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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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137/322

137話:布

北部防衛都市グランゼル。


雪。


白。


冷気。


かつてここは。


“死を待つ都市”だった。


魔物災害。


物流崩壊。


食料不足。


娼館街の女達は冬を越えられず。


孤児は凍死し。


兵士は擦り切れ。


民は諦めていた。


だが。


今。


違う。


都市の空気が変わっていた。


城壁の上。


見張り兵が叫ぶ。


「第三狩り班帰還!」


巨大門。


開く。


吹雪の向こう。


帰還してくる。


狩り部隊。


十人一班。


三十班。


合計三百人。


だが。


以前の兵士とは別物だった。


全員。


覚醒者。


剣士。


槍兵。


拳士。


魔法使い。


それぞれ。


魔力循環。


魔力操作。


魔力吸収。


完全習得。


身体能力そのものが違う。


さらに。


戦闘経験。


毎日。


数千。


魔物を狩る。


環境が。


彼らを育てた。


門前。


巨大魔狼。


魔熊。


氷蜥蜴。


山のような素材。


兵士達が歓声を上げる。


「今日も大量だ!」


「肉だ!」


「魔石だぞ!」


「防具素材まである!」


解体場。


既にフル稼働。


火属性持ちが炉を管理。


水属性持ちが洗浄。


土属性持ちが解体台を形成。


風属性持ちが血臭を飛ばす。


全部。


連携。


無駄がない。


さらに。


覚醒が止まらなかった。


狩り部隊隊長。


元傭兵。


剣を振った瞬間。


魔力が爆発する。


教師が目を見開く。


「剣豪……!」


別班。


槍兵。


一撃で巨大魔猪を貫通。


槍聖。


さらに。


拳士。


素手。


氷狼の頭蓋を砕く。


拳聖。


数日後。


さらに上。


剣神。


槍神。


拳神。


極豪。


極聖。


極神。


戦闘系上位スキル。


次々誕生。


理由。


単純。


生きるため。


必要だったから。


教師の一人が呟く。


「ここまでとは……」


別教師が答える。


「環境が極端すぎる」


「死ぬか」


「強くなるか」


「だから覚醒する」


さらに異常なのは。


魔法使い達だった。


索敵班。


全員。


全属性適性。


火。


水。


風。


土。


光。


闇。


複合運用。


既に当然。


属性相互補完。


連携速度。


桁違い。


索敵能力。


旧帝国軍の数十倍。


教師達ですら戦慄していた。


城壁上。


ピーターが雪景色を見る。


隣。


レオハルト。


「……皇帝の影響か」


ピーターは頷く。


「たぶん」


皇帝スキル。


国家規模補正。


帝国そのものの流れが変わっている。


指導者が変わる。


国家が変わる。


民が変わる。


環境が変わる。


循環。


それが。


広がっていた。


その夜。


グランゼル下層街。


娼館区域。


荒れ果てた石畳。


酒臭。


怒号。


雪。


悲鳴。


「やめて!」


女の声。


ピーター達が振り向く。


悪漢。


三人。


娼婦を殴っていた。


理由。


借金。


よくある話。


以前の都市なら。


誰も助けない。


だが。


今。


違う。


教師が前へ出る。


風。


拘束。


一瞬。


悪漢三人。


空中固定。


続いて。


土。


牢形成。


完全拘束。


さらに。


光。


治癒。


殴られた女。


傷が塞がる。


周囲の娼婦達が呆然とする。


「……え?」


「助けた?」


「なんで……」


ピーターは淡々としていた。


当然のように。


悪漢を見る。


鑑定。


借金斡旋。


暴行常習。


恐喝。


全部見える。


教師へ指示。


「行政班へ」


「労働刑」


「更生教育」


悪漢達が震える。


以前なら。


賄賂で終わった。


今は違う。


逃げられない。


その時。


助けられた女。


二十代前半。


痩せている。


傷だらけ。


茶髪。


名前。


ミーナ。


彼女は。


震えながら。


ピーターを見た。


その目。


完全な崇拝。


救われた人間の目。


「……ありがとう……ございます……」


涙。


止まらない。


ピーターは少し困った顔をする。


そして。


いつものように言う。


「魔力循環できますか?」


周囲が固まる。


ミーナも止まる。


「……え?」


「えっと……」


「できません……」


ピーターは頷く。


「じゃあ教えます」


周囲の教師達が苦笑する。


本当に。


この少年は変わらない。


ミーナは完全に混乱していた。


助けられた。


優しくされた。


なのに。


口説かない。


見返りを求めない。


代わりに。


教育。


それだけ。


ピーターは地面に座る。


「まず呼吸です」


「魔力は怖くない」


「流れを感じてください」


ミーナは震えながら真似する。


すると。


周囲の娼婦達も集まる。


五人。


皆。


疲れ切っていた。


殴られ。


搾取され。


冬を越えられない女達。


彼女達も真似する。


魔力循環。


魔力操作。


魔力吸収。


ゆっくり。


丁寧に。


教える。


数十分後。


空気が変わった。


一人。


魔力が跳ねる。


教師が驚愕する。


「早い……!」


次の瞬間。


スキル覚醒。


紡織。


さらに。


仕立。


別の女。


また覚醒。


さらに。


また。


五人全員。


紡織スキル。


仕立スキル。


一斉覚醒。


娼婦達が呆然とする。


手を見る。


糸が見える。


布構造が理解できる。


織り方が分かる。


教師の一人が顔を引き攣らせる。


「……これは」


「やりすぎでは……?」


別教師も苦笑。


「ここまで簡単に……」


だが。


ピーターは静かだった。


「違います」


「元々才能があった」


「環境が無かっただけです」


その言葉。


ミーナが泣いた。


声を殺して。


泣いた。


才能。


そんな言葉。


人生で一度も言われたことがなかった。


その後。


五人は。


土下座する勢いで言った。


「娼婦を辞めたいです」


「働きたい」


「普通に生きたい」


「布を作りたい」


ピーターは即答した。


「分かりました」


そのまま。


翌朝。


紡織工房へ連れて行く。


レオハルト紹介。


北部紡織拠点。


以前は倉庫だった建物。


今。


巨大工房。


寒冷地綿花。


羊毛。


魔糸。


全部集まる。


中では。


大量の女性達が働いていた。


元難民。


元孤児。


元奴隷。


皆。


職人。


誇りを持って働いている。


ミーナ達は呆然とする。


「……こんな場所……」


教師が笑う。


「あるんですよ」


「変わった世界には」


そして。


すぐ実技。


紡織機。


普通なら。


初心者は何日も失敗する。


だが。


違った。


スキル覚醒者。


理解速度が異常。


糸を見る。


流れを見る。


織る。


一時間後。


布完成。


周囲が静まる。


柔らかい。


厚い。


吸水性。


さらに。


独特の編み。


教師が目を見開く。


「……これ」


「新構造だ」


ミーナが震えながら言う。


「身体を拭く布です」


「柔らかい方がいいと思って……」


周囲が固まる。


この世界。


タオル文化。


存在しない。


布は。


服。


包帯。


雑巾。


その程度。


だが。


これは違う。


“生活を快適にする布”。


教師が呟く。


「……革命だ」


別教師。


「風呂文化と組み合わさる……」


「爆発するぞこれ……」


ミーナ達は顔を見合わせる。


不安。


恐怖。


でも。


笑っていた。


生まれて初めて。


未来を見た顔だった。


その日の夜。


工房外。


雪が降る。


ミーナは空を見る。


隣。


ピーター。


ミーナが小さく言う。


「……私」


「初めて」


「明日が来るの楽しみです」


ピーターは少し照れたように笑う。


「それなら良かった」


それだけ。


甘い言葉も。


特別な態度もない。


でも。


ミーナには分かった。


この人は。


誰かを支配しない。


ただ。


“循環”を始める。


人が育つ環境を。


作るだけ。


遠く。


工房の灯り。


雪の街。


そして。


新しく生まれた布。


タオル。


それは。


ただの布ではなかった。


人が。


人らしく生きるための。


文明だった。







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