールの思想。
理屈じゃない。
感覚で理解している。
「あの人は支配しねぇ」
だから。
人がついてくる。
その頃。
教師本部。
ピーターが全員を集めていた。
静かな空気。
ピーターが口を開く。
「……あと二、三日です」
教師達が顔を上げる。
「次の都市へ行きます」
沈黙。
だが。
反対は無い。
もう。
分かっている。
ここは回り始めた。
学校。
行政。
夜警。
狩り部隊。
農業。
工房。
全部。
自立して動き始めている。
教師達も成長していた。
以前のように。
ピーターだけへ依存していない。
一人の女性教師が頷く。
「引き継ぎは任せてください」
別の教師も笑う。
「次の都市も待ってますからね」
ピーターは少し困ったように笑う。
「忙しいですね」
教師達も笑う。
だが。
皆理解している。
これは。
ただの教育ではない。
文明拡張。
その後。
ピーターは転移魔法陣を展開した。
光。
転移。
一瞬。
景色が変わる。
レオハルト改革領。
巨大都市。
工場。
学校。
農地。
鉄道。
魔力灯。
全部動いている。
さらに発展していた。
ピーターが少し驚く。
「……また増えてる」
迎えに来た官僚が苦笑する。
「毎日変わりますから」
そのまま。
執務室。
レオハルト。
大量の書類。
だが。
以前より余裕がある。
宰相スキル。
行政スキル。
官僚達も育った。
だから回る。
レオハルトが顔を上げる。
「来たか」
ピーターが頭を下げる。
「グランゼル、安定しました」
「覚醒者十万人突破」
「行政も自走可能です」
レオハルトが静かに頷く。
「十分だ」
「よくやった」
ピーターは報告を続ける。
アンデッド。
浄化。
魔石循環。
防衛体制。
教師育成。
全部。
レオハルトは黙って聞いていた。
そして。
最後に。
地図を広げる。
帝国全土。
まだ暗い地域が多い。
教育未到達。
魔物被害。
貧困。
病。
識字率低下。
レオハルトが指を置く。
「次はここだ」
山岳都市。
鉱山地帯。
魔物被害大。
労働災害多発。
平均寿命低。
ピーターが静かに見る。
レオハルトが言う。
「鉄が必要だ」
「帝国全体を変えるならな」
「鍛冶」
「輸送」
「建築」
「全部足りない」
ピーターが頷く。
理解している。
教育だけじゃない。
産業。
物流。
農業。
全部繋がる。
循環。
それが。
グロマールのやり方だった。
レオハルトが小さく笑う。
「忙しいぞ」
ピーターも笑う。
「はい」
「でも」
彼は窓の外を見る。
育った民。
働く人々。
笑う子供。
そして。
静かに言った。
「面白くなってきました」




