136話:鉄
帝都。
改革は。
ついに。
“国家機能”そのものを書き換え始めていた。
朝。
帝都東区。
巨大な鐘が鳴る。
以前は徴税や警戒の合図だった。
今は違う。
始業の鐘。
学校開始の鐘。
広場に。
大量の若者達が集まる。
鍛冶志望。
木工志望。
鉱山志望。
魔道具職人志望。
その数。
数千。
皆。
目が違った。
死んだ目ではない。
未来を見る目。
鍛冶学校。
それが。
帝都各地で量産され始めていた。
理由は単純。
鉄が足りない。
いや。
正確には。
“加工できる人材”が足りない。
農地拡大。
建築ラッシュ。
ゴーレム製造。
武器防具。
全部。
鉄を食う。
帝国は。
産業革命前夜だった。
巨大鍛冶校舎。
中庭。
熱風。
炉。
槌音。
響き続ける。
教師が叫ぶ。
「火を見るな!」
「鉄を見ろ!」
「色を見ろ!」
「音を聞け!」
若者達が槌を振る。
以前なら。
こんな高度教育。
職人の秘匿技術だった。
今は違う。
共有する。
育てる。
全体を強くする。
それが。
新しい帝国だった。
すると。
鍛冶場の一角で歓声が上がる。
一人の青年。
土属性魔力が爆発した。
地面が割れる。
石が浮く。
教師が驚愕する。
「掘削スキル……!」
周囲がざわめく。
それだけではない。
別の場所。
別の若者。
地中構造把握。
鉱脈探査。
岩盤圧縮。
次々発現。
掘削系。
鉱山系。
採掘系。
大量覚醒。
理由は明白だった。
帝都全体が。
“鉄を必要としている”。
環境が。
人を育てた。
必要が。
才能を呼び起こした。
数日後。
帝国鉱山局。
報告書。
山積み。
官僚が震える。
「新規掘削スキル保持者……」
「三千七百名突破……」
別の官僚。
「複数スキル保持者も急増しています」
「掘削と土属性」
「鍛冶と火属性」
「建築とゴーレム」
「組み合わせが……」
声が止まる。
異常だった。
以前。
一つスキルがあれば天才。
今。
二つ三つ。
普通に生まれる。
なぜか。
教育。
魔力循環。
魔力操作。
魔力吸収。
そして。
帝都全体の巨大魔力循環。
さらに。
皇帝スキル。
国家規模補正。
全部重なった。
帝都民。
ほぼ全員覚醒。
歴史上。
存在しなかった状況。
皇居会議室。
レオハルトが資料を見て絶句していた。
「……帝都全体の覚醒率」
「九六%……?」
行政官が頷く。
「はい」
「未覚醒者もほとんどが幼児か高齢者です」
レオハルトは深く息を吐く。
あり得ない。
国家そのものが変異している。
そこへ。
皇帝が現れる。
周囲が跪く。
老皇帝。
以前より。
明らかに威圧感が増していた。
皇帝スキル。
国家統治補正。
本人の存在感そのものが変わっている。
だが。
以前のような圧迫感ではない。
安心感。
巨大な柱のような感覚。
それがあった。
皇帝は静かに言う。
「ピーター」
「どう見る」
ピーターは少し考える。
そして答えた。
「……教育速度が限界を超え始めています」
「教師不足です」
皇帝は頷く。
「やはりか」
ピーターは続ける。
「今後は」
「地方都市です」
「帝都だけ変わっても意味がありません」
レオハルトも同意する。
「物流も限界だ」
「魔物被害地域がまだ多い」
「地方が止まれば帝国は回らない」
皇帝は目を閉じる。
長い沈黙。
そして。
決断する。
「行け」
「次の都市へ」
「帝国を広げろ」
ピーターは頭を下げた。
その日。
引き継ぎ会議。
帝都行政官。
帝国教師団。
新任官僚。
大量参加。
以前なら。
混乱した。
今は違う。
行政スキル。
教導スキル。
鑑定スキル。
全体効率が異常に高い。
仕事が早い。
正確。
さらに。
互いを補完する。
ピーターが説明する。
「教育班は三区分」
「農業」
「戦闘」
「行政」
「教師を必ず混成してください」
官僚が即座に理解する。
「相互補完ですね」
「はい」
「単一教育は限界があります」
「複数視点が必要です」
教師達も頷く。
既に。
皆。
理解している。
グロマール式。
一部の英雄ではない。
全員育成。
それが国家を強くする。
会議終了後。
皇居中庭。
出発準備。
教師団。
数百人。
転移陣周辺に整列。
ピーターが最後確認をしていた。
そこへ。
レオハルトが近づく。
「本当に行くのか」
ピーターは笑う。
「止まれませんから」
レオハルトも苦笑する。
その時。
皇帝一家が現れた。
レオハルトが驚く。
皇后。
皇女。
皇子。
全員。
魔力が違う。
ピーターが鑑定する。
そして。
息を呑む。
全員。
指導者系スキル。
統率。
補佐。
外交。
管理。
治政。
皇帝一家そのものが。
国家運営特化へ変化していた。
レオハルトが呟く。
「……ここまでか」
皇帝は静かに言う。
「血ではない」
「環境だ」
「役割だ」
「責任だ」
まさに。
グロマール理論。
人は。
置かれた環境で変わる。
皇帝は。
ピーターの前へ立つ。
周囲が静まる。
老皇帝。
深く頭を下げた。
帝国最高権力者が。
教師へ。
謝辞。
周囲が凍る。
「感謝する」
「帝国を救った」
ピーターは慌てる。
「や、やめてください!」
「僕は……」
皇帝は遮る。
「違う」
「お前達教師が」
「帝国を変えた」
教師達が涙を堪える。
誰も。
こんな日が来るとは思わなかった。
学ぶこと。
教えること。
それが。
国家を変える。
そんな世界。
存在しなかった。
その後。
巨大転移陣。
起動。
青白い光。
次の都市。
帝国北部。
魔物大量発生地域。
防壁都市グランゼル。
農地崩壊。
物流停止。
魔物被害。
死者多数。
旧時代なら。
討伐隊を送るだけだった。
今は違う。
教育を送る。
教師。
行政。
物流。
戦闘。
全部まとめて送る。
転移直前。
レオハルトが言う。
「次は戦場だぞ」
ピーターは頷く。
「はい」
「でも」
「変えられます」
その目。
もう。
泣き虫の少年ではない。
教師だった。
光が爆発する。
転移。
次の瞬間。
吹雪。
冷気。
血臭。
そして。
遠く。
巨大な咆哮。
魔物都市。
グランゼル。
城壁外。
数百の魔物。
兵士達が疲弊していた。
そこへ。
教師団。
到着。
兵士達が驚く。
「……子供?」
「教師?」
「なんだあれは……」
ピーターは前へ出る。
鑑定。
索敵。
即座に状況把握。
被害区域。
魔物密度。
防壁強度。
兵站。
全部見える。
そして。
静かに言った。
「まず」
「狩り部隊を作ります」
周囲が呆然とする。
この状況で。
だが。
教師達は既に動いていた。
戦闘適性。
索敵適性。
治癒適性。
全部分類。
十人一班。
役割分担。
連携。
以前の帝国軍より。
遥かに合理的。
吹雪の中。
ピーターは空を見上げる。
遠い。
グロマール領。
だが。
繋がっている。
教育。
循環。
信用。
それは。
もう。
世界規模で広がり始めていた。




