144話:暗殺命令
グランゼル。
夜。
魔力灯が街路を照らしていた。
かつて。
夜は恐怖の時間だった。
盗賊。
病。
飢え。
暴力。
アンデッド。
だが今。
夜警隊が巡回し。
光属性兵士が警戒し。
民は安心して眠る。
子供が笑い。
職人は翌日の仕事を語り。
農民は春の作付けを考える。
変わった。
確実に。
そして。
それを最も恐れている者達がいた。
王都貴族街。
地下会議室。
重い沈黙。
高位貴族達が顔を揃えていた。
机の上には報告書。
覚醒者数。
税収。
物流。
食料生産。
犯罪率。
識字率。
全部。
異常。
老人貴族が低く呟く。
「……止まらぬ」
別の男が歯噛みする。
「なぜ平民がここまで育つ」
「教育だ」
若い貴族が答えた。
「教師共を止めねば終わる」
室内が静まり返る。
教師。
あの集団。
ピーターを中心とした教育者達。
彼らが行く場所。
全部変わる。
民が育つ。
兵が強くなる。
産業が生まれる。
つまり。
既得権が死ぬ。
老人が震える声で言う。
「……ならば消すしかない」
暗殺。
その言葉が。
静かに落ちた。
数人が目を伏せる。
理解していた。
既に。
もう。
正面からは勝てない。
だから。
闇へ頼る。
貴族の一人が手を叩く。
奥の扉が開く。
黒装束。
暗殺者達。
殺気。
無音。
相当な手練れ。
「教師達を始末しろ」
「特にピーター」
「教師長格を優先だ」
暗殺者達は無言で頷く。
そして消えた。
その頃。
グランゼル外縁。
狩り部隊。
深夜。
索敵持ちが顔を上げる。
「……また来る」
周囲が静まる。
森。
大地。
空気。
全部が嫌な気配を孕んでいた。
次の瞬間。
地面が割れた。
大量。
アンデッド。
数千。
兵士が息を呑む。
「おいおい……」
「増えてるぞ」
隊長が即座に指示。
「陣形展開!」
「光属性前へ!」
「後衛固定!」
全員が動く。
早い。
迷いがない。
以前なら。
恐慌。
今。
違う。
教育。
訓練。
経験。
積み上げてきた。
戦闘部隊七割以上。
既にピュリフィケーション保持者。
異常戦力。
アンデッドが突撃する。
腐乱騎士。
骸骨兵。
巨大死体。
呪詛。
瘴気。
だが。
前衛。
剣豪。
槍聖。
拳豪。
極豪。
身体強化。
魔力循環。
高速機動。
斬る。
砕く。
潰す。
そこへ。
後衛。
白光。
ピュリフィケーション。
轟ッ――!!
巨大な光波。
アンデッド数百が一瞬で消滅。
さらに。
別方向。
また光。
また浄化。
光属性兵士が増えすぎていた。
戦場が昼のように明るい。
新人兵が呆然とする。
「……これ、本当に人間か?」
隣の教師が苦笑する。
「教育ですよ」
「環境ですよ」
「人は育つんです」
アンデッドの群れが再度押し寄せる。
今度は大型。
四足。
骨竜型。
兵士達が構える。
その瞬間。
前衛の槍聖。
再覚醒。
光属性。
さらに。
新たな理解。
槍を振る。
放つ。
貫通型ピュリフィケーション。
白い閃光が一直線に走る。
大型アンデッドが内部から崩壊。
隊員達が歓声を上げる。
「また増えた!」
「再覚醒者だ!」
さらに。
別方向。
拳聖。
光属性。
覚醒。
拳圧型浄化。
衝撃波でアンデッド群れが吹き飛ぶ。
教師達が記録する。
「再覚醒速度が異常です」
「皇帝スキルの影響が大きい」
「集団覚醒の連鎖が起きている」
戦闘は続く。
だが。
押されない。
むしろ。
アンデッド側が削られていく。
その後方。
ゴーレム部隊。
小型石ゴーレム。
大量。
戦場を歩き回る。
役割。
魔石回収。
ゴーレムスキル保持者が命令を飛ばす。
「左側回収!」
「大型優先!」
ゴーレム達が即座に動く。
無駄がない。
以前なら。
戦後回収で死人が出た。
今。
自動。
合理的。
さらに。
回収量が異常だった。
戦闘終了後。
集計。
教師が息を呑む。
「……七千超えました」
魔石。
アンデッド魔石。
総数。
七千超。
全員沈黙。
一晩。
一戦闘。
それでこの量。
隊長が空を見上げる。
「本当に時代が変わってるな」
教師が頷く。
「ええ」
「もう戻りません」
その頃。
グランゼル市街。
教師宿舎。
暗殺者達が侵入していた。
無音。
完璧。
屋根。
影。
窓。
呼吸すら消す。
普通の護衛なら気づかない。
だが。
今の教師陣。
違う。
索敵。
探索。
風属性。
光属性。
鑑定。
さらに。
全員。
魔力循環。
一人の教師が目を開く。
「……来ましたね」
次の瞬間。
暗殺者が窓から侵入。
短剣。
毒。
首狙い。
だが。
遅い。
教師が指を動かす。
風。
拘束。
空気が絡みつく。
暗殺者の身体が空中停止。
別方向。
別の暗殺者。
床から影移動。
闇属性。
高速。
だが。
光属性教師。
即反応。
光拘束。
白い鎖が暗殺者を縛り上げる。
さらに。
屋根上。
逃走しようとした暗殺者。
土属性教師。
地面操作。
石牢。
瞬間形成。
完全封鎖。
数秒。
終わった。
教師達が淡々と拘束を進める。
「こちら三名確保」
「毒所持確認」
「王都貴族紋章あり」
教師長がため息を吐く。
「……とうとう来ましたか」
若い教師が苦笑する。
「教育者暗殺とか」
「完全に悪役ですね」
ピーターが静かに拘束された暗殺者を見る。
怒っていない。
ただ。
少し悲しそうだった。
「怖いんでしょうね」
教師達が黙る。
ピーターは続ける。
「民が育つのが」
「誰でも学べるのが」
「平民が強くなるのが」
「だから止めたい」
拘束された暗殺者が睨む。
「……世界が壊れる」
ピーターは静かに首を振った。
「違います」
「壊れていたんです」
「ずっと前から」
沈黙。
外では。
魔力灯が夜を照らしていた。
昔なら。
暗殺者が勝っていた。
知識は独占され。
教育は閉ざされ。
平民は無力だった。
だが。
今。
違う。
教師も強い。
民も強い。
兵士も強い。
そして。
それを支えているのは。
誰か一人の英雄ではない。
環境。
教育。
循環。
グロマールが始めた流れ。
それが。
世界全体へ広がっていた。




