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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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14話:エバという女

盗賊を追い払った翌日。


リードル村には奇妙な熱気が残っていた。


村人たちは疲れている。


それでも顔が違った。


以前のような“諦め”ではない。


自分たちで守れた。


その実感が、人を変えていた。


広場ではマイクが大声を上げている。


「だから槍はこう構えろって!」


子供たちが真似をする。


ぎこちない。


それでも笑い声がある。


ピーターは治療小屋で包帯を巻いていた。


軽傷者ばかりだ。


死人はいない。


それが何より大きかった。


ミネルバは薬を整理しながら、小さく安堵の息を吐く。


「本当に……守れたんですね」


セレスが壁へ寄りかかる。


「グロマールが無茶苦茶だっただけよ」


「でも、一人で終わらせませんでした」


その言葉に、セレスは少し笑った。


「そこがあの人だから」


外では村人たちが畑へ向かっている。


生活が止まっていない。


これも変化だった。


以前なら、盗賊が来た時点で数日は動けなくなっていた。


恐怖が村全体を止めるからだ。


だが今は違う。


動き続ける。


循環が止まらない。


その時だった。


村の入口から声が聞こえた。


「へぇ」


女の声。


軽い。


しかし妙に耳へ残る。


村人たちが振り返る。


そこには、一人の少女が立っていた。


年齢は十六前後。


長い黒髪。


細い目。


薄く笑っている。


服は旅装。


だが汚れていない。


貧民ではない。


観察している目だった。


まず村を見る。


次に畑。


井戸。


荷車。


人の動き。


最後に。


グロマールを見る。


「……なるほど」


少女は小さく笑った。


マイクが前へ出る。


「誰だよ」


少女は気にしない。


「旅人」


「名前は」


「エバ」


あっさり答える。


だが目はずっと村を見ていた。


計算している。


価値を測っている。


そんな目だった。


グロマールが静かに聞く。


「目的は」


エバは少し笑みを深くする。


「仕事」


その返答に、ジミーが反応した。


「商人系か?」


エバは視線を向ける。


「近い」


その瞬間。


ジミーが少し目を細めた。


同類だ。


要領で生きる側。


空気を読む側。


損得を考える側。


それを直感していた。


エバは村の中央へ歩く。


恐れがない。


普通なら警戒する。


しかし彼女は堂々としている。


むしろ観察していた。


「面白い村ね」


ミレナが眉を寄せる。


「何が言いたいの」


エバは井戸を見る。


「貧困村特有の臭いが薄い」


全員が少し黙る。


彼女は続けた。


「水が違う」


「病人が少ない」


「子供の顔色も悪くない」


視線が畑へ向く。


「しかも動いてる」


普通の旅人はこんな見方をしない。


グロマールは静かに見ていた。


エバは笑う。


「急激に変わった村って、分かりやすいのよ」


ミレナの警戒が強くなる。


「……何者なの」


エバは肩をすくめた。


「生き残るのが上手い女」


曖昧だった。


だが嘘ではない。


グロマールが聞く。


「盗賊を知ってるな」


エバの笑みが少し止まる。


その反応だけで答えだった。


「察しがいい」


「お前も追われてる」


エバは数秒黙る。


そして。


「……半分正解」


セレスが静かに前へ出る。


「半分?」


「利用してた」


ミレナが目を細める。


エバは悪びれない。


「盗賊って、情報欲しがるのよ」


「どこに食料があるか」


「どこが弱いか」


「どこが儲かるか」


エバは笑う。


「私はそれを売ってた」


空気が変わる。


マイクが怒る。


「ふざけんな!」


しかしエバは動じない。


「生きるためよ」


真顔だった。


軽く言っていない。


本当にそうやって生きてきた顔だった。


「貧乏人は綺麗事だけじゃ死ぬの」


その言葉に、ジミーが少しだけ視線を逸らす。


分かるからだ。


弱者は時にズルくなる。


そうしなければ食えない。


グロマールは淡々と聞く。


「なぜここへ来た」


エバは少しだけ目を細めた。


「盗賊が失敗したから」


全員が静かになる。


エバは続ける。


「あり得ないのよ」


「貧困村が盗賊を返すなんて」


「しかも死人なし」


その目がグロマールを見る。


「だから興味持った」


ミレナが冷たく言う。


「信用できない」


エバは笑った。


「でしょうね」


否定しない。


むしろ当然だと思っている。


そこが逆に不気味だった。


マイクが怒鳴る。


「追い出せ!」


「待って」


止めたのはセレスだった。


マイクが振り返る。


セレスはエバを見ている。


「盗賊側の情報持ってるんでしょ」


エバが笑う。


「さすが頭いい子」


「褒めなくていい」


セレスは冷静だった。


「何人いるの」


「二十前後」


マイクの顔が強張る。


多い。


昨日の四人は偵察だった。


本隊は別にいる。


エバは壁へ寄りかかる。


「しかも諦めてない」


「この村、今かなり美味しいから」


食料。


水。


薬。


そして女。


狙う理由がある。


ミレナが拳を握る。


エバはそんな彼女を見る。


そして少しだけ笑った。


「強い顔するのね」


ミレナが睨む。


「何」


「でも怖いでしょ」


ミレナの目が少し揺れる。


図星だった。


エバは人を見るのが上手い。


弱さ。


恐怖。


欲望。


全部読む。


それが彼女の生き方だった。


グロマールが静かに聞く。


「見返りは」


エバが笑う。


「話が早い」


損得で考える人間だと理解している。


だから無駄がない。


「食事」


「寝床」


「あと安全」


マイクが吐き捨てる。


「信用できるかよ」


エバは肩をすくめる。


「別に信用しなくていい」


そして。


少しだけ真顔になる。


「でも、盗賊は本当に来る」


その空気だけは嘘じゃなかった。


グロマールはエバを見る。


鑑定。


癖。


視線。


呼吸。


嘘と本音を分ける。


この女は計算高い。


ズルい。


人を利用する。


でも。


“生き残るため”にやっている。


根が腐っているわけではない。


グロマールは短く言う。


「働け」


エバが目を細める。


「へぇ?」


「情報を出せ」


「その代わり保護する」


マイクが驚く。


「入れるのか!?」


グロマールは静かに答える。


「使える」


エバは数秒黙る。


そして。


少しだけ笑った。


今までと違う笑みだった。


試すような笑みではない。


「……変な村」


その言葉には、少しだけ本音が混ざっていた。


普通なら追い出される。


殴られる。


利用される。


そういう人生だった。


けれど。


この村は違う。


グロマールは支配しない。


感情で切らない。


価値を見る。


循環を見る。


エバはその意味を、まだ完全には理解できていなかった。


だが。


この村が普通ではないことだけは分かっていた。


風が吹く。


畑が揺れる。


リードル村にはまた、新しい人間が加わった。


計算高く。


ズルく。


生き残るために頭を使ってきた少女。


エバ。


彼女もまた、この環境の中で少しずつ変わり始めることになる。







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