142話:夜警
夜。
グランゼル。
以前なら。
人が最も恐れる時間だった。
暗闇。
酔漢。
盗賊。
暴力。
貧困。
寒さ。
夜になるほど人は荒む。
生きる余裕が無いからだ。
だが。
今。
夜の街は違っていた。
魔力灯。
白い光。
通りを照らす。
夜市。
食堂。
鍛冶工房。
笑い声。
子供達。
巡回する夜警。
街が。
生きている。
中央通り。
夜警隊が巡回していた。
以前の夜警。
酔っ払いの集まり。
賄賂。
暴力。
見て見ぬふり。
今。
別物。
身体強化。
索敵。
拘束魔法。
さらに。
戦闘系スキル。
覚醒者。
質が違う。
夜警隊長が報告する。
「犯罪率」
「先月比で四割減です」
行政官が目を見開く。
「……四割?」
「まだ減ってます」
理由。
単純。
民が豊かになった。
食べられる。
仕事がある。
教育がある。
そして。
夜が明るい。
犯罪は。
闇と貧困で増える。
逆なら減る。
さらに。
夜警そのものが強い。
盗賊達。
既に理解していた。
今のグランゼルで暴れれば終わる。
逃げられない。
索敵される。
拘束される。
しかも。
民達そのものが強い。
以前のように。
弱者を狙えない。
夜警詰所。
若い隊員達が笑っている。
「最近マジで平和だな」
「酔っ払い減った」
「盗難も減った」
隣の隊員が苦笑する。
「そりゃ身体強化覚醒した荷運び相手に喧嘩売る奴いねぇよ」
全員笑う。
以前。
夜は恐怖。
今。
夜は生活時間。
文明が変わり始めていた。
同時に。
狩り部隊。
さらに異常進化していた。
城壁外。
演習場。
剣閃。
轟音。
土煙。
隊員達が訓練している。
そして。
再覚醒。
急増。
戦闘系スキル保持者達。
さらに上へ進化していた。
剣豪。
剣聖。
その先。
剣神。
槍豪。
槍聖。
槍神。
拳豪。
拳聖。
拳神。
極豪。
極聖。
極神。
普通なら。
神話。
それが。
部隊単位で現れ始めていた。
原因。
皇帝。
皇帝スキル。
帝国全体へ影響が広がっていた。
指導者が強くなると。
民も育つ。
それは。
グロマール型。
教育循環の国家版。
ピーターは記録を見ながら静かに言う。
「……速すぎる」
隣の教師も頷く。
「帝国全体が覚醒段階に入ってますね」
「再覚醒率も異常です」
「しかも複数適正」
以前。
一属性だけでも才能。
今。
全属性適正保持者まで増えている。
魔法部隊。
さらに危険な進化を始めていた。
広域光魔法。
ピュリフィケーション。
本来。
高位聖職者の秘術。
アンデッド浄化。
呪詛破壊。
広域殲滅。
それを。
一般魔法部隊が習得し始めていた。
演習場。
夜。
光属性魔法使い達が並ぶ。
治癒師。
光術師。
騎士。
全部混成。
隊長が叫ぶ。
「同期!」
魔力循環。
光属性。
集中。
空気が震える。
次の瞬間。
巨大な白光。
空へ。
そして。
広域浄化。
轟音は無い。
静か。
だが。
凄まじい。
地面に残っていたアンデッドの残骸が。
一瞬で消滅した。
教師達が息を呑む。
「……嘘だろ」
「軍団級魔法だぞ」
「なんで量産されてる」
ピーターは静かだった。
理解していた。
教育。
環境。
食事。
魔力循環。
そして。
皇帝スキル。
全部重なっている。
今の帝国。
既に普通ではない。
夜。
行政塔。
ピーターは記録を整理していた。
数字。
人口。
覚醒者数。
識字率。
死亡率。
犯罪率。
全部。
上向き。
そして。
覚醒者数。
七万人突破。
ピーターが小さく呟く。
「あと半分」
まだ終わらない。
グランゼル人口。
十三万。
半数以上。
既に覚醒。
異常。
だが。
ピーターは止まらない。
全員。
覚醒させる。
それが目標。
教師が疲れた顔で笑う。
「先生」
「あと半分って」
「普通その数字国家戦力なんですけど」
周囲も苦笑。
だが。
誰も否定しない。
今なら。
本当に可能だと思えてしまう。
別の教師が資料を見る。
「再覚醒者も増えてます」
「特に戦闘系」
「身体強化との相性が異常ですね」
「あと」
「索敵系も」
最近。
狩り部隊。
夜警。
騎士団。
全部強くなりすぎていた。
しかも。
実戦経験が毎日積まれる。
成長速度が異常。
ピーターは少し考える。
「……嫌な感じですね」
教師達が静まる。
全員。
同じことを感じていた。
強くなりすぎている。
世界の均衡が。
動いている。
そして。
アンデッド。
あれも気になる。
夜。
索敵報告。
地下反応。
増加。
しかも。
移動している。
誰かが操っている可能性。
高い。
レオハルトも会議室に来ていた。
地図を見る。
「旧地下墓地か」
「はい」
「複数あります」
「さらに古戦場も」
帝国。
長い歴史。
つまり。
死体も多い。
アンデッド災害が起きれば。
最悪。
都市崩壊。
だが。
今のグランゼルは以前と違う。
光属性保持者。
大量。
ピュリフィケーション保持者までいる。
戦える。
レオハルトが静かに言う。
「守るぞ」
「この街を」
誰も反論しない。
窓の外。
夜景。
光。
人。
笑顔。
生きる音。
それを。
失わせない。
夜警達が巡回する。
魔力灯の下。
犯罪者を拘束する。
迷子の子供を家へ送る。
酔っ払いを介抱する。
以前。
恐怖だった夜。
今。
人を守る時間へ変わっていた。
そして。
その変化を見ながら。
ピーターは思う。
環境が変われば。
人は変わる。
本当に。
それだけだったのだと。
世界は。
最初から。
壊れていた訳ではない。
育て方を。
知らなかっただけなのだと。




