145話:見えている
グランゼル。
深夜。
都市は静かだった。
魔力灯。
巡回する夜警。
光属性兵士。
以前のような怯えた夜ではない。
民は眠れている。
安心して。
その変化こそ。
既得権層にとって最大の恐怖だった。
教師宿舎。
捕縛された暗殺者達は石牢へ拘束されていた。
水拘束。
風拘束。
土牢。
さらに光属性封印。
完全拘束。
逃げ場は無い。
教師達は慌てない。
騒がない。
もう。
理解していた。
こうなることを。
索敵教師の一人。
若い女性教師が目を閉じる。
風属性。
探索。
索敵。
魔力循環。
空気の流れ。
魔力の揺れ。
感情。
視線。
全部読む。
そして。
彼女は静かに言った。
「……見えています」
周囲が振り向く。
「黒幕です」
教師達の空気が変わる。
彼女は地図を指差した。
王都。
貴族街。
三区画。
複数。
さらに。
地下通路。
密会。
資金流れ。
全部。
追えていた。
教師の一人が呟く。
「ここまで読めるのか……」
索敵教師は苦笑する。
「以前なら無理でした」
「でも今は違います」
「魔力循環で感覚が繋がる」
「教育で思考が整理される」
「索敵は“見る”じゃない」
「“理解する”です」
沈黙。
もはや。
単なる魔法ではない。
体系化された技術。
教師達は即座に報告書をまとめた。
提出先。
レオハルト。
翌朝。
レオハルト改革領。
執務室。
報告を読んだレオハルトが静かに目を細める。
「……稚拙だな」
側近達が黙る。
レオハルトは書類を置いた。
「教師暗殺?」
「この段階で?」
「もう勝敗は決まっているのに」
彼は理解していた。
教育は止まらない。
一度広がった技術。
一度育った民。
それは。
もう戻せない。
だから。
暗殺など。
最後の悪足掻きにすぎない。
レオハルトが命令する。
「皇帝陛下へ提出」
「証拠も添えろ」
「貴族派閥へ圧力をかける」
側近が頷く。
すぐ動いた。
帝国中央。
皇帝側近。
軍。
行政。
全部が動く。
結果。
王都貴族達は震え上がった。
朝。
屋敷。
一人の老貴族が青ざめる。
「な、なぜ漏れた!?」
別の男が震える。
「教師共が読んだらしい……」
「索敵で……」
「馬鹿な」
「人間業ではない……!」
そこへ。
兵士。
帝国直属。
重装。
光属性。
さらに。
皇帝紋章。
隊長が冷たく告げる。
「皇帝命令である」
「事情聴取に同行してもらう」
老貴族が叫ぶ。
「私は伯爵だぞ!!」
隊長の目は冷たい。
「だから何だ」
拘束。
即。
終了。
もう。
立場では守れない。
時代が変わった。
その頃。
グロマール領。
マイクの部隊が動いていた。
暗殺者ギルド。
地下。
廃倉庫。
隠し通路。
そこへ。
突入。
マイクが笑う。
「おらぁ!!」
扉ごと蹴破る。
暗殺者達が飛び出す。
短剣。
毒。
闇属性。
だが。
遅い。
マイク隊。
全員覚醒者。
身体強化。
索敵。
拘束。
しかも。
実戦経験豊富。
暗殺者の一人が影へ潜る。
瞬間。
風拘束。
空中停止。
別の暗殺者。
逃走。
土壁。
閉鎖。
マイクが鼻を鳴らす。
「雑魚だな」
隊員達も苦笑する。
「昔なら怖かったんですけどねぇ」
「今はもう……」
暗殺者ギルド。
壊滅。
生き残り。
ゼロ。
情報網。
資金。
拠点。
全部押収。
マイクは報告書を書きながら笑う。
「グロマールさんの言う通りだったな」
「教育された奴は強ぇ」
「頭も回る」
その頃。
グランゼル外縁。
狩り部隊。
索敵教師が森を見ていた。
静か。
だが。
何かいる。
空気が濁っている。
教師が呟く。
「……見つけました」
隊長が振り向く。
「敵か?」
教師は頷く。
「死霊使いです」
空気が変わる。
アンデッド大量発生。
その原因。
ついに。
本体。
教師が位置を示す。
森奥。
地下遺跡。
呪詛反応。
異常濃度。
隊長が即断する。
「剣聖!」
「槍聖!」
前へ出る。
さらに。
後方。
剣神。
槍神。
再覚醒組。
圧倒的。
隊長が短く言う。
「捕縛」
全員頷く。
次の瞬間。
爆発的加速。
身体強化。
風。
光。
土。
全部乗せ。
死霊使いが気づく。
「な――」
遅い。
剣神。
背後。
風拘束。
槍神。
前方。
土牢。
死霊使いが魔法を唱える。
アンデッド召喚。
だが。
全員。
もう。
ピュリフィケーション保持者。
白光。
一斉。
アンデッドが蒸発。
死霊使いが絶句する。
「馬鹿な……!」
「なぜ全員……!」
剣神が静かに言う。
「教育だ」
そのまま。
拘束。
終了。
早すぎた。
死霊使いは何もできなかった。
隊員達が周囲を確認する。
地下遺跡。
魔石。
呪具。
死体。
全部回収。
教師が記録する。
「狩り部隊」
「全員ピュリフィケーション保持確認」
沈黙。
異常戦力。
もはや。
ただの兵士ではない。
教育された戦闘集団。
しかも。
自分達で育つ。
再覚醒。
連鎖。
共有。
理解。
止まらない。
帰還途中。
新人兵が空を見上げる。
「……怖いですね」
隣の教師が首を傾げる。
「何が?」
新人兵は苦笑した。
「俺達です」
教師も少し笑った。
否定はしない。
確かに。
強くなりすぎている。
だが。
それでも。
彼らは知っている。
目的は支配じゃない。
守るため。
民が安心して生きるため。
そのために。
強くなっている。
夜。
グランゼル。
魔力灯が街を照らす。
子供達が笑う。
女達が歩く。
職人が働く。
老人が眠る。
その全部を。
かつては守れなかった。
だから。
もう戻さない。
ピーターは窓の外を見る。
静かに呟いた。
「見えているんですよ」
「全部」
「民が育つ未来も」
「怯える貴族も」
「崩れていく古い世界も」
そして。
その流れは。
もう誰にも止められなかった。




