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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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124話:学びたい

ベルセリア王国。


北方第三都市。


夜明け前。


空はまだ暗い。


雪も残っている。


しかし。


学校の前には、すでに長い列が出来ていた。


子供ではない。


大人たちだった。


農民。


職人。


元兵士。


市場商人。


荷運び。


洗濯女。


炊き出し係。


治癒院補助員。


以前なら。


“学ぶ”という行為は貴族のものだった。


平民は働くだけ。


読み書きなど不要。


そう言われ続けてきた。


しかし今。


人々は知ってしまった。


学べば変わる。


文字を覚えれば騙されない。


魔力循環を覚えれば寒くない。


魔力操作を覚えれば働ける。


教育を受ければ、生きられる。


だから。


人々は並ぶ。


朝より早く。


仕事より前に。


学校へ。


入口前。


ピーターが静かに列を見ていた。


吐息が白い。


隣にはフィリア王女。


さらに治癒教師ミリア。


索敵教師。


識字教師。


農業教師。


多くの教師たち。


フィリアが呟く。


「……増えています」


昨日より多い。


一昨日より多い。


毎日増えている。


ピーターは小さく笑った。


「学びたいんですよ」


「みんな」


その言葉に。


王女は静かに目を閉じる。


以前のベルセリアでは。


民は“耐える存在”だった。


しかし今は違う。


人々が、自分から動いている。


命令されていない。


脅されてもいない。


それでも並ぶ。


未来を掴むために。


学校の鐘が鳴る。


扉が開く。


民衆が入っていく。


その時だった。


王宮側から、大きなざわめきが広がる。


「また覚醒者だ!」


「鑑定持ち!」


「教導までいる!」


「行政スキル!?」


驚きの声。


最近、ベルセリア王宮内部で異変が起きていた。


大量覚醒。


しかも。


高位スキル。


以前なら考えられなかった。


原因は明白。


教育。


魔力循環。


魔力操作。


魔力吸収。


そして識字。


環境が変わった。


結果。


才能が表に出始めた。


王宮訓練場。


数百人が整列していた。


兵士。


騎士。


文官。


侍女。


料理人。


警備兵。


以前なら単なる“職員”だった人々。


今は違う。


鑑定。


教導。


行政。


調理。


仕立。


剣技。


槍技。


格闘。


聖騎士。


剣聖。


次々とスキルが発現していた。


王宮全体が騒然としていた。


一人の老文官が震える。


「こんなことが……」


「歴史書にも存在しない……」


隣の識字教師が静かに答える。


「存在しなかったんじゃない」


「教育が無かっただけです」


その言葉に。


老文官は沈黙する。


全部、繋がってしまう。


平民が無能だったのではない。


才能が無かったのでもない。


教わらなかっただけ。


その現実は。


旧秩序を根本から壊していく。


フィリア王女は、新たな覚醒者たちを見ていた。


そして。


決断する。


「……学校を増設します」


周囲が静まる。


王女は続ける。


「教師が足りません」


「ならば」


「育った者が教える側に回るべきです」


ピーターが静かに頷く。


それが循環。


教育が教育を生む。


環境が人を育てる。


その構造が完成し始めていた。


数日後。


都市各地で工事が始まる。


学校建設。


土属性覚醒者たちが動く。


石壁。


床。


机。


椅子。


窓。


全部を高速建築。


以前のベルセリアなら数年かかった。


今は数日。


理由は単純。


教育されているから。


建築教師が指示を飛ばす。


「基礎固定!」


「重量分散!」


「壁面強化!」


土属性覚醒者たちが動く。


石が持ち上がる。


整列。


固定。


建物が立ち上がる。


周囲の民が息を呑む。


「……早い」


「もう出来るのか」


さらに。


仕立スキル持ち。


調理スキル持ち。


行政スキル持ち。


大量の覚醒者たちも働き始める。


仕立師たちは防寒服を量産。


調理師たちは大量炊き出し。


行政持ちは帳簿整理。


識字教師補助。


物流管理。


全部が噛み合い始める。


王女は、その光景を見ていた。


以前のベルセリアでは有り得なかった。


才能ある者は貴族だけ。


そう思われていた。


しかし今。


平民。


農民。


侍女。


炊事係。


荷運び。


彼らが国家を支え始めている。


王女は静かに呟く。


「……人は」


「ここまで変われるのですね」


その頃。


訓練校。


剣技覚醒者たちが指導を始めていた。


若い兵士が叫ぶ。


「腰を落とせ!」


「魔力を流しながら振れ!」


木剣の音。


槍技教師もいる。


格闘教師もいる。


さらに。


聖騎士適性者。


剣聖適性者。


以前なら国家機密級だった才能。


今は民へ教えている。


理由は単純。


独占しないから。


教育は広げるもの。


それがグロマール思想だった。


広場。


さらに別の学校。


識字教育。


大人たちが机に向かう。


手が震えている。


文字を書く。


遅い。


歪む。


それでも書く。


名前。


自分の名前。


老人が涙を流した。


「……初めて書いた」


「自分の名前を……」


周囲も静まり返る。


その空気を。


ピーターは遠くから見ていた。


彼は知っている。


文字は知識。


知識は選択。


選択は自由。


つまり。


教育は、人を“支配されない側”へ変える。


それこそ旧秩序が恐れていたものだった。


その時。


フィリア王女が現れる。


静かに教室を見渡す。


老人。


農民。


母親。


元兵士。


皆、真剣だった。


王女は胸を押さえる。


以前の自分なら理解できなかった。


民は命令される存在。


そう思っていた。


違った。


人は。


学びたかった。


機会が無かっただけ。


フィリアは静かに頭を下げた。


誰にも見えないように。


小さく。


「……申し訳ありませんでした」


その言葉は。


過去のベルセリアへ向けた懺悔だった。


夜。


学校の灯が街に並ぶ。


雪国の夜。


以前なら暗闇だけだった。


今は違う。


窓の中に光がある。


声がある。


笑いがある。


学びがある。


子供だけではない。


大人たちが机に向かっている。


未来を取り戻すように。


必死に。


文字を書く。


魔力を流す。


計算する。


理解する。


環境が変わる。


人が変わる。


そして。


変わった人が、また次を育てる。


ベルセリア王国は今。


確かに“教育国家”へ変わり始めていた。







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