143話:王都貴族
王都。
古き貴族街。
石造りの大邸宅。
豪奢な庭園。
だが。
その空気は重かった。
「……馬鹿な」
高位貴族の一人が報告書を机へ叩きつける。
「覚醒者七万だと?」
別の男が低く言う。
「しかも再覚醒者が増えているらしい」
「戦闘系スキル保持者の上位化も確認済み」
「剣聖」
「槍聖」
「拳聖」
「……冗談ではない」
室内が静まり返る。
以前。
力は貴族の独占物だった。
魔法。
教育。
知識。
それらは支配の道具。
平民には与えない。
だから支配できた。
だが。
今。
崩れている。
教育。
魔力循環。
魔力操作。
魔力吸収。
広がった。
平民が強くなる。
兵士が強くなる。
職人が強くなる。
夜警まで強い。
つまり。
貴族だけの価値が消えていく。
老人貴族が唇を噛む。
「皇帝陛下は何を考えておられる……」
若い貴族が答える。
「陛下は本気です」
「帝国全体を変えるつもりだ」
「反対派は既に拘束されています」
全員黙る。
実際。
動いた貴族はいた。
物流妨害。
教育妨害。
覚醒者暗殺。
だが。
全部失敗。
民衆支持。
皇帝支持。
さらに。
覚醒者達が強すぎる。
既得権側が。
もう武力で勝てない。
その頃。
グランゼル外縁。
夜。
警戒鐘。
アンデッド。
また出た。
しかも。
止まらない。
死臭。
黒霧。
地面から這い出る骸骨。
腐乱死体。
異様な数。
城壁上。
光属性部隊が構える。
「来るぞ!」
魔法陣展開。
光。
白光。
ピュリフィケーション。
轟ッ――!
光波が地表を薙ぐ。
アンデッドの群れが崩壊する。
骨が砕け。
呪いが消え。
黒霧が蒸発する。
兵士達が息を吐く。
「また増えてやがる」
「最近多すぎる」
以前なら。
都市崩壊級。
今。
止められている。
理由。
光属性保持者。
大量発生。
しかも。
ピュリフィケーション保持者まで増えている。
普通なら。
一生かけても辿り着けない領域。
今。
量産。
異常だった。
さらに。
別地点。
狩り部隊。
森。
深夜。
索敵持ちが異変を察知する。
「地下反応!」
「数、多い!」
次の瞬間。
地面が割れる。
骸骨。
屍鬼。
腐敗騎士。
百体規模。
隊長が即断する。
「前衛固定!」
「光部隊!」
戦闘開始。
剣豪。
槍聖。
拳豪。
身体強化。
魔力循環。
異常速度で突撃。
斬る。
砕く。
吹き飛ばす。
だが。
アンデッドは止まらない。
再生。
増殖。
呪い。
隊員が叫ぶ。
「浄化だ!」
後衛。
光属性部隊。
一斉展開。
ピュリフィケーション。
白光が爆ぜる。
アンデッドの群れが蒸発。
だが。
完全ではない。
残る。
隊長が眉をひそめる。
「硬い……!」
その瞬間。
前衛の剣豪。
覚醒。
光。
身体が白く発光する。
周囲が驚く。
「おい!」
「まさか――」
剣豪が剣を構える。
魔力循環。
光属性。
融合。
そして。
放つ。
ピュリフィケーション。
斬撃型。
白い閃光が一直線に走る。
アンデッド十数体が同時消滅。
隊員達が絶句する。
「剣士が……浄化を?」
「いや」
「覚醒したんだ……!」
戦闘後。
剣豪本人も困惑していた。
「なんだ今の……」
教師が興奮する。
「再覚醒です!」
「戦闘経験!」
「光属性適正!」
「魔力循環!」
「全部噛み合った!」
だが。
休む暇は無い。
再度。
索敵反応。
今度は。
もっと深い。
もっと多い。
索敵持ちが青ざめる。
「……千超えます」
全員沈黙。
次の瞬間。
地面が爆発した。
大量。
アンデッド軍勢。
腐敗臭。
黒い瘴気。
森そのものが死んでいく。
新人兵が震える。
「こんなの……」
隊長が叫ぶ。
「構えろ!!」
戦闘開始。
だが。
数が違う。
百ではない。
千。
押し寄せる。
戦線が揺れる。
その時。
先ほど覚醒した剣豪。
前へ出た。
「下がれ」
全員が振り向く。
剣豪の周囲。
白光。
光属性。
さらに濃い。
剣を振り上げる。
「ピュリフィケーション」
轟光。
巨大な白閃。
アンデッド数百が消滅。
だが。
まだ残る。
剣豪が息を吐く。
「……足りねぇか」
再度。
放つ。
二発。
三発。
四発。
五発。
だが。
まだ残る。
隊員達も参戦。
光属性。
浄化。
前衛。
後衛。
連携。
六発。
七発。
八発。
九発。
十発目。
ようやく。
最後のアンデッドが崩れ落ちた。
静寂。
誰も動けない。
新人兵が呆然と呟く。
「……勝った」
剣豪は膝をつく。
消耗。
激しい。
だが。
目は死んでいない。
教師が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
剣豪は笑う。
「なんとか」
その瞬間。
別の隊員が叫ぶ。
「俺もだ!」
光属性覚醒。
さらに。
別の槍士。
身体から土属性魔力。
そして。
新スキル。
ゴーレム。
教師が驚愕する。
「また再覚醒!?」
槍士は地面へ手を置く。
土魔法。
石人形生成。
小型ゴーレム。
十体。
槍士が命令する。
「魔石回収」
ゴーレム達が動き出す。
戦場を歩き。
アンデッド残骸から魔石を回収していく。
隊員達が笑う。
「便利すぎるだろ」
「補給班いらねぇじゃん」
さらに。
戦闘終了後。
別の隊員達にも異変。
光属性。
覚醒。
ピュリフィケーション。
次々。
教師が震える声で言う。
「……この班」
「全員」
「ピュリフィケーション持ちになりました」
沈黙。
異常。
普通ではない。
だが。
誰も恐怖していなかった。
むしろ。
理解していた。
環境。
教育。
実戦。
仲間。
積み重ね。
それが。
人を変える。
夜明け。
グランゼル。
魔力灯が消え始める。
民が起きる。
畑へ向かう農夫。
鍛冶工房へ向かう職人。
学校へ走る子供達。
夜警隊が交代する。
そして。
遠く。
城壁外。
浄化された戦場。
アンデッドの痕跡だけが残っていた。
ピーターは報告書を閉じる。
「……変わっていくな」
教師が頷く。
「ええ」
「世界そのものが」
既得権は焦る。
古い支配は崩れる。
だが。
民は育つ。
そして。
一度育った人間は。
もう。
元には戻らない。




